「奴を倒すぞ、力を貸せ。これを投げて、動きを封じるんだ」
それを見て、
「
しかし九天が
「雷先、やっぱりこっちに来てはだめ。私は消えても構わない。姉さんは間違っているわ」
六合は、九天の
「どちらが正しいか、今すぐ判断する必要はありません。九天様も、もう帰るおつもりです。ここは
そう言って手を放し、九天の
「申し訳ありません、すぐに止めさせます」
しかし九天は
「魔星たちが
そして、
雷先は、それ以上何も言うことはなかった。
鋼先は、百七星に向けて声を張り上げた。
「どんどん投げろ。
しかし、絡まってはいるものの、九天の動きを停めるには至らない。九天は手を払い、
鋼先は
「あたしが行く。鋼先は、なるべく出ないで」
李秀は
「あっ、李秀」
萍鶴が叫んだが、李秀は宙返りして着地し、親指を立てて見せた。萍鶴も、血に塗れた手で親指を立ててほほ笑む。
九天はまだ近くない。萍鶴は、雷先の残した棒に筆を
萍鶴は悔しがったが、ふと思いついて、筆に血を含ませた。
「李白さんのように、言葉で止めるのはどうかしら?」
そう言って筆を二度、大降りする。九天がそれも布で受け止めたが、現れたのは二句の詩だった。
造新不暫停、一往不再起
――命は生まれ続けるもの。
「私の先祖、
「くっ……!」
それを見た九天の表情が、一瞬だけ蒼白に変わる。鋼先は、それを見逃さなかった。
その時、
「やっと縄を解けたぞ。おい、一体何が起きている?」
「よかった、自力で出てきてくれたか。これで戦力も増す」
応究が鋼先を見つけて向きを変えたとき、しかし、九天が
「ぐっ! きゅ、九天様、なにを?」
「お前たち父子は、人の祈りを私に集めるために必要だ。殺しはせぬ、少し寝ていろ」
九天は吐き捨てるように言い、弾弓を下げると、手を払って衝撃波を打ち込んだ。
「うわああっ! ど、どうして……?」
応究は、遠くに吹っ飛ばされながら、疑問に満ちた顔で気を失った。
「ああもう、察しが悪い人だ」
鋼先が、ため息をついて
「萍鶴さん、お願いします!」
フォルトゥナが、
萍鶴は
それを見て、百威が言う。
「いい手がある、ちょっと待ってろ」
そしてさっと飛んで行ったが、その後すぐに三人の男が、九天を
「そうか、本物がいたんだ」
天微星が、フォルトゥナにほほ笑んだ。
「久しぶりだな。力を貸すぜ、あいつをぶっ飛ばそう」
「はい!」
天微星が入ると、フォルトゥナはたちまち
九天は
「いくら魔星の力を借りたって、ただの人間が神に敵うと思うかい?」
九天は、弾弓でフォルトゥナを撃つ。フォルトゥナは、一発を刀で受けたが、その部分が丸く
「当たるわけには、いかないですね!」
フォルトゥナは、弾道に乗らないよう、大きく左右に揺れた。九天は狙いづらくなり、舌打ちをする。
悔しそうな九天に向けて、李秀が叫んだ。
「神だったら、こっちにもいるってことよ。運命の女神がね!」
「若くてかわいいのが、三人もな」
鋼先が、笑って
九天が鋼先をにらみ、眉をねじ曲げて言った。
「わからないね。死ぬことがない私には、若いとかいう概念もないな」
「どうかな。充分悔しそうに見えるがね、おばさん」
「黙れ、小僧」
矛盾した言い回しで、九天は鋼先との口論を打ち切った。
その間に、フォルトゥナは高く跳び、上空からきりもみ回転して
「ふんっ」
しかし、九天はそれを
李秀も双戟で切り込み、上空からは百威も急降下したが、九天は瞬間移動のように跳び躱し続け、一撃も当たらない。
そして九天は、巻き付いていた縄の一本をおもむろに投げた。
「しまった」
その縄は、鋼先の左手を絡み取っていた。鋼先はたちまち
「ぐうううっ!」
鋼先は追魔剣を打ち付けて抵抗するが、手は
「鋼先! 今いくよ!」
李秀は九天に突進するも、衝撃波を食らって転倒する。百威も、呉文榮も、フォルトゥナも挑むが、衝撃波に
萍鶴が呼びかけた。
「みんな、縄を引っ張って!」
魔星たちは
魔星たちは、大声で呼びかける。
「天魁星の兄者、しっかり!」
「兄貴!」
「兄者!」
「頑張れ道士!」
「兄者ああ!」
「兄者っ!」
「兄者!」
「しっかりしろ、
「兄貴!」
「あにきいいい!」
「兄者!」
「教えた
「兄貴!」
「兄貴ッ!」
「兄者あ!」
「お
「兄者!」
「兄貴イッ!」
「兄貴!」
「兄者!」
「兄者あ!」
「兄貴!」
「鋼先!」
「兄者あああ!」
「兄貴ー!」
魔星たちが
「お前には説得の方が効くかな、賀鋼先。――考えてみろよ、私の何が間違っている? お前も、
九天は、すべてを
「こ、鋼先……!」
収星陣が、張天師が、百七星が、そして西王母たちが、息を飲んで鋼先を見つめた。何の力も無い若者に、すべてを
鋼先は、目も
(最後の最後まで、楽じゃないな)
と苦笑した。
「どうだ賀鋼先、考えを改めるなら、許してあげるよ」
九天は、覗き込むように鋼先を見る。
「――この二年間で、いろんな相手と戦った、俺なりの勘だが」
鋼先が、声を
「ふむ」九天が興味を示す。
「お前の本心は、天界を
――強い力を持った奴ほど、その力に
鋼先は、口元でわずかに笑った。九天の顔が瞬時に
「何を言う。違う、違うぞ! そんなことはない!」
九天はまなじりを
「これは?」
ぐいと開けると、鋼先の胸元まである帯の中に、鏡が入っていた。彼女の顔が映り、『九天玄女』の文字が見える。
九天は勢いよく
「何かと思ったら、
そして、
「ち、
「天魁星の頑丈さも、直撃を食らえば紙のようなものだろうね」
九天は、鋼先の胸に掌をかざす。鋼先は、目に涙をためて言った。
「……どうして俺が、こんな目に
それを聞いた九天は、ふと我に返り、目を
「確かに、その通りだね。賀鋼先、この収星の旅は、君でなければ無理だったろう。心から感謝させてもらうよ、ありがとう」
鋼先は、抑えられたまま首を振った。
「こんちくしょう、まるで分かっちゃいねえ! もういい、好きにしろ!」
そう言ってそっぽを向いた鋼先に、九天は笑う。
「結局最後は、
そして、再び掌をかざし、
その爆煙の中を、大きく
鋼先ではなく、九天玄女が。
「ぐう、うおおあああ!」
九天は、疑問に満ちた顔で
「な、なぜだ? なぜだああああああ!」
「へっ、ざまあみやがれ!」
煙が晴れ、鋼先は笑いながら、
「さっきのは、わざと見つけさせた。フォルトゥナが買った
雷先が、手を振りながら走って来る。
「やったな、鋼先!」
鋼先は、ほほ笑んで手を振り返した。
「兄貴は、あんたに近付く振りをして、
鏡を通して自分の衝撃波を食らった九天は、血まみれになりながら地面に落ちた。
「は、
到着した雷先が、強く頷く。
「ぬけぬけと芝居をして来たのは、あんたの方じゃないか。だから、俺は
「お、おのれ……!」
九天は、すがるように手を伸ばす。
雷先が、首を振った。
「あんたは、自分の力でそうなったんだ。
そのとき、大きな叫び声が上がる。
「鋼先! しっかりしろ。鋼先!」
雷先は、振り向いて
「あれは、天魁星? なぜそこにいるんだ?」
すると、九天が
「私が、賀鋼先から出したんだ。
「な、なんてことを!」
「ククク、
九天は、その隙に傷を塞ごうと、自分の腹に手を当てる。しかし、何やら地響きが起こり、
あっという間に近付いて来て、言っている内容も聴き取れてくる。
「九天玄女! よくもやりやがったな!」
「ふっっっざけやがって!」
「思い知らせてやる!」
「
「目ン玉も
怒りの頂点に達した彼らは、
「や、やめてええ! ぎゃあああああ!」
九天は、
「鋼先! 目を開けろ!」
雷先は、何度も名を呼んで弟を
「鋼先! お願い! 帰って来て!」
しかし、とうとう
「……みんな、ありがとう。もういいんだ。鋼先を、休ませてやってくれ」
そう言って、激しく
その声は、周囲に響き渡り、すぐに全員の大きな泣き声に変わった。