鋼先は地賊星を収星し、本物の
皆は
「すぐに
そう言って、宮城の
「軍隊に動きがないところをみると、
魯乗が言う。
雷先も言った。
「それにしても、楊一族は本当にこの国をボロボロにしていたんだな。しかも魔星の力で。こりゃ、元凶の
そのとき、
「みんな、ちょっと聞いて」
一同は、動きを止める。李秀は、大きく息を吸ってから続けた。
「今まで
突然の告白に、一同は静まり返る。少しして、雷先が訊ねた。
「え、でも、昨日ご両親に会ったじゃないか?」
「うん、あの人たちは、あたしを育ててくれた人。とても大好きで感謝しているけど、
鋼先が
「そうか。ということは、やはり楊貴妃にも魔星が?」
李秀が、強く頷いた。
「いるわ。あたしはそれを収星して、この国が
「母の願い? ええと、どっちの?」
雷先が、混乱した顔で訊く。李秀はそれを見て少し笑った。
「ややこしくてごめん。――あたしに魔星のことを教えてくれたのは、
魯乗が口を出す。
「そこが良くわからぬ。楊貴妃は、なぜわざわざお主に?」
李秀は、
「――母は、
「
鋼先が訊く。李秀は、静かに首を振った。
「あまり多くはなかった。あたしの
「いつ頃の話なの?」
「おととしの九月。――
李秀の声が荒くなった。皆は、
やがて李秀は涙を
「みんな、ちょっと行かせて。本当の父があそこにいるの」
「おい、一人で行くのか」
止めようとした雷先を、鋼先が押さえた。李秀は皆の答えも聞かず、
「
そう言って立ちはだかった
「
李秀は首を振り、
「違うわ、あんたの
寿王は茶を取り落とし、李秀をまじまじと見る。
「莠児……? では、生きているという噂は、本当だったのか」
「運良くね。……父さん、一つだけ聞かせて。そしたら出て行く」
寿王は、李秀を手で制して、目元を手で
「まさか、お前に逢える日が来るとは思わなかった。元気だったのだな、よく来てくれた。……急いではいるだろうが、よく顔を見せてくれ」
寿王は、李秀を抱き寄せてほほ笑み、何度も頷いた。李秀も、しっかりと父親を抱きしめ、涙を流した。
やがて寿王は、李秀を離して口を開く。
「何を聞きたいのかは、分かっている。なぜ、お前の母を手放し、去って行くのを止められなかったのか、と言いたいんだな」
李秀は黙って頷いた。寿王も頷く。少し間を置いて、寿王が言った。
「魔星、というのがいてな」
李秀が、続きを
「知ってるわ。
それを聞くと、寿王は軽く驚いて続けた。
「お前の母は、それに操られて正気を失ってしまった。だが、魔星は彼女だけでなく、この
「それも知ってる。でも安心して、
すると寿王は、悲しげに首を振る。
「実は、魔星で操られているのは、他にもいる。私の母、つまりお前の祖母も」
李秀は驚いて、思わず後退る。
「ちょっと待って。祖母って、もう亡くなったはずじゃないの」
「私なら、ここにいます」
やせていて、おぼつかない足取りではあるが、表情はしっかりとしている。服装も、宮廷にいる者と同じく、立派であった。
女性は、目に涙を溜めながらほほ笑んでいる。
「初めまして、莠児。わたしは
「どういうこと?」
目を白黒させる李秀に、武恵妃は歩み寄った。そして李秀の手を取り、問いに答えて言った。
「あなたと同じよ。死んだことにされたわ。でも利用価値がある可能性も見込まれて、この宮殿に
「そんなことを。……いったい、誰が何のために?」
そのとき、鋼先たちが現れた。
「李秀、大丈夫か。気になったんで来てみたが、とんだ事を聞いちまったな」
「鋼先」
泣きそうな李秀に、鋼先はそっと
「邪魔をしたかな。俺たちは出ている、話が済んだら来てくれ」
そう言って、皆を連れて去った。
それを見ていた寿王が、優しい笑みを浮かべる。李秀がほほ笑み返した。
「ええと……今のが、あたしの連れ」
李秀が聞くと、寿王は頷いて言う。
「そうか。お前には、いい仲間がいるな。道中はたいへんだったと思うが、きっと楽しかったろう」
父の言葉に、李秀は大きく頷いた。
「うん、本当に!」
武恵妃が、李秀を引き寄せて強く抱きしめた。たくさんの涙を流している。
「つらい思いをしたのに、良くがんばったわね。でも、私たちも、誰が魔星を操っているかは、知らないのです。あなたたちが、探していくことになるでしょう。
せめて、私の知っている、一番大事なことを教えるわ。――
「なんですって?」
◇
「李秀が戻ってきたぞ」
雷先が指さして言った。
李秀は鋼先に追魔剣を、朔月鏡をフォルトゥナに返す。
「祖母に、
「しかし、それにしては軍隊がおらぬが」
魯乗が言うと、李秀はため息をつく。
「
「おいおい。
鋼先はそう言ってから、李秀の憂い顔を見て、
「そういうことか。
「
そう言って李秀は
「
鋼先は頷いて、鍵束を受け取る。
「わかった。よし、兄貴と
寝所の裏庭で、鋼先たちはアヒルと子鹿を捕らえた。それを
「なつかしい味ですわ。それに、大変な
「祖母から聞いたの。魔星は、皇帝を始め、何人かにいる。みんな、気を付けてね」
それを聞いた魯乗が、首をひねる。
「妙じゃな。わしが
「
鋼先が言う。皆も頷いて、戦いの決意を
果たして、皇族や
魯乗が、深い
「ああ、ついに皇帝が逃げた。――もしもこのまま長安に戻れなければ、
すると、鋼先が眉を逆立てて笑った。
「じゃあ、連れ戻してやろう。ここまで国を腐らせておいて、自分たちだけ逃げ延びようなんて、虫が良すぎるぜ」
「子供の遠足よりひどいですね。
フォルトゥナが、
「昔の
「そうだな。だが、」鋼先が、遠くの
「陛下にも魔星がいるんだろ。
それを聞いて、皆も緊張した。
六軍を率いる竜武大将軍・陳玄礼は、厳しく兵を
そのまま
玄宗らは、
ここに
「
不平は六軍全体に
「早くも
鋼先の合図で、収星陣は駅亭に潜り込む。宿舎が並んでいるところに行くと、魯乗が馬に乗った男を見て、指をさした。
「あれが楊国忠じゃ。間違いない」
収星陣は、駆けつけて馬ごと取り囲む。鋼先が言った。
「やっと見つけたぞ、
楊国忠は飛び上がって驚く。
「なに? が、賀鋼先!」
フォルトゥナが朔月鏡で映したが、魔星はいない。鋼先が
「国を盗んだ大泥棒が、ずいぶんうろたえてるじゃないか。叛乱が望みだったんだろう? 鉄車輪との期限だったもんな」
「あ、あれは、無期限では報酬が高かったから、安禄山が叛くまで邪魔をされぬようにしただけだ。……ああ畜生、こんな叛乱、すぐに鎮圧するはずだったのに!」
「奴を甘く見た
魯乗が呆れ、鋼先たちも頷く。
そのとき、
「いたぞ、宰相だ!」
兵士の一人が、フォルトゥナを指さして叫ぶ。
「おい見ろ、外国人と
「うぬ、本当だ」
兵士たちは収星陣を押し退けると、たちまち楊国忠を取り囲み、
「
「ち、違う、違うんだ!」
楊国忠は馬を飛ばし、駅の
兵士たちはそれを追いかけ、やがて
鋼先が
「なんてこった。もう、本格的な