「初メマーシテ! エミリア・f・パスティーネ、デェス! 生マレハ、イタァーリアノ、ヴェネーツィアデゴザソウロウ! ミナサン、ヨロシィークネッ!」
あー、うん。ですよねーって感じ。なんとなくそんな気がしてた。って言うか片言すごすぎて途中若干時代変わっちゃってるよ。
まぶしい笑顔に抜群のスタイル。それだけでも十分すぎるにも関わらず、実はこれ、人間の理想詰め込んで作った人形なんですよって言われた方がまだ納得できるほどの美貌。
まあ、もうこれ以上言わなくてもいいよね。土曜日に和泉がぶつかったあの人です。クラスの男子だけではなく、女子までも想像の遙か上を駆け抜けてきた彼女の容姿に、口をあんぐりと開いている。すごいなー。人間って一定の許容量超えた何かに遭遇すると声もあげなくなるもんなのか。いやぁ勉強になった。
まあ、そんな現実逃避は置いておくとして、俺はもちろん。和泉は先ほどから頭を抱えて少しでもばれないようにとがんばっている。どうせ同じクラスなんだし、いずればれるんだけどね。俺はともかく和泉はクラスの人気者だし。
「ねえ、透流……俺夢見てるのかな?」
肇がこちらを振り向きもせずに言う。声を聞く限りだが、こいつはこいつで間抜け面してるんだろうなあってことは簡単に予測できる。
「夢だと良かったんだがな」
「あっそうか。この世界って物語か」
「その納得の仕方はやめとけ?」
偶然だと信じたい限りだ。いやまじで。
「はい、よくできました。皆さん、パスティーネさんはまだ日本に来て日が浅いですから日本語もたどたどしいと思いますが、仲良くしてあげてくださいね?」
「………………」
誰も何も言いやしない。みんな目の前の現実を受け入れられていないようだ。うん、俺は受け入れたくないかな。あー目が覚めたらちょっと前の日常に戻ってないかな。無理かぁ……。
「み、みなさん大丈夫ですね?」
担任の先生が少しだけ困った顔で聞くも、みんなまだ惚けた顔のままだ。俺も状況が違えば同じ立場だったんだろうけどね。悲しいなあ、現実って。
「そ、それじゃあパスティーネさんの席は」
先生が言いかけたとき、パスティーネがすっと、指を和泉に向ける。
「ネコミミカチューシャカワイイバンビーナ!」
――静寂。
圧倒的静寂が教室を包み込む。みんな先ほどとは違った意味で顔をぽかんとさせている。
「バ、バンビ?」
かろうじて絞りだした和泉の声に納得したのか、パスティーネがにっこりとほほえむ。そして和泉に向けていた指を今度は微妙に動かして俺に向ける。
「ヲ、ツケサセテタ変態サン」
「ちげえよ!?」
なんてこと言いやがるんだこいつは。いや、確かに和泉に猫耳生えたら似合うだろうなあって考えてたことはあったよ? でもそれは飽くまでも妄想なのであってだな。
「えっ、神田ってそんな趣味だったんだ……」
「まあ、神田くんだもんね……」
「だな、神田だもんな」
ひそひそ話が耳に痛い。って言うか神田だもんなってなんだよ傷つくぞ。
「そう言えば神田って学園中の女子の胸を揉んだらしいぞ」
「まじかようらやましっ、んんっ神田最低だな」
「えっあたし揉まれてないんだけど……」
そりゃ揉んでないからな。いや、それ以前にだな。
「ちょっと待って何その噂? 俺知らないんだけど? 知らないんだけど!?」
俺の叫びは無視され、ただただ根も葉もないうわさ話が目の前で広がっていく。
「もしかしてそれ以上を氷川さんに強要して……」
「氷川様になんてことを……許せない」
「死刑」
「っしゃ殺すべな」
おい誰だ殺すって言ったの。
「それ全部事実無根だから! 俺そんなことしないからね!?」
「神田君静かに。氷川さんの気持ちも考えてくださいね。それから、神田君は後で職員室に来るように」
「なんで!?」
助けを求めるように和泉の方を見るも、彼女は顔をこの角度でも分かるほど顔を真っ赤にさせてうつむいている。
「ほら見なさい。氷川さんだって傷ついているのよ? 後で謝罪しないと駄目ですよ?」
「いや、先生違っ……」
「透流、それはないわ」
肇、お前だけは味方だと思ってたんだけどなあ。