「……みんな、よくやってくれたよ。天界が作り物? そんなことは分かっていたさ。人間たちが考えた設定が
そう言って、九天は
「九天、もうやめて……もう……!」
「西王母は、ああやってひどく怖れていたよ。でもね、だからと言ってすぐに神の存在を捨てられるほど、人間も思い切り良くはないさ。長い間、互いに
そう言いながら、さっと跳び、鋼先に
しかし、
九天が、髪の
「
体じゅう包帯だらけの呉文榮は、九天をにらみつける。
「思い出したぞ。お前は
「あっ、
鋼先は、驚いて
向こうから、
「姉さん、一体どうしたの? 何かが取り
しかし、九天は高らかに
「おめでたいね、君たちは。……だから嫌いなんだよ、天界って。いつまでも死なないのをいいことに、だらだら生き続けて。だから、私がそれを終わりにしてやるよ。神にも死が
それを聞いて、
「そうか、神を殺す術の
「
九天は軽く舌打ちすると、矢のように走り、
「二度も言わせるな、おめでたいな。神が死ぬ
それにしても、わざわざ人界に連れ出して始末するのは困難なのでね。だから、人界の一部を天界に持ち込んだのさ」
「馬鹿な! そんなことが、できるわけないでしょう?」
倒れたまま、英貞はまだ納得しない。九天は笑って続ける。
「気が付かなかったか? なぜ今になって、この
「あっ!」
誰もが、驚きと共に、恐怖で凍り付いた。
しかし、鋼先だけは、目に光を込めて言う。
「百八星の逃亡も、あんたが仕組んだんだな。この
九天は、髪をかき上げてほほ笑んだ。
「そうだよ。托塔天王が、人界は面白いと
後ろで見ていた百七星が、
「
「蚩尤……古代の帝王、
鋼先が言うと、九天は
「伝説はすなわち、天界の現実になるんだよ。
つまり、九天が強いのは人間たちのせいである。鋼先は
「なぜ俺に、天魁星を半分だけ入れた?」
にらみつけながらの質問に、九天は軽く頷きながら答える。
「ああ、天魁星がこの
ちょっと説明しよう。天界の神や、修行して神仙となった人間の肉体は、高密度の煙のような、霊妙な組成となる。また、そういった者の魂魄は大きく、ちゃんと質感があり、触りやすい。逆に一般の人間は、肉体はしっかりしているが、魂魄は小さくて霧のように薄い。扱い方も慎重にしなければならない。
だから賀鋼先、お前の魂魄を固定しつつ天魁星の半分と繋ぐのは苦労したんだ。――先に西王母を殺した
「なに? 何の話だ?」
全員の目が、西王母を見る。西王母はまだ膝をつき、
「ふふ。――西王母は、いつも何かを怖れていた。それとなく聞き出してみると、天界が虚構であること、神が人界では死ぬことを話したよ。そこで私は、これを利用して天界を再編しようと思い立ったのさ。
さっそく西王母を人界に連れ出して、殺した。信頼されていたから簡単だったよ。だが、彼女の
鋼先が、さすがに青ざめる。
「待て。じゃあ、残りの半分はどうした?」
「ずっと私の
にやりと笑って、
「え……私? そ、そんな、姉さん……!
「な、なんてことだ……!」雷先が、六合と九天を
「そうか、
鋼先は、
九天は、両手を
「……さて、
いきなり、呉文榮が蹴り飛ばされた。次に九天は、くるりと振り返って百七星を見る。
「
それを聞いた鋼先が
「
「いや、そうでもないよ。確かに
九天は
起き上がった呉文榮が、
「一つ聞く。徐州でのあの日、拙者が貴様の正体に気付いていたら、どうなった?」
一瞬、沈黙が流れる。全員が九天を注視した。された彼女は、浅く嘆息する。
「あの時は危なかったね。ばれたら、あの場の全員殺すつもりだった。でも、また一からやり直すのは骨が折れるしねえ。だから、少し焦ったよ」
「おいおい。手数のために命拾いしたのかよ、俺たち」
鋼先が苦笑した。それを見て、呉文榮も苦笑する。
そのとき、張天師が立ち上がり、大声で言った。
「九天玄女、もう許さん。
張天師が鋭く指さすと、九天の顔色が一気に青ざめる。
「ぐ、うううっ!」
「詰めが甘かったな。そのまま
しかし、九天は両手を
「いや、もちろん憶えていたさ。
そして、手を抜いて見せた。全員が驚く。
「で、でかい
九天は、両手に持った特大の肉まんを
「しまった。空腹を満たされたら終わりだ。まあ単純な奴にしか
しかし、九天が食べている間、少し余裕ができた。
「
「そうか。
「そうだよね、鋼先。あたしも同じだよ」
「私も戦います。だから萍鶴さん、いつでもどうぞ」
フォルトゥナも言った。
まだ
「俺もやる。だが鋼先、奴とどう戦う?」
「そうだな。
鋼先は、わなわなと身体を震わせる。
絶望の刻み込まれた彼の表情を見て、百威が言った。
「……いや、待て鋼先。朔月鏡はどうだ? 楯にすれば、奴の技を無効にできるぞ」
「あっ、そうか!」
一瞬、皆の表情に光明が差した。しかし、鋼先は首を振る。
「悪くはない。が、攻めにはならねえ。……いや、持久戦に持ち込むなら、それも有りか。……いやいや、逆に危険か?」
鋼先は悩みに悩み、バリバリと頭を
またも、全員の肩が重く沈んだ。
ややあって、
「
「おい兄貴、こんなときに何だ? みんなの命が
鋼先が
「なあ鋼先、九天玄女様に従えば、お前も生き続けられる。
そう言って、雷先は歩き出した。鋼先が手を伸ばす。
「兄貴、
すると雷先は立ち止まり、振り返らずに言った。
「
「兄貴ッ!」
「鋼先、お前の気持ちは分かる。だから、俺の気持ちも分かってくれ」
悲壮な声を残し、雷先は再び歩き出す。もう立ち止まることもなかった。
「こんな時に
しかし鋼先は、そんな
「……そうか。よし、この方法なら行けるかも知れない。おい呉文榮、百威。
「何だと?」
いぶかる呉文榮に、鋼先は思い付いた策を伝える。
「……ふむ。悪くないぞ」
鋼先の意を受けて、呉文榮と百威はその場を離れた。
一方、包子を食べ終えた九天は、顔色も戻り、大きなゲップをする。そして、雷先の姿に気付いた。
「お前はこっちに来るんだね。まあそうか、六合の命も
雷先は、
「……お尋ねしたいことがあります。旅を始めた頃、いくつかの予言をいただきましたが、あれは」
刺すようなまなざしを見て、九天は
「そう、西王母の予言として伝えたが、実際は私からの誘導だった。お前たちに効率よく魔星を集めさせるための口実だよ。大きな組織のあるところに行かせただけだがね」
しかし、雷先は視線を強くして首を振る。
「そこではなく、私が死ぬという予言をされた真意をお伺いしたい」
すると、九天は薄笑いを浮かべて、重い声を出した。
「あー、それか。お前を危険に
それを聞いた雷先は、顔を伏せて言う。
「……では、天暗星がいると分かった時、私を撃った真意は?」
「
そう言って、九天は手でなだめる仕草をした。
雷先は、深くため息をつく。そして言った。
「九天様がそこまでご深謀とあらば、お願いがあります。どうか、今のこの場は
九天は、畏怖の目を向けている周囲を見渡しながら頷く。
「私に、帰れと言うんだね。
いいよ。ここでの用も済んだからね。……邪魔する奴だけちょっと片付けたら、行くよ」
六合が、そっと雷先の隣に来た。そして
九天は苦笑すると、撃ち出されたように飛び出して、張天師を高々と
「うおおっ!」
「ぐ、ぐあ、ぐうっ!」
地に落ちた張天師は、呻いて気を失った。降り立った九天は、英貞童女をにらむ。英貞はよろめく父を
「私に異論の無い者は、そこへ入りなよ。残った者だけ殺す」
西王母や英貞は、そそくさと移動する。雷先と六合も、張天師を抱えて入った。
しかし、百七星は動かない。九天の目が、
「行かないのか? そもそも、お前たちのための
先頭にいた
「天魁星の兄者が入れと言うまでは、入れませぬ。言わぬと思いますが」
天罡星の目に強い
「ふん、
そう言うや
「はは、さすがに
九天は、腰に付けていた弓を取り出し、弾丸をつがえて発射した。魔星たちは怖れおののき、
「ぐ……っ!」
萍鶴は、自分の
「地文星は、
痛みに顔を
「無茶しないで、萍鶴」
「ありがとう、李秀。私も、やれるだけやるわ」
萍鶴は、血を
無数の
「なんだ?」
九天が見ると、それらには「
「動きを封じようと言うのかい。
九天は