「
そして、食堂に行ってみてくださいと
「おい、
「
そこには、
「よかった、無事だったんだな」
互いにそういいながら歩み寄り、笑った。同じ食卓に座り、朝食を
応究が、あれからの事を話した。
「
それを聞いた鋼先が、
「そうだ。実は今日、ある
応究がそう言うので、
応究は
「竜虎山の張応究どのですな、お手紙拝見しております。実は今、例の
「えっ、
応究は驚き、皆を促してその棟に向かった。
「ひどいな」
しかし鋼先たちは、その男の顔を見て驚いていた。
「ご、
「あの弟子は以前にも敗れ、勝手に出て行ってしまいました。先日久しぶりに戻って来たので、脱走の
「あいつ、少林寺だったのか。ほんとに
「でも、あんなにやられてたわ。一体どんな
「数年前、ある
魔星と聞いて、収星陣の表情に緊張が走る。
「作業用に広い
「
鋼先が言うと、住持は続ける。
「それが完成すると仏師は出てきましたが、何も憶えておらず、天孤星も抜けておりました。やがて仏師は去りましたが、木人の棟には誰も入れなくなってしまったのです」
「鍵でもかけられたのか?」
「いえ、入ることはできるのですが、木人たちが動き、打ちのめされるのです。――あの棟には貴重な仏像も置いてありますから、焼き払うこともできませぬ。封鎖しようとも思ったのですが、この棟に入って木人と戦うことが武術の修行にはなる、という意見も出たため、不本意ですが、そのように活用しておりました」
そのとき、応究がずいと進み出た。
「その噂が広まって、
それを聞いて、雷先が腕を組む。
「確かに、応究さんなら実力は充分だ。でも、あの呉文榮がやられたのを見ると、ちょっと心配だな」
しかし鋼先が言う。
「だが、ここは
応究は頷いた。住持が皆を促し、木人棟の入口へ案内する。棟は、一直線の廊下に壁と屋根が付いたような、長細い形になっていた。
「一人入ると扉が閉ざされ、誰も入れなくなります。ただ、棟の壁には小さい窓がありますので、木人との戦いを見ることは出来ます。応究どの、使いたい武器があったら用意しますぞ」
「いえ、
応究は両手を握り込んでポキリと鳴らすと、扉に触れた。
鉄の扉はゆっくりと開き、応究一人が通れるだけの
住持と鋼先たちは西側の窓に回り、様子を
「棟の
応究がそう言って、一番前の木人に触れる。すると、全ての木人が一斉に動き出した。
「ぬうっ!」
木人は、歩くことは無いが、近付く者を重い打撃で
「攻撃は無意味か。ひたすら躱し、進むしかない」
応究は決心し、並んで通路を作っている木人に向かう。次々に打ち込まれる拳を躱し、応究は順調に進んだ。
「いいぞ応究さん。そのまま一気に行け!」
雷先と李秀が
「ここからです。木人の怖ろしさは」
応究が一つの列を抜け、次の列に入ると、急に木人の動きが速くなった。
「く、くっ!」
躱しきれなくなり、応究は木人の拳を受け止めながら進む。しかし、一撃一撃が重く、
「お気を付けて。さらに速くなります」
木人の拳が、鳥の羽ばたきに
そしてとうとう、最後の木人の列を突破した。
応究が駆け抜けたそこには、他の木人よりも
応究は神妙に頷き、窓の外に声をかける。
「こいつが天孤星に違いない。鋼先、
「よし、待ってろ」
「えっ? お、応究どの、いけませぬ!」
住持が慌てて止めようとしたが、鋼先は小さな窓から追魔剣を投げ入れる。
応究がそれを受け取った瞬間、木人が、激しい声を発した。
「
「なに、そんな決まりあったのか?」
応究が驚いていると、彼の立っていた床がバクンと割れて、床下に落とされてしまった。
「応究さん!」
収星陣がびっくりして呼びかける。住持は、ため息をついて首を振った。
その様子を見て、雷先が木人に叫ぶ。
「なぜ殺したんだ!」
すると、住持が慌てて手を振った。
「別に死んではおりませぬよ。あの床下からは外へ出られますから、ご心配なく。――そうではなくて、武器を使うなら、最初から持って入らねばならぬのに、と悔やんでいたのです」
「へえ、厳しいんだな」
「鋼先、感心してる場合か。どうするんだ」
雷先が言うと、鋼先は首をひねった。
「追魔剣を拾わないとな。だが、応究さんにまた行ってくれというのも気が
「じゃあ、あたしが行くわ」
李秀が腕まくりをして、皆を連れて棟の入口に戻る。しかしそのとき、
「本当に、いいの?」
「はい。試す
頷くフォルトゥナを見て、萍鶴が李秀に言った。
「李秀、待って。ちょっと考えがあるの」
「あんたが
しかし萍鶴は首を振る。
「木人が多すぎて無理よ。鋼先の言うとおり、力押しで突破するしかないわ」
「力押しったって、応究さんより強い人がいるの?」
萍鶴は頷くと、住持に頼んで、
「いったい何をするんだ、萍鶴」
雷先が訊くと、萍鶴は禅杖をフォルトゥナに持たせた。
「彼女が言うの、勝てるかもしれないって」
そして、筆を振ってフォルトゥナの
『
「あっ」
一同が驚きの声を上げる。フォルトゥナは、座った目付きになり、ゆらりと歩いて扉に触れた。
開くと同時に、フォルトゥナは飛び込む。動き出す前に、木人をなぎ倒した。
「やはり、木人は重心が高いですね。禅杖の長さが
フォルトゥナはほくそ笑み、禅杖を振るって木人の
雷先が言った。
「そうか、
「わからない。動きは
鋼先も心配する。一同はフォルトゥナの戦いを見守った。
応究の時と同様に、木人は次第に動きの速度を上げた。フォルトゥナは
「フォルトゥナ、無理をするな。俺が代わる」
しかしフォルトゥナは答えることなく、木人の列を走り続ける。強い打撃を受け、禅杖が
「やった、抜けたぞ!」
雷先たちの喜びをよそに、フォルトゥナは緊張していた。最後の
大木人――天孤星が、声を発した。
「女の挑戦者とは、初めてだ。見事なものだ」
「後は、あなただけですね」
「そうだ、わしを倒して見よ。だができるかな、この巨体を」
「やるだけやりますわ!」
フォルトゥナはそう言うと、後ろに走って、動きを止めている木人の腕を取る。
「それっ!」
フォルトゥナは、
鋼先が、驚いて言った。
「
「追加の武器は禁止ゆえ、木人を使うとはのう。その発想は無かったわい」
「まだまだです!」
フォルトゥナは、次から次へ木人を投げた。大木人は避けることも
「これ、で、どうです!」
フォルトゥナは、二体の木人を投げた。大木人にわずかな時間差で当たり、とうとうその巨体が
フォルトゥナはさすがに力尽き、
「倒れましたね。私の、勝ちです。認めますか、天孤星?」
大木人は、のっそりと立ち上がった。しかし、片方の膝が折れ、再び仰向けに倒れる。
天孤星が、大きな声で笑った。
「わっはっは! これはやられた。わしの負けだ、金髪の
フォルトゥナは、
「そう。じゃあ、そこから出てきてくれますね」
「そうだな。木人棟を
そう言って、大木人から、大きな
そのとき、棟の中を勢いよく走って来る音が聞こえた。
「どうしたんだ、木人が止まっている。やり直しに来たのに、これでは試練にならないではないか」
不満そうに周囲を見回している彼に、鋼先が申し訳なく告げる。
「いいんだ、応究さん。もう終わったんだ。お疲れさま」
「え……」
応究は、がっくりと肩を落とした。
◇
天孤星は収星され、木人はただの人形になった。住持が礼を言い、収星陣は部屋を与えられて休む。
フォルトゥナは、しかし無事ではなかった。
大きな力を使った反動が強く、足の
フォルトゥナは、弱々しくも笑って答える。
「いいのです。私からお願いしたのですし、あなた方の力になりたかった。ただお世話になるだけでは、心残りですから」
「そうか。あんたがそう言うなら、それでいいだろう」
と鋼先が取りまとめた。
「鋼先。お前たちは、これから
「ああ。
それを聞いた応究は、ひとしきり
「今は
「それは助かる。ありがとう、応究さん」
「いいんだ。じゃあ明日、私は
応究は、ほほ笑んで鋼先の肩を叩く。
◇
夜になり、皆が休んだ頃、鋼先は、魯乗と応究だけを別室に呼んだ。
「私に訊きたいこととはなんだ、鋼先」
鋼先は、魯乗を指さして言う。
「まず、報せておきたい。この魯乗は、実は神仙の
応究は、目玉も落ちそうに見開いて驚く。
「ら、
そう言って、がばりと平伏した。魯乗が苦笑する。
「雷先のときと同じだのう。いや、応究どの、普通で良いよ。いまさら上下は不要じゃ」
そう言われて、応究は顔を起こす。鋼先が改めて質問を始めた。
「応究さん、張天師様は、俺たちに何かを隠している。あんたなら、知っているんじゃないか?」
「やはり、
そう言って、
鋼先は仕方なしに、それ以上問うのをやめた。
◇
翌朝、応究は皆と別れて西に向かった。
鋼先は、呉文榮に会おうと思って住持に訊ねたが、すでに呉文榮は少林寺を発っていた。
するとそのとき、寺の外に二人の兵士がやって来て、こう言った。
「我々は、