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第一章 くじ引きって当たって欲しくないときに限って当たるもんだよね⑤

「で、カバンも忘れて遅刻して来たと」

「そーいうこと」


 放課後。部活がある和泉と別れ、俺が高校に入ってから初めてできた友人である、真宮まみやはじめと帰路についていた。俺は手持無沙汰になった手を無造作にポケットに突っ込みながら隣を見る。

 爽やかなイケメンフェイスに、誰にでもフレンドリーに接することができるリア充御用達のスキル持ち。そんでもって重度のオタクという最近テンプレ化してきた如何にも親友ポジ――いや、まさかな。たまたまだよ……な?


「透流? どしたのそんな難しそうな顔で俺のこと睨んで。あっ分かった視力落ちたんでしょ」

「ちげーよ。昔から俺の目は二・〇をキープしてるから」

「えっそうなの? それは初耳」

「言ってないからな。はぁ……」


 こいつまじで良いやつなんだよなー。すっげえ気さくだし。めちゃくちゃ趣味合うし。周りから俺のことを引き立て役だって言われたとき本気でブチギレしてたもんな。お前はどの次元から来たんだよって思わず聞きたくなったし、今も聞きたい。


「あっ、そうだ。今から透流の家行っていい? 新しいゲーム買ったんだけど、家のハードが壊れちゃったみたいでできないんだよね」

「あーこの前買ったって言ってたやつか? おっけー、どうせ家帰ってもすることねえしぃ……いや、悪いダメだ」

「ん? なんかあるの?」

「ちょっとな。家に客が来てるんだわ」


 嘘は言ってない。問題点があるとすればあいつが客なのかどうかということぐらいか。


「そっかー」


 言葉を疑うこともせず、肇が残念そうに空を見上げた。すまん肇。そう心の中で謝る。こいつ見た目が良いだけじゃなくて、性格もかなり素直で優しいんだよなあ。


「悪いやつに騙されなきゃいいが……」

「ん? 何が?」

「あぁ、いや、気にすんな。独り言だ」

「疲れてんの?」

「あながち間違ってない」


 そう、朝っぱらあんなことがあったせいで本当に疲れた。それに学校に行ったら行ったで何も持たずに来たせいで毎時間先生に怒られるわで本当に散々な一日だった。これから家に帰ってまたあいつと顔を合わせるって考えただけで嫌気がする。


「あっ、そうだ肇、家に来れない代わりと言っちゃなんだが、今から漫画でも買いに行かね?」

「えっ、でもお客さん来てるんでしょ? いいの?」

「いいのいいの。それに俺は会いたくない」

「透流がそう言うなら別にいいんだけどさ……」


 押しに弱すぎない? いや、今はそれで助かってんだけどさ。将来悪い大人に騙されそうでお父さん心配。


「って言うか行って何買うの? いつも買ってる雑誌、今日発売日じゃなくない?」

「あー、買うのは雑誌じゃなくてコミックスだな。最近はまってるラノベがコミカライズされ――」


 ふと動かした視線の先。目に入った人物に、思わず絶句してしまう。


「二度と来るかこんな店! ってんめえ出玉調整してんじゃねえぞカス! おい、そこのシケた顔したあんちゃん! そうてめえだよてめえ。こんな店寄り付くんじゃねえぞ、じゃねえと今以上にシケた顔になっちまうかんな!!」

「お、お客様困ります!」

「困りますだあ? てめえこっちがいくらスられたと思ってんだ? あぁ!?」

「で、ですからぁ!」


 うわー……見たくないもん見たなあー……。っつーか何で平然と外出てんだよ。お前避けるために家から遠ざかろうとしてんのに。


「すげー、あんな人本当にいるんだねー。ギャンブル狂ってやつ?」

「お、おん……」


 そうだよねー。俺も他人事だったら同じ感想だったと思う。世の中ってやっぱりすごいなあ、みたいな。でもね、あの人って言うかあの女神、知り合いなんっすよ。へへっ、自慢にもなんねえや。


「あー、肇。その、なんだ。家に来ていいぞ。一緒にゲームしようぜ」

「え? でもさっきダメって……」

「いや、来るのは明日だから大丈夫。さっき思い出した。うん。大丈夫」

「まあ、透流がそう言うんなら……」


 若干俺の圧に押され気味の肇の背中を押しながら、そそくさとその場を後にする。後ろをちらりと見たが、相変わらずあのギャンブル狂駄女神は店員に噛みついているせいでこちらには気が付いていない。いい加減やめてやれよ。店員泣きそうになってるじゃねえか。

 曲がり角を曲がる瞬間もう一度だけ声のするほうへ視線を向ける。それが間違いだった。


 交錯する視線。

 俺を見る、死んだ金色の目が語っている。

 こっちに来い、と。

 視線だけで嫌だと返事をする。

 やつの、目が、鋭くなった。

 そっと、視線を逸らす。

 俺は何も見てないぞ、そう主張するために。


「肇、走ろう」

「えっ、なんで?」


 状況を理解してない(っていうかできない)肇の手を取りその場を駆け出す。状況だけ見たら逃避行。問題点があるとすれば俺たちは男ってことだ。むさ苦しいったらありゃしない。

 商店街を抜け、住宅街をひた走る。途中いろんな人に不審そうな目で見られたが、決して俺のせいじゃない。俺は悪くない。


「ちょ、ちょっと待っ……透流待って……」


 そんな悲鳴をあげる肇を無視しながらなんとか家の前までたどり着く。


「着いた……」


 そこでようやく肇の手を離し、俺たちはようやく一息つく。後ろを振り返ってもあいつの姿は見えないから、どうやら逃げ切ったらしい。

 肇はぜーはーぜーはー息を切らしながら、不満げに俺を見た瞬間、その目が信じられないものを見たとでも言いたそうに大きく見開かれた。ん? 俺に何かあるのかと顔をぺたぺた触っていると、そこじゃないとでも言いたげに、肇がすっと俺の後ろを指さした。後ろにあるのは俺の家。他に何かあっただろうか。


「よお、くそったれ。お手々つないで仲良くお帰りたぁ良い度胸じゃねえか。ん?」


 すんごい聞き覚えがあるなーこの声。正直振り向きたくない。それでも正面を見れば肇が疲弊しきった顔のまま、なんで? って顔をずっとしているし、後ろには振り向かなくてもあいつがいる。


 とん、と優しく肩がたたかれる。よし、努めて笑顔だ。笑顔で謝ればきっと許してくれるはず。俺は振り返りながら渾身の笑顔を浮かべる。


「ごっめーん! 遅くなっ、ちゃっ、たぁー……」


 修羅がいた。


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