皆の
持てるようにはなったが、振ることができない。そこで、腕の痛みを
「フォルトゥナ、来て。私の手を取って、筆を振って」
「だめですよ、無理をしては」
そう言いながらも、フォルトゥナは言うとおりにする。
「墨を、私の
「は、はい」
フォルトゥナは、ぐいと腕を振り上げる。萍鶴は
落ちる墨を、萍鶴は自分の頬で受ける。「
「……うまく行ったわ。ありがとう、フォルトゥナ。これでみんなも大丈夫よ」
萍鶴は、鋼先たちにも
そんな日が数日続くと、ようやく皆、
鋼先が、身体を曲げ伸ばしながら笑った。
「ようやく
鋼先は
二人の顔色を見た李焼が、回復を喜ぶ。
「全員が一度に元気になるとは、素晴らしいな。そうだ、
李焼はそう言って、宿の者に頼んで宴会の準備をする。鋼先は喜んで皆に知らせた。
これまで
フォルトゥナが、少し飲み過ぎたので、庭へ出て
「……
百威は、ただ彼女を見ている。そのとき、鋼先が来た。
「百威と因縁があった地然星たちは、まだ封印が済んだわけじゃない。百威は、結果がきちんと出るのを見届けようとしているんだろう。百威だけじゃなく俺たちも、百八星全てが封印されるまで、終わりだとは思っていない。そういうことだ」
鋼先がそう言うと、百威も短くキッと鳴く。
フォルトゥナは、酔いも覚めて
◇
楽しかった一夜が明け、皆はまた出発の準備にかかる。
李秀は母のところに行き、先ほど決まったことを
「じゃあ、鋼先さんたちは、今日でお別れなの?」
「うん。みんな元気になったから、船で竜虎山へ急ぐそうよ。馬車のみんなも船に乗せたいけど、この戦乱で、大きな船は
すると沈銀は、
「そう。でも、本当にそれでいいの?」
「あ、あたし……」
それ以上言えず
「危ないことはさせたくないけど、あなたはこの旅で、ずいぶん成長したようね。だから、行きなさい。鋼先さんを
「ありがとう、母さん」
頷く李秀の頬が、涙で
翌朝、
手続きが済んだとき、
「私はもう少し李焼さんに付いて、道案内をする。竜虎山が近くなったら急いで駆けつけよう」
「分かった。みんなも気を付けて。じゃあ竜虎山で会おう」
鋼先たちは船に乗り込み、応究や李焼に手を振った。
船は五人と一羽を乗せ、
夕暮れになり、多少寒かったが、宿を取れそうな街はまだ見えない。鋼先は、
「竜虎山を出発した日を、思い出すな。あの時もこんな船だった」
すると、鋼先も笑う。
「あれからもう二年か。残る魔星もあと二つだが、なかなか現れてくれないもんだな」
鋼先を見て、李秀がやや小さい声で訊いた。
「応究さんとしばらく一緒だったけど、結局何も聞き出せなかったね」
鋼先が
「ああ。後ろに残してきたことは、多少心配ではある。だが、何かするにしても、俺たちにではないだろう。助けてくれたときの様子も
「……飛墨で、聞き出せば良かったかしら」
萍鶴がぽつりと言った。しかし鋼先は首を振る。
「そうしてもらおうと思ったことはある。だが、応究さんなら飛墨に耐えるかもしれない。それだと後が
重々しくなった空気の中で、フォルトゥナが静かに言った。
「あの、私の占いでは、『無事に終わる』って出ましたよ。だから、元気出して下さい。ほら、お魚釣れました」
そう言って彼女が釣り竿を上げると、大きな魚が船に
「うわっ、入って来るな! おい、取ってくれ!」
鋼先が
◇
焼き上がった蟹の
大雑把に食べ終わると、次の蟹をこじ開けた。空腹だったので止まらずに食べる。そうやって八匹までを平らげたあと、冷めてきた残りを再び火にかけて熱する。その間に
「おいおっさん、誰に
「代金をもらおうか。
「断る必要などあるか。ここは貴様の湖か?」
呉文榮が、つまらなそうに言い返す。
「ごちゃごちゃ言わずに金を出せ。ぶった斬るぞ」
二人は、腰に差していた
「なんだ、ただの
呉文榮は、焼いた蟹の甲羅を両手に取り、投げつけた。蟹は二人の顔面に当たり、熱い味噌が飛び散る。
「ぐあっ! あ、熱ッ! あっつ!」
「てっ、てめえ! やるってのか!」
したたかに火傷を負わされた二人が、怒って野太刀を抜く。
「よしなよ」
突然、二人の後ろに現れた人物が、彼らの腕を押さえてギリギリと
「
呉文榮は、しかし
「
そう言って、呉文榮は倒れた二人を
「魔星はいない。一月ほど前に
童子服は、
「何がおかしい」
「いや、別に。君が魔星を吸収していないってことは、あれから強くなっていないんだね。残念だなあと思ってね。もう少しで僕に勝てたかもしれないのに」
呉文榮はカチンと来てにらみつける。
「
「へえ。
童子服は、舐め回すような目を向けた。呉文榮は、驚きと共に
「なぜ貴様がそんな事を知っている!」
呉文榮は
しかし、童子服は
「ぬうっ」
呉文榮の腹部に、
「ぐううっ!」
呉文榮は腹を押さえた。しかし、ものすごい勢いで血が溢れ出る。よろけたところを捕まえ、童子服は続けて背を刺す。
さらに出血する呉文榮の身体に、童子服は
呉文榮は、倒れて目を閉じた。童子服は生あくびをしながら言う。
「思った以上に