そんなことがあって、二人で買い物に行くとなると、電車で一本で行くことができる、池袋に行こうということになった。本当なら渋谷だか原宿だかに行った方が良いものが買えるのかもしれないが、長時間外にいるのは得策ではないし、この選択はひとまずベストなのではないだろうかと、なんとか自分に言い訳する。
「うん、ニット帽の方が隠しやすいと思うから。透流はどう?」
「どうって言われてもなあ……とりあえず、どこで買うかは決めてるのか?」
「んー、特に決めてないけど、どうせならかわいいのが良いかなーって」
「なら店も多いし、東口で問題ないか」
俺たちはそんな会話をしながら、ぶらりぶらりと流されるように歩いていく。たまにちらちらと隣を歩く和泉を見ると、彼女は嬉しそうににこにこと笑っている。
これもタレイアの洗脳によるもので、それが解けたとき、彼女はきっとなんであんなことしたんだろうと後悔するだろう。それが無性に心苦しく、そして巻き込んでしまった申し訳なさから、俺はふいと視線をそらす。
ふくろうの顔を模した交番を抜け、俺たちはサンシャイン通りを目指して歩いていく。
「やっぱり休日だから人が多いね」
「そうだなあ。こんだけ人がいると、休日なんだから家にいろよって思うけどな」
「ブーメランじゃないそれ?」
「そうとも言う」
和泉が、あははと楽しそうな笑い声をあげる。そう言えば昔からこんな笑い方をするんだったと、今更ながらに思いだす。最後にこうやって歩いたのって……小学校高学年以来か? うわぁ、月日って残酷。
「そういえば、透流ってさ。休みの日は何してるの?」
そう言えば何をしていたっけと、記憶を探る。
「肇と遊んだりする以外は家で勉強したり、本読んだり漫画読んだり(シミュレーション)ゲームしたりアニメ見たり……」
「えっ? 真宮くん以外のクラスの友達とは遊ばないの?」
「遊ば……ない……なあ……」
言われてみたら遊んだ記憶がない。最初こそ誘われた気がしないでもないが、いつの頃からか誘われなくなったまま二年生になっていた。あれ? もしかしなくても俺クラスで孤立してる? おかしいなあ、クラスではいろんなやつとうち解けてるつもりなんだけどなあ。
「もしかして……」
俺の様子に気がついたのか、和泉の表情が曇る。やめろ、そんな目で俺を見ないでくれ。悲しくなる。
「真宮くんと付き合ってるの?」
「なんでそうなる?」
確かにね。俺の様子を考えるとそう捉えられなくもないよね。分かるよ。でもさ、さすがにそれはおかしくない? っつーか何で気になったのがそっちなの? 今の流れ的に俺が孤立してるってことじゃないの?
「ジョーダンだよジョーダン。透流はからかいがいがあるから。なんだかタレイアさんの気持ちが分かるかも」
「頼むから和泉はあぁならないでくれ。じゃないと精神的につらい」
「分かってるよー」
本当に分かっているのかどうか分からないような笑みを浮かべ、彼女はスキップしながら先へ先へと進んで行く。そのたびに髪がふわりとふくらみ、カチューシャが取れてしまうのではないかとひやひやしてしまうのは、電車の中で考えていた妄想のせいだろうか。周りの連中は可愛らしいものを見るように和泉を見ているが、こっちからすればたまったもんじゃない。
「とりあえずハンズでも行くか?」
急ぎ足で和泉に追いつくと、彼女はそうだなあとでも言いたげに空を仰いだ。
「確かハンズにはそう言うの売ってなかったと思うから、行くならサンシャインシティの方が良いかも」
という和泉の提案で、俺たちはそこに向かうべくだらだらと歩いていく。人があふれんばかりに闊歩するサンシャイン通りと違い、サンシャインシティへの道のりは先ほどまでが嘘のように人がまばらになる。地下ではなく、地上のルートを使えば特に。実際距離が離れているから仕方ないのかもしれないが、さすがにこの寂しさはどうにかならないのかと、この辺りを通る度に毎回思ってしまう。言ってしまえば何かしらの舞台裏のようにも見える。
「案外サンシャインシティって遠いよな」
「そうなんだよねえ……。透流はめったに行かないの?」
「池袋に来るって言っても、その理由の大半がメイトとかトラノアナとかだし。服買うのは最近だと通販でも買えちゃうからさ」
「メイト……? トラノアナ……? 何それ故事成語?」
それを言うなら虎穴だ。
「あぁ、そこはとりあえず気にしないでいいから」
「う、うん? で、えーっとそこに行くときは一人なの?」
「まあそうかな? たまーに肇と行ったりはするけど」
そこまで言って、しまったと思う。しかし、時すでに遅しで、和泉の顔は引きつったまま固まってしまっている。
「やっぱり……そういう関係なの?」
「ちげえよ?」
俺に友達がいないだけだよ。言わせんな悲しくなるだろ……。まあ、言ってないけど。
「こ、これからは私が行ってあげるから。ねっ?」
「それは……考えとくわ……」
さすがにえっちい薄い本とか売ってる場所に連れて行くのはなあ。そう言ったものに抵抗がないにしても、最初は困惑するの目に見えてるし。
「えーいいじゃん」
「まあ、機会があればってことで」
「じゃあ、今日はそういうことにしといてあげる」
「ありがたき幸せですな」
そんなことを話しながら、ぶらぶら歩いているとようやく目的地にたどり着く。特徴的な階段を横目に、自動扉をくぐると、家族連れや友人たち。俺たちと同じように男女で歩いている姿も見受けられる。サンシャイン通りを歩いてるときも思ったけど、なんでこんなに人がいるんだろうか。正直この光景を見てるだけで疲れてしまう。