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4 その選択権は皆無

 ──何やら、あの女性軍人の母親は若くして夫を喪い寡婦になったらしい。


 そうして、このザフィーア修道院に娘……あの女性軍人を連れてやってきたという。

 喋り方からしてシュタール人。きっと国を跨いだのだと分かるが、彼女は詳しい事情を話さなかった。

 語らぬ事は聞かず慈愛の心で受け入れる。それが修道院のあり方だ。


 そして、彼女の母親はこの修道院で修道女となった。しかし、修道女となった母親は四十代半ばで病に倒れ急逝。それから暫くして親戚がやって来て、当時十五歳だった娘を引き取ったという。


 それから数年後、彼女はシュタール軍に入り技術者になったのだと……。


「あの子はとても立派ですよ。今では准士官だそうで。軍に入ってから、修道院に毎年寄付金を送ってくれたものです。ですが、軍法を破ってまで、兵器を匿うだの正気の沙汰とも思えません。当然、私も断ったのですがね。それでも、旧知の友の娘。私にも思い入れがあって、願いの一つくらい聞いてあげたくなったもので……」


 つまり、定期的に寄付金を送られてきたので上手く断れなかったのだろうと、すぐに理解する。


 しかし、軍法破りの手助けなど流石にまずいだろう。

 アルマは心底呆れて目を細めた。


 いや、本当に院長はどこまでも人情あって優しいとは思う。だが、修道院まで巻き込まないで貰いたい。そう思うが面と向かって言えやしない。


「つまり……私に頼む理由は、他の子より力が強いからですか? 万が一にも彼が攻撃した時に、私なら自衛出来るからって事ですよね?」


 まどろっこしいのも面倒なので、思ったままをけば院長は黙って頷いた。


「それって危険を伴うって意味じゃないですか。相手はアルギュロス最悪の兵器ですよ! 力なんて滅多に使うものじゃないですし、火曜は殺傷力を持つほどの力を持つとはいえ、私が機甲マキナに対抗できるはずないですよ」


 あちらは人殺しのために作れてた生き物。それに修道院や孤児院の子供たちに害が無いとは言い切れない。たとえ、いくら人のように話せるとはいえ、危険に決まっている。

 ……今からでも、断るべきだ。


 アルマは強く訴えるが、院長はアルマの言葉が止と、静かに息をつく。


「……が決まっているそうなんです」


「……廃棄」

アルマは復唱して、息を飲む。マルゴット院長はアルマを一瞥して頷いた。


「ええ。人と変わらぬ感情を持つ彼の廃棄が決まった事を彼女は不憫に思ったのでしょう」


 ……感情があるが故、戦争によって心がひどく傷付いてしまった事。重度の不眠を患い、心に障害を抱えている事。特性上、自死ができない事。


 壊されるまで戦場に立たせ、戦わせる。それが機甲マキナと。


 しかし、彼は最新のものに比べて劣り壊れかけ。戦場に立たせて戦わせ続けるには、それなりの労力が必要になるそうだ。

 そもそも機甲マキナというのは、たった数年でとてつもない進化を遂げているそうで……。


 彼は最も古いらしい。


 彼についての話をマルゴット院長は静かに話した。


 廃棄とはつまり……〝殺せ〟と言う事か。

 アルマは改めて理解した途端に、背筋にひやりとしたものを感じた。


「貴女が、力を抑制できるのと同じ。彼も力を抑える事ができます。貴女に頼るのはの為です。機甲マキナは水や電気に弱いそう。貴女は彼の弱点である雷の超常力を扱えます。充分に太刀打ち出来るだろうと、エーデルヴァイスをよく知る彼女からそう説得させられました」


 ──無敵の軍とはいえ、神に祈る場を土足で踏み入る訳がない。それにここは霊峰の神秘が残る地。ここで匿えば追われる事もなく済む。終戦を迎えたら、フェルゼン公国に彼を亡命させるらしい。


 院長は重々しく唇を動かして語り続けた。

 あまりに重苦しくも、真摯な口調だったのでアルマは返す言葉も見当たらない。


「でも……」


 あまりに唐突だ。どうして自分が。それに、隠蔽の手助けなんてやはりどうにかしている。と続けて言葉を出したいが、喉をつっかえて言葉が詰まる。


「……貴女には悪いとは思っています。アルマに大きな負担が掛からぬよう、私も責任を持って援助します。お願いです、アルマ。どうか」


 真っ直ぐに視線を向けて言われるので、もはや肯定する他が無かった。否、されてしまったという方が正しいだろう。困惑しつつ頷くと、院長は安堵した顔をする反面、心底申し訳無さそうに詫びを入れた。

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