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第六章 だいたい毎回あいつのせい⑩

「ラッキースケベ」


《えぇ、ラッキースケベです》

「……………………嘘でしょ?」

《本当です》


 えっ、じゃああのパワーアップした感じがあったのって、ただラッキースケベ獲得しただけってこと? あんなに良い感じに目覚めたのに? は?


《あなたたちのいる世界ではよく見かけるものですが、変態的幸運――ラッキースケベが固有の能力として目覚めるのは人類史上初のできごとです》

「人類……初?」

《人類初、です。この計画が始まってもう何千年となりますが、まさか本当に目覚める能力だなんて……。我々も存在は認知していた程度ですので、ある意味伝説級の能力です》


 嫌だよそんな伝説級。目覚めるならもっとかっこいいのがよかったよ。何が悲しくてラッキースケベなんて……。


「いや、待ってくれ。でも、どうしてラッキースケベなんだよ。俺が一番触れてきたのは間違いなく『シューティングスター伊吹』じゃないのか? あの漫画にはそんな展開……」


 アポローンが悲しそうに、本当に悲しそうに、首を左右に振る。


《触れてきた物語とは、決して一つの物語を指すのではありません。関係するのは、ジャンルです》

「ジャン……ル……?」

《えぇ。あなたの場合、確かに作品というくくりで見れば、一番上に来るのはおっしゃる通りの作品です。しかし、あなたが触れてきた物語をジャンルで見ると、最も多いモノは異なります。それは青少年が好むような作品群にありがちな、ちょっとエッ――》

「だあああああああああああああああああああ!! それ以上は言わないで!! ホントにストップ!! 言わないでくださいお願いします!!」

「透流の変態」


 和泉が後ろのエミリアを見てから、じとーっとした目で俺を睨む。


「待ってくれ和泉、違うこれは誤解で……おい、エミリア。さっきよりもぎゅっと抱きつくんじゃねえ。離れろってば。だから離れ……いい加減に離れろエミリアァ!! じゃねえと――」


 叫びながら暴れたせいで、バランスを崩してしまう。その瞬間俺とエミリアは倒れ込んで…………右手には柔らかい感触。なんというか凄く弾力のある水餅を触ってるようなイメージ。あぁ、うん。分かってたし、予測できてた。


「ダーリンなら……」

「おいこらてめえ今のこれ絶対わざとだろ? あっちょっ、こら。掴んでる方の手を掴むな。それは勘違いされるから。冷静に考えなくても今の状況はさすがにマズイだろ、色々と。だからな? さっさとその手を離せええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!」


 急いで離れようにも、エミリアがぐっと俺の手を握っているせいで離れられない。なんつー握力してやがる。だから何なのお前のその馬鹿力は。


「透流、サイテー」

「敵」


 和泉と肇から、そんな呪詛が飛んでくる。ほれみろ勘違いされたじゃねえか!


「いや、違うぞ二人とも。これは事故っつーかエミリアが……」

「神田透流……良い度胸をしてるじゃないか、えぇ?」


 最高に威力のある呪詛が飛んできている気がする。

 ぎこちない動きで、声のした方に首を向ける。


 ――魔王がいた。


「ちちちち違うんですキョウイチさん! 話を聞いてたでしょこれは主人公の能力というやつで!」

「貴様にパパと呼ばれる筋合いはない!」


 聞いちゃいねえ。っつーかパパなんて呼んでねえよ。


「違うのパパッ! わたしたち、本当に愛し合ってるの! だから胸ぐらい……」

「おいいいいいいいいいいいいいいいい!! お前何てこと言ってんの!?」


 エミリアはぱちんと可愛らしくウィンク。いや、そんなんで許されると思ったら大間違いだからな!?


「死ね」

「殺す」


 とうとう二人でさえも生きることを許してくれないらしい。


「覚悟はできているな小僧?」

「ままままま待ってください! マジで! いや本当にその顔はしちゃダメだと思うんです! 親がしちゃ駄目な顔だと思うんです!」


 すっごい恐い。もう魔王って言うかなんだろう……化け物? いや、魔王の方が恐いのか? 違うそんなこと考えてる場合じゃない。


「本当に違うから! ただの偶然だから! ほらさっさと離せエミリア!」


 ぶんぶんと腕を振ってなんとか抜け出す。その際に「あんっ」なんていちいち語尾にハートが付きそうな変な声を出しやがるせいでちょっと変な気分になっただろうが。


「いや、待ってください本当にあれは事故で、離せなかったのもエミリアが俺の腕を掴んでたからで……なあ、エミリアも何とか言って」


 瞬間、どんっと背中を押される。バランスを崩し、つんのめってしまう。エミリアの野郎と顔を上げた瞬間、顔にマシュマロのように柔らかいものがぶつかる。それから、懐かしくも甘い、女の子の香り。


「透流?」


 ゆっくりと視線だけを上げると、にっこりと笑った和泉が見えた。ただ、その笑顔に怒りが多分に含まれており、今俺が顔を埋めてしまったものが彼女の胸なのだとちゃんと理解する。ただ、もう色々起こりすぎて頭がパニックになった結果、今日はよく和泉の胸と接触する日だなあ、なんてのん気な結論に行き着いてしまう。

 彼女の頭の耳が、ぺたんと後ろに寝ている。そう言えば猫って怒ったときそうなるよね。これミーコ知識。

 さて、どうやら俺は本気でやらかしたようでして。


「馬鹿ああぁああぁあぁあぁぁぁああぁああぁあぁああああ!!!!!!!!!!!!!!!!」


 そんな叫びと共に、バチコンと頬に先ほどよりも強い衝撃。


「ごっふ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 回転する視界。

 ちらりと見えた空が少しずつ朱く染まっている。

 肇が死んだ目で俺を見ている。

 タレイアが絶望した表情で煙草を吸っている。

 アポローンがくあっと欠伸をしている。

 魔王がいる。

 エミリアが楽しそうに笑っている。

 和泉が顔を真っ赤にして俺を睨んでいる。


「認めねえ……なんかもう俺は色々と認めねえかんな!?」


 がばっと立ち上がると、エミリアがすぐ近くまで来ていた。


「ねえねえ、ダーリン」

「んじゃごらぁ!?」

「わたしね、本当にあなたのヒロイン候補なんだよ?」

「あぁ?」


 突然どうしたこいつは――あっ。

 キョウイチさんの方に急いで目を向けると、わなわなと怒りで震えている。なんか湯気みたいなのが見えるのは気のせいだろうか。頼むから気のせいであって欲しい。


「後ね、わたし、パパだーい嫌いなの。マジで。でも、ダーリンは優しくて素敵っ!」

「神田透流ぅぅぅうぅぅぅぅううぅうぅぅうぅぅうぅ!!」


 どこからともなく出てきた戦車の上に、キョウイチさんが颯爽と飛び乗る。


「なんで戦車なんかがあんだよ!? おかしいだろここ日本じゃねえの!?」


 銃刀法違反はどこ行った。日本の警察は何してんだよ。助けろください。


「うるさい!! お前が悪いんだ神田透流!!」

「俺のせいじゃねえよ!!」


 叫びながら俺はひたすら戦車から逃げ続ける。それから様々なところで爆発音。おいおいおいマジで撃ってない? マジで殺す気満々じゃねえかあのじじい!!


「エミリアァ!! 頼むから親父さんになんとか言ってくれ!」

「はーい」


 叫びながら名前を呼ぶと、ゆるく走りながらこちらに来る。えっなんでお前はこっち来んの? 別に来る必要なくない? 危ないし。

 爆発音がすぐ近くでし、その時に発生したであろう熱が風に乗って俺の頬をなでる。そうか! エミリアはまず爆発から俺を救おうとしてくれているのか! さっすがエミリアさん! できる女は違うぜ!


「こらぁエミリア! そこをどきなさい!! そこのドアホウを撃てないだろうが!!」

「誰がドアホウじゃ親ばかじじい!」

「だからお前にパパと呼ばれる筋合いはない!」

「呼んでねえつってんだろうがボケェ!」

「パパうるさい。後、そういう所マジでキモいから」

「なっ……!」


 あっかんべーを一つ親父さんにお見舞いすると、俺を見てにっこりと笑みを浮かべる。おい、親父さんめちゃくちゃしょげてるよ? これが娘を持つ男親というやつの姿なんだろうか。なんか悲しくなってきた。


「わたしね、和泉と違って、別にダーリンが好きでヒロイン候補になったわけじゃないの」

「えっ?」


 こいつ突然何を言い出したんだ? 今はそんなことどうでも良くない?


「うちの家訓がそうなように、わたしも楽しそうなことは全力で楽しみたいの。だって、自分が物語の登場人物なんて、最高じゃない? まあ、メインヒロインじゃないのはちょーっと癪だけど」

「あっいや、今はそうじゃなくてな? お前の親父さんの説得をだな……」

「じゃっ、そう言うことだから。ダーリン頑張って~!」


 チャオ! と投げキスを挨拶代わりに一つ残して、手をふりふりエミリアが少しずつ俺から遠ざかって行く。


「あっ待てエミリア! 待って頼むから!!」


 俺の頼みは聞かず、エミリアは和泉の所に走って行き、それから彼女をぎゅっと抱きしめた。そんな様子を見て肇が羨ましそうにしている。おいこらお前ら。主人公様が助け求めてんだぞ助けろよ。


「さっさとくたばれ小僧ゥ!!!!!!」


 後ろからは相変わらずエミリアの親父さんが戦車に乗って追いかけて来る。俺がこんなことになっている原因たちはのんきにそんな俺を見ている。

 そして、すぐ近くで響く爆発音。


 だああああああああもう! なんで俺がこんな目に合わなきゃいけねえんだよ!?

 夜が近づいて来ている空を見上げながら、心の中でそんな悪態を吐く。

 あぁもう絶対に。


「絶対に、主人公にはなりたくね――――――ッ!!」


                               〈了〉

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