「女性用成人向け漫画家、諸星つきみがお送りする前回のあらすじ! 私、諸星つきみは『バラローズ』という漫画雑誌で女性用成人向け漫画を描いている、新進気鋭の漫画家。先日私は業界最大手の漫画雑誌『バッキンガム・レジェンド』の編集長から引き抜きの話をもらったんだけど、固辞したわ。もちろん、バラローズが好きだからってのも理由の一つなんだけど、それ以上に私には、バラローズを離れるわけにはいかない理由があるの。あれは私が大学生の時、私の父が、ある日突然失踪したのよ。その父が失踪する前日に呟いていた一言が、『バラローズ……』だった。どの道将来は女性用成人向け漫画家になることを夢見ていた私は、バラローズで漫画を描くことを固く誓ったわ。そして私は今、バラローズの看板漫画家になっている。……あれから合間を縫ってバラローズ編集部内で父の手掛かりを探しているんだけど、一向に父の足取りは掴めていないのが現状。でも今日、バラローズ編集部の清掃員の中年男性で、首筋にほくろが付いている人を見掛けたの! 男性の顔はマスクと帽子で隠れて見えなかったけれど、父もあの位置にほくろが付いていたわ。何としても、私はあの男性の素性を明らかにしてみせる! そして、沙魔美と一つになった堕理雄は、どれくらいチョコを貰えるのかしら? それでは後半をどうぞ」
「さっきのピンポーンは諸星先生だったんですね!? そしてまさかの二回目のあらすじ担当ですか! マジで俺らのよりも、そちらの話のほうが気になるんですがそれは……」
「うふふ。はいこれ、チョコレートどうぞ」
「え!? あ、ありがとうございます。わざわざすいません」
「ではまた
「先生!? それは困りますよ! 先生! 先生ー!!」
行ってしまった……。
ピンポーン
ヌッ!?
間髪入れねーな!
今度は誰だ?
『私の予想だと、そろそろあの子が来る頃ね』
「あの子……って?」
『ドアを開ければわかるわよ』
まあ、それもそうか
俺は今日だけで何度目かわからない、玄関のドアを開けた。
「はいはーい、どちらさまでしょうか?」
「お兄さん! ハッピーバレンタイーン!」
「真衣ちゃ……ん?」
俺の目の前には、俺の身長より少し低いくらいの、大きな縦長の段ボール箱がそびえ立っていた。
あ、デジャブ……。
「えへへー、私ですよ!」
段ボール箱の陰から、ヒョコっと真衣ちゃんが顔を出した。
俺の妹は、今日も可愛い。
『やっぱりマイシスターだったわね。そして考えることは私と一緒みたいね』
ってことは、これはやっぱり……。
「お兄さん! 今日が何の日か知ってますか?」
「え? えーと……」
さっきハッピーバレンタインって自分で言ってたけどね。
『さっきハッピーバレンタインって自分で言ってたけどねって言ってあげて。このエターナル胸ぺったんシスターに』
ツッコミが被った!
「それに言えるわけねーだろ! エターナル胸ぺったんシスターなんて!」
「え……お兄さん、今、何て……?」
「あ」
やっちまった。
「お、お兄さんもやっぱり私のことを、そんな風に思ってたんですね……。う……うぐっ」
真衣ちゃんは今にも泣き出しそうな顔で、歯を食いしばっている。
「いや、違うんだよ真衣ちゃん! そういう意味じゃないんだよ! それにほら、偉大な先輩も『貧乳はステータスだ! 希少価値だ!』って言ってるし」
「私はそうは思えませんッ!!」
『プークスクスクス。堕理雄がどんどん墓穴掘っていくわ』
誰のせーでこーなってやがると思ってんだ!!
お前マジで後でビンタだかんな!!
「そ、そーいえば、ちょっとお腹が空いたなー(棒)。どこかに甘いものでもないかなー(棒)」
「え!? 甘いものですか!? それは奇遇ですねえ! よかったらこれをどうぞ!」
真衣ちゃんが段ボール箱を開けると、案の定そこには等身大の、真衣ちゃんの形をしたチョコレートが入っていた。
さっきも似たようなの見たな……。
っ! いや、待てよ。
『うわあ。このチョコ、胸のところだけメッチャ巨乳にしてあるわ……。どうしよう、お姉さん泣きそう』
……お兄さんも泣きそうだよ。
「……ありがとう真衣ちゃん、とっても嬉しいよ。でもここじゃなんだから、とりあえず部屋の中に運ばせてもらうね」
「はい! 私も手伝います!」
俺と真衣ちゃんは二人で、ぱいぱいでか真衣ちゃんチョコを部屋に運んだ。
まさか一日二つも等身大チョコを貰うとは……。
まあ、テニ〇リのキャラは、これの比ではないくらいチョコ貰ってるけどね。
「お兄さん! あの、あの……早速ですけど、このチョコ、食べてもらえませんか?」
「あ、うん。じゃあ、いただきます」
しかし、当然だが全部は食べきれないよな。
「できれば……この部分を食べてほしいんですけど」
「え?」
真衣ちゃんは、ぱいぱいでか真衣ちゃんチョコの、唇の辺りを指差した。
え……それはちょっと……。
「もしあれでしたら、軽く唇を付けるだけでもいいので!」
「……」
それは流石に、絵面がヤバくない?
『却下よ。いくら可愛いマイシスターでも、超えてはいけない一線を超えてしまったら、相応の報いを受けることを教えてあげるわ。一生バストサイズが変わらなくなる魔法を掛けてやろうかしら』
「(沙魔美! それはやりすぎだろ!)」
俺は真衣ちゃんに聞こえないように、小声で沙魔美に言った。
『そうね。そんな魔法使わなくても、マイシスターはエターナル胸ぺったんだったわね』
「(そういう意味じゃねえ!)」
「お兄さん? どうかしたんですか?」
「あ! いやいや、何でもないよ! ははは」
「?」
ボッガーン
「「ファッ!?」」
「パパ―、ハッピーバレンタイーン」
「多魔美!?」
多魔美がクローゼットを破壊して、中から飛び出してきた。
本当に悪いところばっかり、母親に似てしまっている!
「アタチもいるよ」
「マヲちゃん!?」
多魔美の後ろから、マヲちゃんが顔を覗かせた。
「なんで一緒にいるの!?」
「前にパパのバイト先で会ってから、マヲ叔母ちゃんとはよく一緒にパンケーキとか食べに行ってるんだ」
「もう! 多魔美ちゃん、叔母ちゃんて呼ばないでっていつも言ってるでしょ!」
「あ、ごめんねマヲ叔母ちゃん」
「もうッ!!」
そっか。
マヲちゃんも自称俺の妹だから、多魔美の叔母さんになるのか。
マヲちゃんは見た目は幼稚園生くらいだから、並んでると多魔美のほうがお姉さんに見えるけどな。
相変わらず人間関係がややこしすぎる……。
あと、みんなパンケーキ食べに行きすぎじゃね?
さては作者は、女の子が好きな食べ物、パンケーキくらいしか知らないな?
「あ、真衣叔母ちゃんもいる」
「叔母っ!? ……まあ、叔母ですけど」
「私達三人共、みんな似たような体型だね。『ちっこいズ』っていうユニット作ろうか?」
「イヤですよ! こう見えて私は、高校三年生ですよ!」
……。
叔母さん二人と姪っ子がじゃれ合っている。
傍からは公園の砂場とかで、近所の子供同士が遊んでるようにしか見えないだろうが……。
「あれ? ママもいるんだ」
「え!?」
『流石ね多魔美。血は争えないわね』
魔女の、あるいは母子の血が、俺の中の沙魔美を察知したのか!?
「ハッ!? 悪しき魔女もいるんですか!? また魔法で隠れてやがるんですね! 出て来なさい!」
『アララ。多魔美、あなたが余計なこと言うから、事態がややこしくなっちゃったじゃない』
「ごめんねママ。まさかそんなことになってるとは思わなくて」
お前ら会話できるの!?
『魔女同士は念話が使えるからね』
ああそうか。
あったね、そんなのも。
「悪しき魔女! いるなら早く出て来なさい!」
『多魔美、マイシスターに、そんなにプリプリしてると、また洗濯板オブザイヤー受賞しちゃうわよって言ってあげて』
「真衣叔母ちゃん、ママが『三年連続、洗濯板オブザイヤー受賞おめでとうございます』だって」
「クソがあああああ!!!!」
マジで伝えた上にバフまで掛けてやがる!
親の顔が見たいぜ!
本当にごめんね真衣叔母ちゃん!
可愛い姪っ子の言うことだから、許してくれるよね?(希望的観測)
「ねえねえ多魔美ちゃん、お兄ちゃんに渡すものがあるんでしょ?」
「あ、そうだったねマヲ叔母ちゃん」
「もう!」
「はいパパ、これ」
「え?」
多魔美が指をフイッと振ると、俺の目の前に多魔美とマヲちゃんの等身大チョコが出現した。
今日だけで四つも等身大チョコが届いたよ!?
どっかの蠟人形の館みたいになってて、スゲー不気味なんですけど!?
「ちょっと! 最初に等身大チョコを持ってきたのは私ですよ! 真似しないでくださいよ!」
『最初に持ってきたのは私だって、マイシスターに言ってあげて、多魔美』
「最初に持ってきたのはママだし、洗濯板親善大使就任おめでとうございますだって」
「クッソがああああああ!!!!!!」
娘のバフがとどまることを知らない!
『流石私の娘。将来は立派な女王様になること請け合いね』
「俺は平凡でもいいから、人の痛みがわかる子になってほしかった」
切実に。
「じゃあパパにチョコも渡したし、今から三人でパンケーキ食べに行こっか、真衣叔母ちゃん、マヲ叔母ちゃん」
「え!? 待ってくださいよ! お兄さんに私のチョコの唇を奪ってもらうまでは――」
「もう! 多魔美ちゃん! アタチ今日『もう!』しか言ってないじゃない!」
「じゃーねーパパ―。また来るねー」
「ちょ、ま」
「もうッ!」
多魔美が指をフイッと振ると、ちっこいズの三人は俺の前から姿を消した。
大方、原宿辺りにでも行ったのだろうか?
『なかなか楽しいバレンタインデーだったわね、堕理雄』
「これを楽しいと言えるお前の面の皮は、オールマ〇トの胸板より厚いよ」
……さてと、どうしたものかな。
俺は目の前の三体の蠟人形……もとい、愛情たっぷりのバレンタインチョコを眺めながら、途方に暮れていた。
流石にこの量は食べきれない(そもそも、多魔美とマヲちゃんはともかく、真衣ちゃんはどうやってこれを作ったんだろう?)。
かといって捨てるのは忍びないしな……。
「なあ沙魔美、このチョコ、さっきみたいに魔法で一口大にしてもらえないかな?」
『そうしたいのはやまやまなんだけど、ちょっと今は無理かも』
「え? なんで?」
『私がいよいよ消化されてきたみたいで、そろそろ堕理雄から出そうなのよ』
「えっ!? 出るって……そ、それはマジで待ってくれよ!」
『無理無理。あー、出る。出る出る。堕理雄のやおい穴から出る』
「だから俺にやおい穴はねーって! 頼むから少しだけ待ってって!」
『あー、出る。出る出る出る。あー、あー』
「お客様お客様お客様!! 困ります!! あーっ!!! お客様!! 困ります!! あーっ!!! 困ります!! あーっ!!!! 困ります! お客様!! 困ります!! あーっ!!! あーっお客様!!」
アッー!(何だこのオチ)