「お主は
すると、高力士の笑いが、
「我が家は
つまり武則天に対して『政権を
高力士は当時を思い出したのか、高らかに笑った。
「こうして私は、新たな力を得たのです。この
高力士は、両手を広げて叫んだ。思っていた以上の深い恨みを知り、鋼先たちは血の気が引く。
高力士は続けた。
「表向きは、
だが次に見つけた
そして、
身をよじって笑う高力士を見て、鋼先は
「もう聞きたくないな。お前の生い立ちには同情する。だが、天下を好きにしていいわけがあるかよ。その
「なにい?」
同情すると言いながら、鋼先は
「今の言葉を
だが、鋼先は
「うるせえよ。詫びたってそうする気だろうが」
そして、
「いいでしょう、では、死になさい!」
と剣を抜き、鋼先に振りかぶった。
「かかったな」
鋼先はほくそ笑み、追魔剣で受ける。古定剣の
「これは……賀鋼先、きさま!」
「剣に魔力があるのは、こっちも一緒だぜ!」
鋼先が剣に力を込める。だが、そのとき、
一本の剣が、突き刺さっている。鋼先が目をやると、玄宗がよろよろと立ち上がっていた。残る力を振り
「お
玄宗はそう言い、どさりと倒れた。高力士は剣を引き、改めて構える。
「そう言うことです。死ね、賀鋼先!」
動けない鋼先に、古定剣が
「く、うううっ!」
魯乗は震えながら耐えた。念力が、もうほとんど出ない。
「どきなさい」
高力士は、非力な弱者をなぶるように、ゆっくりと何度も斬り付けた。当てるためではなく、魯乗の力を削るように、わざと受け止められる速さで。
魯乗は、燭台で細かい半円を描き、それらをなんとか弾く。だがそれが続くうち、立っている力さえも弱くなってきた。
すると高力士は、急に剣を両手に持ち替え、鋭く真っ正面に突き出した。
「しまった」
流すのに失敗した魯乗の手から、燭台が軽々と吹っ飛ぶ。
「それっ!」
好機と見た高力士は更に大きく踏み込み、魯乗の頭上を越えて、鋼先の脳天目がけて剣を振り下ろした。
「いかんッ!」
しかし、魯乗は後方へ大きく跳躍し、空中で剣を
「ろ、魯乗、やめろ。逃げるんだ」
鋼先は、脇腹の出血を押さえながら、必死で魯乗を止める。
だが、鋼先の
「鋼先、お主こそ逃げろ。こんなところで、こんな奴に殺されてはならん。わしのことは構うな、どうせ
その瞬間、魯乗の念力は尽きた。軽さを感じた高力士は強く踏み出して、一刀両断に剣を振り下ろす。
魯乗の
「魯乗! だめだ、消えるな、消えるなぁぁ!」
鋼先が叫ぶ。しかし、魂魄は、
「こっの野郎っ!」
鋼先は痛みも忘れて飛びかかり、高力士の
「ぬううっ!」
よろけた高力士が、古定剣を取り落とした。鋼先は、
「うおうっ」
床に転がる高力士。鋼先は、ゆっくりと古定剣に追魔剣を刺した。再び強い光が起き、やがて天間星が抜け出る。
天間星は、高力士を見てから、大きくため息をついた。
「やっと出られた。長い間この男に利用されて来て、
天間星は、
しかしそのとき、高力士が手を伸ばして
「ま、待て。天間星、剣に戻りなさい。あなたの力がなければ、私はどうやって自分を守るのです」
それを聞いた天間星は、眉間に
「俺たちの力でとんでもないことをしやがったくせに、反省の色も無しか。じゃあいっその事、守る必要などなくしてやる。今ここで、くたばりやがれ!」
天間星は高力士を立たせ、上段、中段、下段と、
「ぐああっ!」
高力士は
天間星は、部屋を一周して安全を確認した後、鋼先に向き直り、
「では、しばしご
と言って部屋を出た。
鋼先は脇腹を押さえながら、壁を背にしてズルズルと座り込む。出血が止まらない。
すると、頭を振りながら、高力士が立ち上がった。
「……賀鋼先、勝った気になるのは早いですよ。天間星は失っても、既に、私の
引きつった笑いを見せる高力士に、鋼先は弱い声で訊ねる。
「どういう意味だ」
「そこに転がっている
そして、この国、この大陸には、これからも人々が住み続け、王朝が繰り返される。しかし、その
次に、国家の
そして、これが最も
「ふ、ふざけるな。そんなことになってたまるか」
「ハハハ、甘いですね。結局、魔星の力より、人間の欲望の方が
高力士は、剣を拾って鋼先に歩み寄る。しかし、
「おい、鋼先。私だ、
現れた
「あっ、まだ動けたのか、この野郎!」
天間星は駆け出して、高力士に飛び蹴りを食らわす。高力士はきりもみに回転して吹っ飛んだ。
「ううっ」
倒れた高力士は、そのまま気を失った。応究と天間星は、鋼先を救け起こす。
「応究さん、来てくれたのか。ありがとう」
「礼はいい。それより、
「ああ、わかってる」
起き上がった鋼先は、
応究が、
それから馬車の
「兄貴、
雷先は、
フォルトゥナが、萍鶴をかき
「高力士が、私を治療してくれていた萍鶴さんを、いきなり剣で
幸い、高力士の古定剣は
自分のせいだ、と
「
応究は首を振り、
「これから
鋼先は、
「お待ち下さい。この
鋼先と応究が見ると、血まみれになった楊貴妃が、李秀を抱きかかえて立っていた。応究が身構えると、楊貴妃は首を振る。
「ご安心を。私にはもう、戦う力はありません」
そして楊貴妃は、ひとすじ涙を流して言った。
「李秀を、この娘をお願いします。私のことは忘れ、自由に強く生きてほしいと。――それだけ、お伝えください」
鋼先が言う。
「わかった、伝えよう。――ぎりぎりになったが、あんたたち
楊貴妃はまた涙を浮かべ、礼をした。
「娘は怪我をしています、どうかお世話を。
鋼先が見ると、後方で、
「あと、もう一つ。私の人生は、ただ
「安心してくれ、必ず伝える」
鋼先が李秀を受け取ると、楊貴妃は花が
鋼先は収星を終えると、呼吸を整えるために大きく息をついた。百威をちらりと見ると、もう気付いていると言わんばかりに、そっぽを向いて静止している。鋼先は意を決して、言わなくてはならないことを告げた。
「みんな、済まない。……魯乗は、もういない。高力士と戦って、魂魄を消されてしまった。……俺を守ろうとして、奴の剣の前に飛び出したんだ」
雷先たちは、言葉の意味がわからない顔になって、鋼先を見た。
「……えっ?」
鋼先は、顔を伏せたまま、震えて唸っている。
「ほ、ほんとうに、もうしわけない! おれが、お、おれが、もっとつよくなっていれば、こ、こんなことには、ならなかった! さいしょに魯乗と会ったときに、言われたとおりになっちまうなんて! ちくしょう、ぢぐじょうううっ! ごめんなぁぁああ! うぐ、うっ、うぉぉぉおおああっ!」
そのまま、鋼先は崩れ落ちて倒れながら、泣き叫び続けた。
雷先でさえも、見たことのない取り乱しようだった。
そのまま、もう全員声も無く、涙を流した。
応究が、黙って馬車を出発させた。
◇
長安に着くと、燕軍が入って略奪や放火を始めている。収星陣が急いで
「遠くになるが、一緒に
応究がそう言うと、李焼夫妻は
「鋼先、残りの魔星は?」
応究が訊いた。
「まだ五つ、
鋼先はそう答え、馬車の中に横たわる。彼の傷も浅くはない。これまでは萍鶴が皆の傷を
フォルトゥナが、涙を落として言った。
「皆さん、元気を、どうか、出してください。魯乗さんだって、自分のことで悲しまれるのは、つらいと思います」
しかし、笑顔を返せる者はいなかった。
◇
「ここにもいない。……姉さん、気配が残っているだけで、彼らが
「どうも、移動の
そしてちらりと
「それは、私たちで決めることではありません。でも、とにかく彼らに会いましょう。安全な場所に移してあげるくらいはしないといけません」
「……はい」
姉妹は、
その彼女たちを、
「ふむ、賀鋼先はここかな。天魁星の気配を感じる」
「俺に来客? 名前は?」
李家の使用人から取り次がれ、鋼先は、痛む身体を引きずるように
「天魁星の友人と言えば分かる、とおっしゃっています」
「そうか、天魁星を
鋼先は朔月鏡を持って出向く。そこには、身分の高そうな
鋼先は何も聞かずに朔月鏡を向ける。
すると、男はいきなり突進して来た。
「うわっ」
鋼先が思わず朔月鏡を
鋼先は、驚いて鏡をくるくる見回す。
「おかしいな、吸い込まれたってことは、人間ではないはずだが、魔星の名前も出ない。天界の誰かなのか?」
そして応究たちに報告したが、特に分かる事もなかったので、そのまま出発の準備を進めた。