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老犬ジョンと子猫のルナ
老犬ジョンと子猫のルナ
菊池まりな
文芸・その他童話
2025年01月30日
公開日
6,272字
完結済
小さな町の片隅で、野良猫が子猫を生んだが、1匹だけはぐれてしまう。弱っていた子猫を助けた少年の家には老犬のジョンがいた。

老犬ジョンと子猫のルナ

     ある春の日、小さな町の片隅で、1匹の野良猫が5匹の子猫を生みました。野良猫は安全で暖かい場所を探しては、移動をしていました。しかし、ある日、移動中に1匹の子猫を見失ってしまいました。母猫とはぐれてしまった子猫は生後3ヶ月で、よちよちと小さなな身体で、母猫を探して町を歩き出しました。

「お腹が空いたな…。ミルクが欲しいなぁ。」

子猫は疲れてきてしまいました。

その時、急に雨が降りだしてきました。雨に濡れてた子猫の身体は、どんどん冷たくなっていきます。

「ああ、もうダメだ…。」

子猫はついに力尽きて、パタンと道端に倒れてしまいました。そこへ野球の練習を終えた少年が通りかかりました。少年は子猫を見付けると、カバンの中からタオルを取り出し、子猫をタオルで優しく包み、家に連れていきました。

「お母さん、この子猫を助けて!」

少年はお母さんに、タオルに包んだ子猫を見せなながら言いました。

「あらあら、大変!身体が冷たくなってるわ!」

お母さんは少年から子猫を受け取ると、お湯で子猫の身体を暖め始めました。

「あなたはどこから来たの?お母さん猫とはぐれてしまったのかしら?」

「ひとりでよくここまで歩いたわね。偉かったね。」

お母さんは必死に子猫に話しかけながら看病をしています。この家にはジョンという名前の老犬がいます。ジョンも心配そうに、子猫を見ていました。子猫の身体が暖まると、お母さんは子猫を毛布にくるみ、子猫用のミルクを飲ませました。子猫は少しだけミルクを飲むことが出来ました。ジョンはその様子を見て少し安心しました。

お母さんは、ジョンに言いました。

「ジョン、この子猫の親代わりになってほしいの。いい?」

ジョンは

「ワン!」

と鳴き、分かったと返事をしました。

それから毎日、ジョンと子猫はいつもそばにいました。ジョンは優しく子猫の身体を舐めます。

お母さんは子猫にミルクを飲ませたり、子猫用の餌を与えたりしました。時々、暖かいお湯で身体を洗ってあげたりもしていました。少年も優しく子猫を撫でながら、

「早く元気になれよ!」

と声をかけました。子猫は徐々に元気になっていきました。ジョンもとても嬉しそうです。ジョンが子猫に話しかけます。

「お前さん、どこから来たんだい?もうちょっとで、危ないところだったんだよ。」

子猫は

「お母さんとはぐれてしまって…。お母さんを探して歩いているうちに、お腹は空いてくるし、雨には降られるしで、私ももうダメだと諦めかけていたわ。」

「でも、助かって良かったよ。」

ジョンは子猫の顔を舐めながら、そう言いました。子猫はすっかり元気になり、少年が学校から帰ってくるとたくさん遊ぶようになりました。子猫は遊び疲れて、ジョンのところにきて寝てしまいます。お母さんもその様子を見ていて、

「もう大丈夫ね。」

と安心しました。少年も毎日、楽しそうです。

少年とそのお母さんが寝静まった夜、ジョンは子猫に言いました。

「実は、わしも怪我をして倒れていたところを助けてもらったんだよ。」

「え?そうなの?」

「ああ、本当だよ。もう、3年前になるかなぁ?」

「そうだったんだね。怪我は大丈夫だったの?」

「動物病院にしばらく入院させられたよ。少年やお母さんには、もうこれきり、会えないんじゃないかって、不安になったもんだ。」

「少年とお母さんが、動物病院に迎えにきてくれたの?」

「ああ、そうだよ。助けてくれただけでなく、この家に迎え入れてくれたんだ。」

「…。」

子猫は少年とお母さんの優しさに感動し、涙で言葉を詰まらせました。

「私も、助けてもらったから恩返ししなきゃね。何が出来るかなぁ?」

「わしももう、長くはないだろう…。だから、今度はお前さんが、次に来る犬や猫たちの親代わりになって、面倒を見てほしい。」

「分かった…。でも、お願い!長生きしてね。あなたが居なくなったら、私、寂しいよ。」

「お前さんなら大丈夫さ。少年とお母さんがついている。」

「私にはまだ親代わりが必要なの。お願いよ!そんなこと言わないで。」

「分かったよ…。しかし、わしももう16歳だ。いつお迎えがきてもおかしくない。」

「お願いよ!せめて、私がひとりで餌を食べたり出来るようになるまでは、生きてね。」

「ああ、約束するよ。」

お母さんが起きてきて、ジョンと子猫に餌と水を与えます。少年も起きてきて、ペットトイレの掃除をします。

「子猫に名前付けなきゃね。何がいいかしら?」

お母さんが考えます。少年が、

「この子、雌猫みたいだし、女の子の名前がいいかな?」

というと、

「そうねぇ。…、ルナって名前はどうかしら?」

お母さんがそう言うと、少年は子猫の頭を撫でながら、

「今日からお前の名前は、ルナだ。よろしくな、ルナ。」

と言いました。

子猫はルナという名前を気に入り、ジョンに嬉しそうに、

「私はルナよ。名前を付けてもらったの!」

と報告しました。

「ルナ、いい名前だ。わしの名前はジョンだ。改めてよろしくな。」

「ジョン、よろしくね。」

ジョンとルナはとても仲良しになり、毎日じゃれあったり、何かあればすぐにジョンに相談したりしていました。ルナはいつしか、ジョンが本当の親のように思えてきました。

そんなルナもよく食べ、よく遊び、体重も来た時は1kgにも満たなかったのに、今では2㎏を超えました。お母さんは

「ルナ、体重も大丈夫そうだし、そろそろ避妊手術しなきゃね。」

と言いました。ルナは不安そうにジョンの顔を見ます。

「大丈夫だ。そんなに心配することはないよ。」

ジョンが優しくルナに語りかけます。

「手術って痛い?ああ、怖いわ。」

ルナはまだ手術が怖くて仕方ありません。

「大丈夫だ。怪我や病気して手術、とかの方がもっとつらいし痛いし苦しいさ。」

「そうなの?」

「ああ。そうさ。」

お母さんは動物病院に予約の電話を入れました。ルナは緊張しながら、その日を迎えました。

動物病院にきました。お母さんが獣医に

「お願いします。」

と言い、お迎え時間を獣医と相談して決めています。少年も野球の練習が休みだったので、早くに家に帰ることが出来ました。

お母さんが家に帰ってきました。少年はジョンの身体を優しく撫でながら、

「ルナ、大丈夫だった?」

と聞きます。

「とても大人しくしていたわ。逆にお母さんが緊張してしまったわ。」

とお母さんが苦笑いしました。

ジョンは2人の会話を聞きながら

「ルナ、よくやった!」

と心の中でルナを褒めました。

ルナを迎えにいく時間になりました。お母さんが車を出して動物病院へ向かいます。

「ルナを迎えにきました。」

動物病院の受付でお母さんが言います。

ルナはエリザベスカラーをつけられ、看護師に抱き抱えられて出てきました。

「ルナ、よく頑張ったわね。痛かったよね?ごめんね。」

ルナの頭を撫でながら、お母さんは言いました。

「これからおうちに帰るわよ。」

ルナはエリザベスカラーが嫌で仕方ありません。どうにか外そうと後ずさりしたり、前足で取ろうとしたりしています。

「ルナ、しばらくの辛抱よ。それとも、術後服の方がいいかしら?」

お母さんはルナをゲージに入れて、車を走らせます。途中、ペット用品売り場に寄り、猫用の術後服を買いました。そして家にルナを連れて帰りました。ジョンと少年が玄関で出迎えます。

「お帰り、ルナ!」

少年が言いました。ジョンは静かにルナを見つめました。お母さんはルナに術後服を着せてから、エリザベスカラーを外しました。

「ルナ、これでどうかしら?」

ルナも動きやすくなり、

「にゃあ!」

と鳴きました。ジョンはそばにきたルナに

「お疲れ。よく頑張ったな。」

と声をかけました。

「ありがとう。ジョンのお陰で頑張れたよ。」

「わしはたいして何にもしてないけどな。」

「いつもそばにいて、私を励ましてくれたわ。」

「少しは力になれたようで、良かったよ。」

「今日はすごく疲れたわ。とても眠いの。」

ルナはそう言うと眠ってしまいました。

「まだまだ子猫なんだな。」

ジョンはルナの顔を舐めながら、言いました。

ルナの避妊手術から2週間くらいが経ち、ルナの傷跡もだいぶ目立たなくなってきました。

また元気を取り戻し、ルナは楽しそうに少年と遊んでいます。ジョンも嬉しそうにルナと少年の姿を見ています。

 その年の寒い冬のある日のことです。ジョンの元気が全くなく、ぐったりした様子で餌も食べないし、水も飲まないので、お母さんが心配して動物病院へ連れていくことにしました。

「心臓がかなり弱ってるな…。呼吸も速いし…。このお腹の膨らみは、恐らく腹水でしょうね…。」

「この子は、助からないんですか?」

「一応薬をお出ししますが、もう、末期の状態です。」

「そんな!…ジョン、ごめんね。気付いてあげられなくて。。。」

ジョンは申し訳なさそうにお母さんを見つめます。

「毎年健康診断受けていて…。異常は特になかったはずなのに。。。」

「だいぶ高齢ですし、急に体調悪くなることもありますよ。」

「…ジョン、薬、頑張って飲んで。いきるのよ!」

お母さんはジョンを家に連れて帰りました。家ではルナと学校から帰宅した少年が待っていました。

「ジョン、大丈夫だった?」

少年がお母さんに聞きます。

「心臓がかなり弱ってるって…。」

ルナは心配そうにジョンを見つめます。ジョンがいつもの場所に座ると、そのすぐそばにルナが座りました。

「ジョン、すごく苦しそう…。私に何か出来ることない?」

「ルナ、わしはもう助からんだろう。だから、後のことは頼んだよ。」

「…そんな!私はまだジョンのそばにいたいよ…。もっといっぱい遊んだり、お話したりしたいよ。。。」

ルナは悲しそうに、下を向いてしまいました。ジョンもこれ以上ルナを悲しませたくはありません。でも、息苦しいし、どうしても呼吸は速くなってしまいます。ルナはジョンのそばから離れようとしませんでした。

 それから3日後に、ジョンは虹の橋を渡りました。ルナはジョンがいつも座っていた場所に座るようになりました。お母さんと少年もルナのことを心配していました。

 あれから2年が経ったある日、ルナは窓の外をぼんやりと眺めていると、ジョンによく似た犬が散歩しているのを見て、思わず、家から飛び出してしまいました。

「ジョン!会いたかった。…会いたかったよ!」

鳴きながら、道路を横断しようとしたのですが、途中で車に跳ねられてしまいました。

「…ジョン。。。」

ルナはすぐに動物病院に連れていかれました。

首輪に名前と連絡先を記入してあったため、動物病院の看護師がお母さんに連絡をしました。お母さんも仕事を切り上げ、動物病院に駆けつけます。

「ルナは…。ルナは大丈夫なんでしょうか?」

「命に別状はありません。ただ、脊髄せきずいを損傷してしまっているため、後ろ足は動かすことは出来ません。」

「脊髄…損傷…。」

「頭を打っているようだったので、検査しましたが、脳震盪のうしんとうを起こしていたようです。」

「この子は、もう歩けないのでしょうか?」

「前足だけで、下半身を引きずりながら歩く猫もいます。この病院では取り扱いはないのですが、猫用車いすを使うのも一つの手段です。」

「車いすですか…。」

「技師が少ないので、車いすを自作される方もいますよ。」

「作れるものなんですね!…ありがとうございます。車いす、作ってみます。」

「ルナちゃん、点滴が終わりました。あと、お薬出しておきますので、必ず飲ませてください。」

「わかりました。」

ルナはぐったりとしていて、抱き抱えてみると本当に下半身が動かなくなっているのが分かりました。

「ルナ、もしかしてドアの隙間から出て行ったのかしら?ごめんね、不注意だったわ…。」

ルナはまだ意識が朦朧もうろうとする中で、確かにジョンの声を聞きました。

「ルナ、しっかりするんだ!わしの声が聞こえているか?」

「…ジョン?ジョンなの?」

お母さんはルナがかすかににゃーと鳴いたように聞こえ、目を覚ましたのだと安堵あんどしました。

「ルナ、わしはもう存在しないんだ。あの時見た犬も、わしではなく、ただ似ているだけで全く違う犬だ。」

「…。心では分かっているんだけど、ジョンのことが、忘れられなくて…。」

お母さんはさっきよりもはっきりとにゃー、にゃーとルナの鳴き声を聞くことが出来ました。

「ルナ、車いす、必ず作ってあげるからね。諦めないでね。」

ルナは車いす、というものがなんなのか理解できません。でも、後ろ足を動かそうとしても全く動かない、ということはわかりました。起き上がろうとしますが、うまく起き上がれません。その様子を見ていたお母さんは、

「ルナ、ゆっくりでいいからね。リハビリ、頑張ろうね。」

と声をかけました。

 お母さんがルナを連れて家に帰ると、少年が学校から帰宅していました。

「お母さん、ルナ、どうしたの?」

「車に跳ねられてね…。脊髄を損傷してしまって……。下半身はもう動かないって言われたわ。」

「ルナ、もう走り回って遊んだりは出来ないの?」

「猫用の車いす、作ろうと思ってるの。協力してくれる?」

「そっかぁ!車いすがあれば、ルナも大分快適に過ごせるよね。うん。協力するよ。」

「ありがとう。」

お母さんと少年は、猫用の車いすの作り方を調べ、材料を揃えて試行錯誤しこうさくごしながら、なんとか形になってきた、車いすをルナに試してみました。ルナは最初は戸惑っていましたが、動けると分かったのか、嬉しそうに走り始めました。

「私、まだ走れるんだわ!車いす、ありがとう。」

「ルナ、これからは気を付けるんだぞ。ルナはまだ若い。寿命までしっかり生きて、最期さいごの時は必ずわしが迎えにくるから。」

「ジョン、心配かけてごめんなさい。…そうね。私は生きなきゃ!ジョンとの約束、まだ果たしてないわ。」

「覚えていてくれてたんだね。ありがとう。」

「だって、約束だもの。ジョンのことも、忘れないわ!」

お母さんと少年はルナが元気に走り回る姿を見て、喜んでいます。車いすはまだ試作品の段階で、これからルナの身体に直接当たる部分に、クッションを入れたりするなど工夫をしました。

 それから数ヶ月後、1匹の子犬が保護されて、ルナのいる家にやって来ました。

「私はルナよ。あなた、名前はなんていうの?」

「僕はレオン。ルナ、よろしくね。

「どうしてここにきたの?」

「僕ね、ペットショップで元飼い主に飼われたんだけど、無駄吠えが多い、とか噛み付くとかで嫌われてしまって…。捨てられてしまったんだ。」

「大変だったわね。でも、ここなら大丈夫だから、安心してね。今日から私がレオンの親代わりよ!」

「ありがとう。心強いよ。」

「あら、ルナとレオン、すぐに仲良しになったわね。」

お母さんはルナとレオンが仲良く寄り添っているところを見て、そう言いました。

「レオンは、名前はそのままでいいかしら?嫌な思い出があるなら、変えるのもありよね?」

お母さんがレオンに聞きます。ルナは心配そうにレオンに尋ねます。

「レオン、その名前は気に入ってるの?」

「だって、初めて付けられた名前だから…。」

「そうなんだね。じゃあ、お母さんに返事をしてあげて。」

お母さんはレオンの名前を呼びます。

「ワン!」

レオンは嬉しそうに返事をしました。

「レオンは、レオンね。名前はそのままが良さそうね。」

レオンは尻尾を振り、とても嬉しそうです。

ルナも、ジョンとの約束通り、レオンの親代わりを務めました。ルナが老猫になった頃、レオンに言いました。

「レオン、お願いがあるの。今度はあなたが親代わりになる番よ。」


お母さんと少年の保護犬・保護猫活動は続き、レオンもルナから引き継ぎ、親代わりを務めていきました。
























































































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