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第2話二週目特典のチートアイテム


「あった……これが、【全能者の宝玉】」


 ここはダンジョンの奥深く。比較的低階層の隠し扉の奥にある転送装置から転移し、最下層の更に下に広がる隠しダンジョンの宝箱。


 その中に納められているこの隠しアイテムは、全てのステータスがカンストまで引き上がり、更にそこから限界以上までレベルが成長する。


 しかも必要経験値が激減することで圧倒的にレベルアップが早くなるという、まさしくチートアイテムだ。





【全年齢向け恋愛シミュレーションRPG・『魔導勇者と花咲く魔王』】


 通称『マド花』





 一昔前に一世を風靡した激カワヒロインとの愛を育む恋愛シミュレーションパートと、やり込み要素満載の本格的ロールプレイングゲームが融合した学園ファンタジーだ。


 何の因果か、俺はこのゲームのキャラクターとして転生してしまったらしい。


 ある日突然になってそのことを自覚した瞬間、俺は夢か現実かを考えるよりも前に体が動いていた。


 ゲーム開始直後に訪れる事になる『試練の洞窟』。


 ここはいわゆるチュートリアルを行なうためのダンジョンであり、敵も弱くて罠も少ない。


 本来なら基本的なバトルシステムを学びながら、初期武器でもゴリ押し殴り火力だけで倒せるボスを攻略すればミッションクリアとなる。


 だが、このゲームにはクリア後の二週目要素として裏ダンジョンが存在する。


 この試練の洞窟の正規ルート、ボス部屋のセーブポイントフロアには隠し扉があり、設置されたワープポイントから地下数千メートルのダンジョン下層に転移する。(という設定らしい)


 本来ならこのダンジョンにはゲーム二週目でなくては立ち入ることができない。


 なぜなら隠し扉の先には合い言葉を入力するための石碑があり、一週目ではそのヒントすらゲーム内に存在しない。


 エンディング後の『The end』の文字が現われる画面で数分放置することで、裏ダンジョンに入るためのパスワードが表示されるからだ。


 しかしそれには抜け道が存在する。実はゲーム一週目でもパスワードさえ知っていれば扉の封印は解くことができるのだ。


 つまりそれさえ知っていれば、クリアしていないデータでも隠しダンジョンの扉だけは開くことができてしまう。


 このゲームには隠しキャラを含めて8人のヒロインがおり、それぞれに個別のエンディングが存在している。


 他にも複数のバッドエンドとハーレムエンドと合わせて10通り以上のエンディングがあり、ハーレムエンドは全員を攻略したデータでないとルートに入れない。


 詰まるところ周回を前提にしたゲームなのだ。


 俺の目的は裏ダンジョンの入り口フロアの真ん中に設置された宝箱。


 設定ミスなのかバグなのかは不明だが、本来ならゲームクリア後に周回を楽にするために存在するチートアイテムが、知識さえあれば簡単に手に入ってしまうと言うことだ。


 この先の裏ダンジョンには莫大な経験値を持ったモンスターや、本編では有り得ないほど高性能な武器防具が豊富に眠っている。


 だがそれらはまだ手に入れる事はできない。

 ある程度はゴリ押しできるだろうが、一度クリアしたデータのレベルやアイテムを引き継いだ上で挑むことが前提の調整になっているので、もう少し綿密な準備をしてからだ。


「今はこれで十分だ」


 俺は宝箱から二週目限定アイテム『全能者の宝玉』を取り出して胸の前に掲げ、目を閉じて意識を集中させた。


 すると淡い光を帯びた宝玉が体の中へと吸収されていき、力が漲っていく。


 このゲームにはステータスが存在するが、一般的には認知されている概念ではない。モンスターを倒し続けると魔素を吸収して力が上がる、程度の認識だ。


 つまりこのステータスというのは、俺だけが知っているアドバンテージなのだ。


「これで通常プレイじゃ敵無しだ」


 視覚的に確認できるステータスは通常プレイにおける限界値でカンストしている。


 それを裏付けるように、筋肉が充実し、魔力は溢れ、気力が漲ってくる。

 鋼の肉体は刃物はおろか、ドラゴンの牙すら弾くだろう。


「後はステータスに振り回されないようにフィジカルとメンタルを鍛えなければ」


 そう、これはゲームではない現実だ。コマンドを入力すれば行動が反映されるゲームと違い、現実の戦いではそれらの判断を自分でしなければならない。


 そのためには戦いにおける経験値を積む必要がある。モンスターを倒して取得する数値の経験値ではなく、現実の戦いを経験して、いわゆる【戦いの勘】を育てるということだ。


 レベルが上がれば多くの魔法や便利なスキルを覚え、できる事が多くなっていく。


 今は単にステータスが高いだけの状態に過ぎないから、魔法の習得や熟練度アップは自分の力でやる必要がある。


 それでもステータスだけならレベル99相当のパワーがある。レベル45もあれば本編クリアは十分可能なので、日常を過ごしていくだけならまず負けることはない。


 さっきも言った通り、この宝玉を吸収した俺はレベルアップに必要な経験値が激減し、カンスト状態から更にステータスアップが可能となっている。

 例えて言うなら、通常時にはどう頑張ってもHPやMPは999。


 各種パラメータは500くらいが限界だ。


 しかし宝玉吸収後は四桁以上までアップが可能となる、というイメージだ。


 現に今の段階でも腕力や素早さといった500が限界のパラメータが999となっている。これだけでも十分過ぎるチートステータスだ。


 実際はレベル限界値の上限がなくなるので、理論上は無限にステータスが上昇し続けていく。

 ネットのやり込み動画ではレベル65000まであげている人もいたので、本当に青天井なのだろう。まあそこまでやらんでもいい。


 言っておくが通常プレイ時でも今のステータスと少し魔法を覚えれば十分に無双できる。


 裏ダンジョンと裏ボスはヒロイン攻略とは直接関係ないので、本当に単なるやり込み要素だ。それくらい頭のおかしい強さの敵がウジャウジャいる。



 だがゲームに転生した俺が、この人生を面白おかしく生きていく為には、このチートアイテムで得た力が必要不可欠だ。


 なぜなら俺が目指すのはハーレムエンド。ヒロインを全員攻略し、最終的に世界の全てを裏から支配する真のエンディングに到達することだ。


 そして人生はゲームのエンディング後も続いていくことになる。


 老後の人生まで含めて幸せを得る為には、世界から争いをなくしてしまいたい所だ。可愛い嫁達とのんびりスローライフもいいかもしれない。


「よーし、これでバトルでよっぽど負けることはない。そして何より……」


 そう、俺がこのゲームに転生した時、俺にはもう一つ、始めから備わっていた固有スキルが存在した。


「『エロ同人』って、ストレート過ぎてセンスに悪意を感じるな」


 さっきも説明したが、このゲームは全年齢向けのファンタジーだ。ヒロインがいくら可愛くても、お色気要素はほとんど皆無。


 恋愛ゲームらしくラッキースケベ的な展開はあるものの、一線を越える描写は一切描かれない。


 もともとヒロインのデザインは恋愛を前面に押し出すだけあって可愛くて魅力的な女の子ばかりだ。


 薄い本界隈では毎日のように新作が溢れ、発売から十数年経った頃になってもコアなファンが存在するほどヒロインが可愛い。


 キャラデザインが『エロゲ予備軍』なんてスラングも存在するほど華美で可憐。可愛らしくて愛らしい。


 そんなヒロイン達を、通常プレイでは絶対に見ることができないあれやこれやの姿にすることができるチートスキル。


 どうしてだか俺には生まれついてこの『エロ同人』という謎のスキルが身についており、現地の人間の知識では使用方法は理解不能だった。


 そのため、俺は生まれてこの方ずっと無能の烙印を押されてさげすまれてきた。



 そう、俺はこのゲームの主人公ではない。更に言うならモブですらない。

 この俺『シビル・ルインハルド』という底辺貴族の三男坊は、俺の知っているゲームの中に、設定資料にのみ存在しているモブ以前の人間だ。


 そのくせ、ヒロインの一人と幼馴染みだったり、幼い頃はお姫様の遊び相手だった過去があったりと、随分と設定豊かな記憶に溢れている。


 そして、資料通りならば、俺は魔王軍との戦争で、いの一番に死んでしまう。

 詳しい事は後で説明するが、この世界はゲーム開始直後には魔王軍が滅んでいる設定なのだ。


 つまり明確な敵は存在せず、ゲーム後半になって魔王が復活する。

 それを倒して世界に平和を取り戻すのが主目的のストーリーだ。


 幸いにして今はゲーム本編開始の数年前。魔王軍との戦争が始まる前で、世界は混乱のただ中にある。

 戦いの経験を積むにはもってこいのシチュエーションだ。


 ゲームでは平和になった後だったこともあって、わりかしほのぼのとしていたが、実情はかなり殺伐とした世界観である。


 俺は特に頭の回る方じゃないし、成り上がるにはとにかく力がある方が良い。


 力があれば武勲をあげられるし、底辺貴族の三男坊にも高位の爵位がもたらされるチャンスが巡ってくる。


「さあ、こっからハーレム人生のスタートだっ」


 ブラック企業の社畜として搾取され続けてきた前世。

 底辺貴族の無能者として蔑まれてきた今世。


 どっちも碌なもんじゃなかった。

 だからやってやる。ヒロイン達を全部俺のものにして、幸せいっぱいの人生を歩んでやるんだ。


 そんな俺が、どうやってここまで辿り着いたか。


 まずはそのことから話していこうと思う。


 これまでの『僕』は、まさしく底辺そのものだった……。


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