「……ぱーどぅん?」
「いや、だから俺は主人公になんてなりたくないの! 主人公の親友ポジションになりたいの!」
「おん?」
「主人公なんてどんなジャンルも全員めんどくさそうにしてんじゃねえか! 世界救ったりハーレムみたいに色んな女性に囲まれてアプローチされたりなんかよくわからない女の子と出会ってそのせいで謎の抗争に巻き込まれていったり特殊能力目覚めたりさあ! そんなのまっぴらだ! 俺は主人公の親友ポジションになって悩んでる主人公の背中を押すかっこいい親友でありたいの!」
一息にそう捲し立て、どうだとばかりに女性を見るが、彼女は涼しい顔で珈琲をすすっているだけで、何かを言ってくることはない。
その沈黙に少しずつ恥ずかしくなってきたころ、女性はようやく溜息を一つ吐き出して、手をぱんぱんと叩いた。すると、どこからともなく一枚の紙が現れ、ゆらゆら落下しながら彼女の手元へ静かに収まった。
「主人公の親友(男)における必要条件。以下の項目のうち、八割を要していること」
「何それ?」
「何って言われても、読み上げた通りだけど? んじゃあ、まずイケメンであること。うん、この時点で駄目だね」
「いきなり!? って言うかなんで会ったばかりのあんたにそんなこと決められなきゃ駄目なんだよ!」
女性は心底めんどくさそうに溜息を吐き出すと。ぎろりと俺を睨んだ。えっ何この威圧感……怖い。
「神田透流ぅ……」
「哀れむように言ってんじゃねえよ」
「哀れむようにじゃねえ。哀れんでんだよ」
「なおひでえな!!」
「いやでも真面目な話。あんたさぁ、自分のどこをどう見たらイケメンに見えるわけ? 量産型みたいな地味ーで冴えない顔しやがって。しかも笑えるほど中肉中背。下調べの段階で運動してるって書いてあったけど、それ嘘でしょってレベルで筋肉なくない?」
「ぐっ」
確かに筋肉はない方だけどさあ!
「後はあれだ。声がかっこいい。女の子の口説き方が独特で面白い。女の子への気配りが機敏。かといって女の子にガツガツしているわけではない。誰でも相談しやすい。後は主人公の良き理解者などなど。予備設定としてスポーツ万能。もしくは運動音痴。成績は比較的良好……。あんたが充たしてるの予備設定の成績ぐらいじゃない?」
「成績だけ!? そんなことないだろ!?」
「いや、あるある。そういうとこ踏まえた上でくじ引きしたか――今のは忘れろ」
「今くじ引きって」
「言ってない。黙れ」
女性はぴしゃりと言ってのけると、びりびりと手に持っていた紙を破り捨ててしまう。
「おいおい破って良いのかそれ? 大事なものなんじゃ……」
「あぁ? 別に構いやしねえよ。まあ、とりあえずあれだ。神田透流さんや、あんたはこの世界の主人公に選ばれたわけですよ。やったね! おめでとう!」
「いや、おめでとうじゃねえから。担当ってのは百歩譲って理解したとして、お前本当に何なの? って言うか何回も聞いてるけど誰だよ」
「あたし? これも何回か言ってるけど、女神だって女神」
そんなさも当然みたいに言われても困る。神らしいとこ全然なかったじゃん。あってどこからともなく、一枚の紙を出して見せたぐらいなものだ。
「てめえ信じてねえだろ」
「いや、信じろってほうが無理だと思うぞ……?」
「ヒント、夢に出てた」
「お前はあんなに神々しくない」
「うっわデリカシーの欠片もねえな。あたしがあの姿になるまでにどれだけ時間かけたと思ってんの? 八時間よ八時間。スタイリストなんて、途中クマが消えてくれなくて何回かキレてたぐらいよ?」
そりゃそんだけ濃かったらキレもされるわ。って言うかスタイリストって何だよ。神様なのにそんなに人間味溢れてんのかよ。
「あー可愛いは作れるとかってキャッチフレーズあったけど、あれガチだわ。鏡見た瞬間こいつ誰? って本人のあたしが思ったぐらいだったし。ってことであんたも騙されないようにな? ミスターちぇりーぼーい」
「ほっとけ!」
「ははっ、こやつめぇ」
腹立つうううううううううううううううううううううううううううっ!!
「後しゃべり方もそんなに下品じゃなかっただろうが」
「あーもうこれだから女性慣れしてないヤツは困るわー。上品なしゃべり方ぐらい淑女たる者習得済みですのよおほほっ。あっそうだ。ついでだから言っとくけど、あんたのクラスメイトの女子、あんたの行動にドン引いてるから」
「えっ?」
マジで? 嘘でしょ? 俺引かれてんの? 惹かれてるじゃなくて?
「あーこの顔はマジで気が付いてないやつだわー。どうせ惹き付けられるほうの惹かれるとかって考えてんでしょ。馬っ鹿だねー。っつーか普通まだ知り合って間もない女子に誕生日だからって手作りのクッキー渡すか? ないないないない」
「やめろおおおおおおおおおおおお!! それ以上言うな!! 聞きたくねえ!!」
「あっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ」
《タレイア様、そうこの子をいじめないでくださいまし。しがない年寄りの頼みです。どうかお聞きくださいませ》
絶望に打ちひしがれていた俺の隣に、いつの間にかミーコがすり寄ってくれている。そうだよな俺たち家族だもんな。あぁ、ミーコお前だけが頼りだよ。好き。
《確かにこの子は愚図でのろまで女心が欠片も分かっていないどあほうですが、性根の優しい子です。どうか今日はそれぐらいにしてあげてくださいまし》
待って。今すっごい罵倒されなかった? 信じた瞬間裏切られたんだけど。
「分かった分かった。今はこれぐらいにしといてやるよ。今は、な。それにどっかのおバカ主人公のせいでまだ説明も終わってねーし」