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第六章 だいたい毎回あいつのせい⑨

《それから氷川和泉さん、あなたを正式なメインヒロインとして認定させていただきます。メインだからといって、絶対にこの物語があなたの望む形で終わるとは限りません。それはあなたの努力次第です。それでも構いませんか?》

「は、はい!」


 少し詰まりながらも、そんな力強い言葉で返事をする和泉の表情には、悩み事なんて吹っ飛んだかのように清々しかった。でも待って欲しい。


「俺主人公になるつもりなんてないんだけど……」

「ううん。私はね、物語がどうこうじゃなくても、透流のメインヒロインになるよ。例えこの物語の主人公が透流じゃなくても、絶対に」

「お、おう……」


 主人公に絶対になびかないメインヒロインってそれは物語としてどうなのだろうか。っつーかそんなに真剣な顔で言われると、すっごい恥ずかしいんですけど。


《さて、神田透流くん。あなたは主人公ではなく、主人公の親友ポジションに憧れているのですね?》

「そりゃあもちろん」


 それは俺がずっと憧れていたものであり、これからも目指すものだ。俺は力矢さんのようにかっこいい親友ポジションになりたい。例え無理だとしても、その考えは変わらない。


《そこでタレイアがしでかしたこともあり、今回のあなたの動きをじっくりと観察させていただきました。そして、一つの結論を出すに至りました》


 ん? 待ってくれよ? この流れもしかしてもしかするんじゃないか?

 そうかー、とうとう俺も主人公の親友ポジションになるのかー。主人公は誰だろう。やっぱり肇かな? うんうん。さっきは自分が主人公だって割り切って諦めたけど、やっぱり目指したいのは力矢さんだよね。だって憧れだし。手のひらぐるんぐるん返してるけど許して欲しい。だってずっと憧れてたポジションだよ? 仕方ないよね。


 あっやばいにやける。うふふふふふっどうしよう。

 アポローンはミーコの姿で器用に咳払いを一つして、俺をまっすぐに見据えた。俺は俺でその雰囲気を察し、姿勢を正す。


《神田透流くん、あなたを主人公の親友ポジションではなく、正式な主人公に認定いたします》


「あざま――――――――――――――――――――――――へっ?」


 今この猫もどき何て言った? 俺が正式な、主人公……?


「ざまぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 さっきのお返しとばかりに、俺を指さしてタレイアが吠える。今度は俺が間抜け顔を晒す番である。えっ待ってえっ?


《タレイアは黙りなさい》

「……はい」

《さて、この穀潰しは放っておくとして、ここに来るまでに神田透流くん、あなたは自分こそが主人公だと認めましたね?》

「いや、待ってくれ。確かに認めたよ? それについては否定しないけどさ。それは飽くまでも今日だけのことであって……」


 やれやれとでも言いたげにアポローンが首を左右に振る。


《あなたは認めただけでなく、自らの口からも自分が主人公だと言ってしまいました。その証人はここに多数おります。そうなってしまえばどう足掻こうが決定権はこちらにあります。頭の中で思っただけならまだ仮主人公でしかありませんでしたのに……》

「ちょ、ちょっと待ってくれ、そんなの聞いてないんだけど!?」

《そこの馬鹿が言ってませんでしたからねえ……》


 タレイアを見ると、へったくそな口笛を吹いてそっぽを向いてやがる。


「それはあの駄女神の不手際だろ!? あいつがちゃんと教えてくれてたら絶対思わなかったし言わなかったよ!!」

《まあまあ、そう言わずに。主人公にはちゃーんと特典を用意していますから》

「特典……?」

「特典につられるっていかにもオタクっぽいわね」


 後ろでエミリアがそんなことを呟く。うるせえほっとけ。


《主人公は物語を担う最重要人物。その人物次第で物語は面白くもつまらなくもなります。そう言った理由から、主人公にはその人物固有の能力を授ける決まりとなっています》

「お、おう?」


 よく分からんが何かしらの能力が目覚めるってのはタレイアに聞いたし、事実それに助けられたわけだ。


《主人公と言っても様々なスタイルの主人公がおりますから。また、その能力はあなたが触れてきた物語に依存することになっています》

「待ってくれ。理屈は分かった。でもな、俺の能力は幸運関係のモノじゃないのか? 確かにバトルモノとか好きだけど、そんなに多く触れてるってわけでもねえぞ?」


《確かに目覚めたのは幸運系統の能力ですが、あなたはおそらく勘違いをなされています》

「勘違い?」

《えぇ。あの時あなたに弾が当たらなかったのは、別にあなたの幸運によるものではなく、後ろにいるエミリア・f・パスティーネさんがわざと当てなかっただけですよ》


 ………………わっつ?


「で、でもラスト一発は!? ゼロ距離で当たらなかったのに、あれはどう説明するんだよ!?」

《それは弾数を含め、エミリア・f・パスティーネさんの計画です。それに、彼女に備わっている射撃の才は、世界でもトップクラスのものですよ?》

「マジで……?」

「昔から何でか射撃が得意だったんだけど、そう言うことだったのね。あっそうだ。もう一回撃ってもいい? 今度はちゃーんと心臓をぶち抜いてあげる」


 すっごく楽しそうに聞かれる。状況が違ければすっごくどきどきする台詞だよね、これ。まあ今は文字通りな意味だけども。っつーか全弾俺の薄皮一枚しか当たってなかったのは狙ってやったってことかよ。ひぇっなんか心臓が冷えた。


「じゃ、じゃあさ。俺の目覚めた能力ってなんなんだよ?」


アポローンがちろりと尻尾を揺らし、少しだけ言いにくそうに口を開く。


《あなたが目覚めたその能力のことを、我々は変態的幸運と呼んでいます》


 へんたいてきこううん……? あれ? なんだろう凄く嫌な予感がする……。


《あなたのよく知った単語で言うなら、ラッキースケベ、というやつですね》


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