目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第三章 屋上に憧れ持ってたけど屋上に入れなくて屋上が嫌いですって言ったやつ。俺だよ。②

 学校に着くと、なぜだかいつも以上に騒がしい印象を受けた。時刻は八時少し前。校門が閉まる時間までにはまだもう少し時間がある。


「何かあったのかな?」

「さあ……。今日は行事も何もなかったよな?」

「そのはずだけど……」


 となると、もしかして和泉のことではと疑ってしまう。けれど、もし昨日のことであったなら、件の人物が隣にいるのだからもっと注目されてもいいはずだと考え直す。


「私のことだったらどうしよう……」

「それはねえと思うぞ」


 おびえたように辺りをきょろきょろと見渡している和泉と、そんな和泉に気にも止めない周囲。何人かは和泉を見かけて挨拶していくが、それだけだ。おそらく別件と考えて間違いないだろう。

 ざわつきは俺たちの所属するクラスに近づけば近づくほど大きくなっていく。間違いないとは思うが、それでも今の状況を見ていると、どんどん真実がどちらなのか分からなくなる。それは和泉の方が顕著で、彼女は先ほどよりも帽子の位置を目深にして少しでも隠そうとしている。


「あっ、透流おっはー」


 俺が席に着いたのを見るなり、肇が周りとの会話を切り上げてうきうきした顔で近づいてくる。朝から元気なことで。


「はい、おっはー」

「返事が適当すぎない?」

「んなことねえよ。これが俺の全力だ」


 教室の窓際一番後ろが俺の席で、その右斜め前が和泉の席。ちなみに俺の前かつ和泉の隣が肇である。

 どうやら他の友人の所へ行っていたらしい。って言うかタレイアに言われて気が付いたけど、俺マジで色んな人に避けられてるのかもしんない。だって肇以外誰も俺に何か言ってくれるってこともないし。あっ、なんか心がずきって痛い……。

 和泉も席に着くなり数人の友人に囲まれる。一瞬びくついたと思ったら、その顔が安堵と疑問を含んだものに変わる。その様子で今クラスに溢れている話題が和泉の話題でないことを俺も理解できた。


「透流ってばー。聞いてるのー?」

「あーはいはい聞いてる聞いてる。あれだろ。佐凍先生の新刊が出たって話だろ。俺も日曜に買って読んだよ」

「えっ何それ知らないんだけど。いつ発売したの? えっ?」

「この前の土曜だけど……えっ? じゃあ何の話?」


 マジで何の話をしてたの? 基本お前が朝嬉しそうに俺のところに来るときは、だいたいラノベかアニメかマンガかゲームの話だけじゃねえか。


「そのことは後で聞くとして、落ち着いて聞いてね。なんとこのクラスに金髪碧眼の海外留学生が来るんだって! しかも見た人の話によるとかなりの美少女らしくてさー! やったー!」


 やったー! じゃねえよ。お前の方が落ち着け。しかし、金髪碧眼の美人ねえ……。土曜日に見たあの人と一緒に、その後のことも引きずられるように思い出される。まあでも、あの人は美少女というよりも美女って言った方が適切な見た目だったし、さすがに違うだろ。そうだと信じたいし、何よりそんなうまい話があってたまるか。


「クラスに美少女って、和泉がいるじゃねえか」

「何言ってんの? クラスに美少女が多ければ多いほど嬉しくなるでしょ?」


 正論……だなあ……。


「それはまあ……うん。俺も同意だな」

「あれ? もしかしてそんなに嬉しくなかったり?」

「馬鹿言え、めちゃくちゃ嬉しいわ」


 ただし昨日の人がちらつかなければという前提の話だが。そんな俺たちの元に、さっと陰がさす。


「ごめんね真宮くん。透流、ちょっといい?」

「え? おぉいいぞ。すまん肇。また後でな」

「あーうん気にしないでー。あっでも佐凍先生の新刊の話だけは後で聞くからね」

「へーへー」


 俺と和泉が一緒に教室を後にしても、誰も何も言わないし、触れようともしない。ふむ、この状況はある意味都合が良いのかもしれない。


「ねえ、どう思う?」


 教室を出て、中庭にたどり着くなり開口一番に和泉がそう切り出した。声が少し震えている。話の内容は十中八九留学生のことであってるだろう。


「どうって言われてもなあ……。とりあえず和泉のそれではないのは間違いないだろ」

「うん……」


 ぎゅっと、和泉がニット帽の端を掴む。


「ただまあ、金髪碧眼美少女って言われたら――」

「土曜日のあの人、だよね」

「和泉もそう思うよなーやっぱり……」


 どうやら俺と和泉の見解は一緒らしい。正直あまり喜べる事態ではないよなあ。だって、本当にあの人なら和泉の問題が悪化する可能性だってあるわけだし。


「とりあえず今は祈るしかないだろ」

「ねえ、透流。フラグってやつじゃないよね……?」


 そんな単語どこで覚えた。まあそれは置いておくとして、正直なところ俺も若干嫌な予感はしてる。でも、それはできすぎだろうと無理矢理脳内を納得させる。


「さすがにねえだろ、それは」


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?