例えばの話。
もし仮にこれを読んでいるあなたが、この世界の主人公に選ばれたらとしたら、どんなことを願うだろうか。
今から話す内容上、異世界転生はなしだとして、何かしらの小説やマンガ。アニメでもゲームでも良い。
自分の人生の主人公は自分以外いないだろとか言うのはなしね。今はそんなこと聞いてない。
あぁ、待って待って。ここで読むのをやめないで。もう少しそこで静かに俺の話を読んで(聞いて?)欲しい。
大丈夫? うん、踏みとどまってくれてありがとう。
さて、君が落ち着いてくれたところでもう一度問いたい。今この話を読んでいる、まさにあなたが物語の主人公に選ばれたなら、どうする? それに、どのような物語かの選択権は、他ならぬ選ばれた本人にあるものとして。
世界を救うヒーロー的な主人公になるのもよし、ハーレム系のモテモテ主人公になるもよし。はたまた悲劇の主人公になるのも面白いかも知れない。
――主人公。
その甘美な響きに誰もが憧れを抱き、様々な物語に触れては自分もこのような主人公になりたいと願うことだろう。
だがしかし。だが、しかしだ。あえて言わせて欲しい。どうしても言わせて欲しい。
どうせ選べるなら俺は主人公の友人ポジションがいい。
イケメンなのにギャグ担当。女好きであったり、どこか残念だったり。どちらかと言えば不遇な役職。しかし、だからこそ友人ポジションが映える瞬間だってある。
例えば主人公がうだうだと悩んでいるとき。主人公に対して命運がかかった決断を迫られたときに放たれる、その背中を強く押す一言! 普段のおちゃらけた雰囲気とのギャップ。そこに痺れないわけがない。
かく言う俺もその一人で、俺は生まれて初めてこの手のキャラクターと出会った瞬間。それはそう、まるでカミナリに打たれたとはよくいったもので、身体中に強烈な電流が駆け巡ったものだ。
それが幼い頃からずっと俺が憧れているキャラクターの名前。
『シューティングスタイル伊吹』という作品の登場人物で、主人公の伊吹を弓道部に誘った張本人だったりする。彼を初めて見たのは幼馴染みと二人、夕飯ができるまでの間に見ていた漫画原作のアニメ番組だった。週一回しか放送されないにも関わらず、録画して何度も何度も繰り返し見るぐらいにはどはまりしていたし、今もたまに引っ張り出しては見ている作品でもある。
――見言動からお調子者に見えても、伊吹が悩めばまるで自分のことのように悩み。伊吹が良い成績を出せば自分のこと以上に喜ぶ。伊吹が自分なんてと悩み始めたとき、叱咤激励をして奮い立たせることもあった。ライバルとはまた違った関係性のそれに、もう幼い俺の心は惹かれまくりだった。
余談だが高校に上がったとき、弓道部に入る予定だったが、入学する前の年に廃部になっていたのは悲しい思い出である。オタクは影響されやすいからね。結論。
とまあ俺も彼みたく、誰かの背中を押せるような人間になりたい。そう考えて以来、俺は常にそうあれるように日々努力してきた(つもりだ)。
困っている友人がいれば即座に相談に乗り、クラスの女子が髪型やネイルをちょっとでも変えれば機敏に反応し、スポーツも万能にこなせるように日々走り込みと筋トレをかかさず。果ては周りから「お前そんなに頭良かったの!?」と驚かれるように勉強も欠かさなかった。一時期だけどファッション誌もわざわざ購読してたほど。まあ、雑誌買ったところで服が買えないと意味がないって気が付いてやめたんだけどさ。とりあえずそれは置いておこう。うん。さて話を戻すぞ。
それだけがんばっていたにも関わらずに。
そう。関わらずに、だ。それを邪魔する存在が突如現れ、そして、こんなことを抜かしやがった。
「あなたはこの世界の主人公に選ばれました」
認めたくはないけど、これは主人公になりたくない俺が、立派な主人公になるまでの物語。