陳玄礼の長槍には、
雷先は良く見て、飛びすさって槍を
「うわっ」
雷先は大きく吹っ飛ぶ。陳玄礼はすかさず、槍を捨てて組み付き、腕を取って
「ぐあああっ!」
そのとき、雷先の悲鳴を聞いて、
「キィィィッ!」
百威が、あわや地面に落下する寸前、走って来た人物が両手で受け止めた。
陳玄礼は、それを
「何者だ、名を聞こう。私は
「
その声を聞き、雷先が腕を押さえながら立ち上がる。
「
応究は
「
「そうだ。老いたと言えど、まだ
「そのようだな。では、参る!」
そう言って応究は、鋭く
「若いの、少しはできるな。では久しぶりに、本気を出そう」
陳玄礼はほほ笑むと、先ほどの槍を拾って突いて来た。
「え? おい、こっちは素手なのに、武器を使うのか」
意外を口にする応究に、陳玄礼は笑う。
「甘っちょろい奴だな。御前試合でもしてるつもりか」
陳玄礼は、槍を繰り出した。低空を飛ぶような、
「くっ」
応究は、下腹部辺りに迫る槍を、前後左右に動いて躱す。すると次は、顔面や目元に変えて突いてくる。さらに次は、腹と顔を交互に襲い、さすがに見切れなくなってくる。
陳玄礼が、気迫を強くして言った。
「私の槍を、武器も使わずに良く躱したな。では、本気の速度で行くぞ!」
「なにっ」
陳玄礼の槍は、倍の速さになって、上下左右に襲いかかって来た。応究は何度かかすり傷を負った。
「このままじゃまずい。なんとか槍を封じなければ。……そうだ」
追い詰められた応究は、羽織っていた上着を脱ぎ、後ろに捨てた。陳玄礼は、目を閉じて首を振る。
「身軽になったところで、躱し切れんぞ。まだまだ速くなる!」
その言葉が終わる前に、陳玄礼の槍が応究の顔面に迫った。しかし応究は、のけ
陳玄礼はにやりと笑う。
「腹ががら空きだぞ」
そして、地面ごと串刺しにするかのごとく、連続で槍を繰り出す。応究は、転がって躱しながら、捨てた上着を拾うと、槍の穂先に向かって投げ、巻き付けて封じ込めた。
「なにっ」
陳玄礼が驚いたのを見逃さず、応究はぱっと立ち上がり、
「ぐおあっ」
陳玄礼は、もんどり打って倒れる。そのまま、少し身体を震わせていたが、やがて動かなくなった。
応究は、彼が気絶したのを確認して、雷先に駆け寄り、腕を見た。
「これは
「すみません、応究さん」
雷先は
◇
「陛下、フォルトゥナです。
扉の前でフォルトゥナが
「な、何者だ!」
扉を開けた老人が驚いて
皇帝が泊まるだけあって、この部屋は広かった。倒れた老人を含め、四人の男女がいる。
鋼先が指示を出した。
「フォルトゥナと
三人は頷く。萍鶴は扉に
「陛下に
「分かった。じゃあ、さっさと済ますぜ」
鋼先は
「
だが、鋼先は同じくらい目を怒らせる。
「それがどうした。国も民も見捨てた奴らが威張るんじゃねえ!」
そう怒鳴って、卓を蹴り飛ばした。驚いた梅妃を、萍鶴が
「ば、梅妃! おのれ、何をする」
玄宗が怒って立ち上がる。すると魯乗が、形ばかりの礼をして言った。
「落ち着かれよ陛下。わしは
すると、今まで
「そうはさせん。せっかくここまで
そう言って、帯に
「危ない!」
鋼先たちは身を躱したが、皇太子は立て続けに投げる。フォルトゥナはうまく
「ううっ」フォルトゥナは首を押さえてうずくまる。押さえたが、血が大量に噴き出して来た。
「まずい。萍鶴、血を止められるか?」
「やってみるわ」
フォルトゥナの朔月鏡を魯乗に預け、萍鶴はフォルトゥナを看る。
その
「おい、漕ぎ着けたってのはどういうことだよ?」
皇太子と
「ふふふ。急激な政治の
皇太子は
「お前たちが、魔星で
絞め技をはずし、鋼先は思い切り皇太子の腹を蹴って離れた。皇太子は
「享楽はしていたが、それも計画の内ということだ。――父は、前半の
「おい、まさか」
鋼先は、いやな予感がした。
皇太子に代わって、玄宗が続きを
「そうだ。魔星の力を使って、
玄宗と皇太子は、
鋼先の怒りは、頂点に達した。
「ただの
鋼先の
「ぬうううっ!」
光を発し、地鎮星が抜け出る。皇太子は倒れた。魯乗が
しかし、その様子を見ても、玄宗は笑いを消さなかった。
「なあ羅公遠よ。以前、お前が
「どうかしたか、それが」
玄宗は、感謝するような礼をして、薄笑いを見せ、
「
次の瞬間、玄宗の姿がふっと消えた。二人は
鋼先が、制して言った。
「魯乗は離れてろ、俺が闘う」
「鋼先、すまぬ。わしがつまらんことを教えたばかりに。気をつけろ」
「それにしても、皇帝陛下と一騎討ちだなんてな。いい土産話になるぜ」
しかし、鋼先は胸に強い衝撃を感じ、後方に吹っ飛んだ。
「うおっ」
倒れたが、すぐに起き上がると、元の位置に戻って抱きかかえる動作をする。
「くそっ、どこだ」
何度も繰り返したが、つかまるはずはなく、息が切れた鋼先は、また打撃を受けて吹っ飛ばされた。
「いかん、このままでは
魯乗はそう言って、扉に向かおうとした。
「ぐあっ」
しかし、倒れている鋼先がさらに攻撃を受けていた。額や肩から、血も流れている。刃物を使われているようであった。
「鋼先! おのれ
魯乗は皇帝を本名で呼びながら、鋼先の周囲目がけて念力で
魯乗は、卓上に有った
「あそこか」
鋼先が血まみれのまま立ち上がった。
「鋼先、無理をするな」
「止めるな。やられっぱなしは嫌だぜ」
鋼先は、ふらふらとした
「魔星は渡さぬ、死ね!」
玄宗は、がら
「なにっ」
驚いた玄宗の胸に、追魔剣が突き立つ。強い光が起こった。
「しまった、ぬおおおっ!」
「ようやく、
しかし、鋼先の出血は多かった。荒くなる呼吸とともに、
玄宗の身体から、天貴星が出た。同時に穏れ身の術が解ける。
そのとき、部屋の扉が開いて声がした。
「こちらへ来い、天貴星。長い間ご苦労だった」
天貴星は
宦官の高力士である。
「どういうことだ。あんたには、魔星はいないはずだ」
追魔剣を
「萍鶴、おい、無事か?」
「彼女には、ちょっと眠ってもらいましたよ」
高力士は、そう言ってただ笑っている。玄宗が起き上がり、ふらふらしながら椅子にかけて言った。
「魔星を操っていたのは、彼だ。宮中に魔星を集め、朕の願いを果たそうとしてくれていた」
そして拝むように礼をした。高力士が笑ったまま頷く。
「私自身は、魔星と
そう言って、
「まさか」
魯乗が朔月鏡を向ける。鏡に映った剣に、「
「私がまだ若い頃、
高力士は、うっとりとした笑みを見せた。