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第六章 だいたい毎回あいつのせい⑧

《はははははっ。あなたのようにはっきりと質問できる女性は好きですよ。分かりました、ではお話しましょう。まずはタレイア、顔を上げなさい》

「は、はいぃい!」

《あなた、こちらに来る前、エラトに何か言ったそうですね》

「えっ、エラト姉さんにですか……? 何か言ったかなぁー覚えてないですぅー」


 エラト? なんか聞いたことあるなと思ったらタレイアが頭お花畑って言ってたあの人か。

 アポローンがやれやれとため息を吐いた瞬間、空中に二つの人形が現れる。一つはタレイアを模しているのであろう、金色の髪の毛と、ボタンで表した黄色い目の下に黒いクマが表現されている。そしてもう一つは同じく金色の髪の毛を後ろで一つにまとめ、目は線でにっこりマークにしたものの二つ。それらがぷかぷかと空中に浮いている。

 途端、一つの人形が話し始める。


「タレイアちゃん、もうすぐお仕事だけど、どんなお話にするか決めたの?」

「いやー決めてないっすねー」

(あーめんどくせえ、なんであたしが仕事なんてしなきゃいけねえんだよ。てめえがやれよクソアマ)


「えっちょ、心の声までっすか!?」

《お黙りなさい》

 一刀両断である。


「んー、タレイアちゃん賭け事好きだし、そんなお話は?」

「あたし、賭け事好きっすけど賭け事の話はないっすわー。だってあぁ言う話って頭使うじゃないっすか? 無理無理。あんなん運だけでいいんっすよ運だけで。ギャグストーリーも自分に合わないんでパスっすねー」


 それからタレイア人形がうーんと考える素振り。


(こっちにも生活ってもんがあるからなー。売れ筋次第で給料が変わるとなりゃあ売れるやつがいいよなぁ。あーそう言えばこのお花畑、ラブストーリーで儲けたんだよなあ。でも、純愛なんてあたしにあわねえし、楽しくねえ。なら、そうだ)

「だとしたら……ラブコメ?」

「あら、いいじゃない! ラブストーリーはどんな時代でも世代でも生き物でもみーんな素敵。いいじゃないラブストーリーにしましょうよ!」

(うるせえぞ脳内お花畑。っつーかラブストーリーじゃねえラブコメだよ。てめえと一緒にすんな反吐が出る)

「やっぱり時代はラブストーリーっすよねー」

「うんうん!」


 そこまで再現したところで、二つの人形がぼんっと音を立てて消えてしまう。下を見るとタレイアが滝のように冷や汗を流して地面とにらめっこしている。あれずっとしてるけど、楽しいのかな。俺はしたくないかな。

 こいつやっぱりクズなんじゃないだろうか。いや、分かってたけどさ。なんて言うか再確認したと言うか何と言うか。周りも同じ事を思ってたようで、いつも養護していた肇も和泉も「うわぁー」と言いたげな顔でタレイアを見ている。


《何か弁明はありますか?》

「あっいえっそのっ…………ないです…………」

《現世に来てからは仕事のことなんてそっちのけでギャンブル三昧。確かに偶然とはいえ、良い人選であったと言えるでしょう》


 瞬間、タレイアの顔が輝くも、その顔が一瞬にして絶望の色に変わる。うん、ミーコの顔がすっごい怒ってるときの顔になってるもん。俺でも分かるよ。後、アポローン様や、ミーコの顔が歪みそうだからもう少し押さえて欲しいです。その拠り所、うちの子なんです。怖くて言えないけどね。


《それから、タレイア。お前、ちゃんと注意事項を読んでいませんね?》

「注意事項?」

《えぇ。そこにはしっかりと、担当は登場人物と直接関わってはいけないと書いていたはずですよ。そこの見出しには主人公の親友であるための要素が一覧として書かれていたはずですが》

「へ……?」


タレイアの眼が点になっている。


「あれ? でもそれって確か……」


 タレイアと出会ったその日、びりびりに破かれた一枚の紙を思い出す。俺が親友ポジションになれないという現実を突きつけてきた一枚。


「あたしが、破ったな……」


 弱々しく呟き、助けを求めるように俺を見る。自業自得だ。絶対に助けねえからな?


《いいですかタレイア。あの書類は重要ですから隅々までちゃんと目を通すようにとあれほどきつく言いましたよね? それから取り扱いには十分気をつけるようとも》

「で、でしたっけぇー? あれれー?」

《ちゃんと言いました。さて、タレイア。あなたの数々の勝手な行いについて、上部で協議しました。そこで一つの事項が決定となりました》


 ん? なんか面白い流れになってなってないかこれ。

 たっぷりとためを作ってから、アポローンが事項を告げるために口を開く。


《タレイア。あなたから女神の位を剥奪とし、神田透流のヒロイン候補とします》


「はっ?」

「えっ?」


 タレイアと俺の声が重なる。

 女神の位を剥奪……? マジで?

 この際俺のヒロイン候補だとかは置いておくとして、えっマジで? こいつ女神じゃなくなったの? うふふふふふふやっばい楽しくなってきた。タレイアは絶望をその目に浮かべて、呆然とした表情でアポローンを見ている。

 うんうん。今言うべきことはこれしかないよね。せーのっ。


「ざまみろバ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――ッッッカ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 あははははははははははは!!!!!! た――――――――――――のしぃ――――――――――――!!!!!!


「ねえねえタレイアさん! 今どんな気持ち? 散々馬鹿にしてたやつのヒロイン候補になるってどんな気持ち? ねえねえ??????」


 タレイアにギロリと睨まれるも、少しも怖くない。むしろおかしくさえある。


「殺す……」


 ひどく冷えた声で言われようが怖くねえ。やっっっっっばい今本当に幸せ。おっひょー!


《女神の任は一時的に解かれますが、この世界の担当はあなたです。ですので新しい女神を派遣することはありません。代わりに私がミーコちゃんを通して監視することになります。それから、タレイア。世界をねじ曲げ、あなたをこちらにいる三人のクラス担任として配属します。しっかり働くように。いいですね?》


 タレイアは何も答えない。っつーか今世界ねじ曲げるとかとんでもないこと言わなかった?


《いいですね?》


 念押しのように言われて、ようやく小さな声で「はい」と答えた。その姿は少しかわいそうに見えたが、よくよく考えて欲しい。俺、ずっとこいつに振り回されてたの。後すっごい暴言吐かれてたの。


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