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初恋は実らないっていうから諦めたのに、あなたの笑顔がわたしにには嬉しすぎる
初恋は実らないっていうから諦めたのに、あなたの笑顔がわたしにには嬉しすぎる
武 頼庵(藤谷 K介)
恋愛現代恋愛
2025年01月30日
公開日
7,243字
完結済
 下町で一緒に過ごして成長してきた幼馴染の三人。男子一人に女子二人。幼い頃は何かがあるわけじゃなく、共に仲良く過ごしていたけど、成長するにしたがって変わってしまうモノもある。

 わたしはあの子が彼を好きな事を知っていた。そして彼もまたあの子の事が好きなんだと思っていた。

 幼馴染という関係性の変化は、いつしか『友達』出会ったモノをも変えてしまっていて――。

 商店街で繰り広げられる、幼馴染同士の恋の物語。

あなたの笑顔がわたしにには嬉しすぎる





 『恋する乙女は何にでも一生懸命になれる!!』


 自分に言い聞かせて何年がたっただろうか?




 住宅街の中から少し離れた商店街の一番奥に、私は学校が終わると真っすぐと帰っていく。両親や祖父母に言われていたという事もあるけど、それ以上に私は『ウチの匂い』が一番好きで、ずっとその匂いの中で包まれていたいという、単純な理由だけで、学校が終わると真っすぐに帰宅していた。


 通っていた学校から住宅街は割と近くに有るけど、家がある商店街は住宅街を挟んでその向こう側にあって、小学生の脚でも結構な距離を毎日歩いて通っていた。


 低学年の時は先生に見送られて友達と一緒に集団になって帰っていくけど、途中で独り抜けて、二人抜けと数が減って行き、私が家の有る商店街に着くころには、幼馴染の二人だけが残る。


 1人は『やおはち』という八百屋さんの次男坊で蜂谷宗次はちやそうじという同じ歳の男の子。もう一人は商店街の焼肉専門店『焼肉わかみや』の一人娘の若宮彩紗わかみやあやさ


 周囲から「お人形さん」と形容される程、幼く同じ女の子の私から見ても、どこからどう見ても『女の子』という感じの女の子。


「そういえばさ……」

「ん?」

「なぁに?」

 もうすぐそれぞれが分かれる交差点まで来ると、宗次が声を上げた。その声に反応して私と彩紗が宗次の方へ顔を向ける。


「もうすぐ二人の誕生日が来るね」

「あぁ……」

「うん!! そうだね。宗ちゃんお誕生会に来てくれる?」

 私はすっかり忘れていた自分の誕生日の事を思い出していたのだけど、彩紗は宗次の腕に腕を回して宗次に体を寄せていく。


「え? あぁううん。まぁ呼んでくれるなら……」

「もちろん呼ぶに決まってるじゃない!! 約束だよ!? ゼッタイに彩紗が呼んだら来てくれるよね!?」

「お、おう……えっと、みゆきはやるのか?」

 彩紗に体の自由を奪われながらも、宗次は私の方へも会話を振ってくれる。


「うぅ~ん……。どうかなぁ? ウチはそういうのしないと思うよ。けっこうお店が忙しいし……」

「そっか……幸んちも人気店だもんな……」

「うん。おかげさまでね」

 顔を少しだけ俯かせて、宗次は大きくため息を吐く。そんな宗次に更に体を寄せる彩紗。


「そっかぁ……お客さんがいっぱいいるんだね幸ちゃんち」

「え? う、うん。おかげさまでね……」

「そうだよ!! 私の家のお客さんもたまたま並ぶみたいだし、宗ちゃんの家のおいしいお野菜のおかげなんだよ!!」

「おい彩紗それは……」

「…………あ、じゃぁここで私は」

 二人と一緒に帰っている途中、私の家の方角へと続く分かれ道に差し掛かり、私は二人に挨拶をして、そのまま家に向けて歩き出した。



 後ろから二人の話し声が聞こえてくるのを聞きながら、私は黙々と一人家路を急いでいく。

 そうして二人の声も聞こえなくなったところまで来ると、その歩いていた足を一旦止めた。


「はぁ~……」

 ようやく大きくため息をつける。


 先ほどの様子を見ているだけでもわかるように、彩紗はどうやら宗次の事が好きみたいで、言葉にはしていないけれどハッキリと言動に出ていた。


 低学年だったころはいつも一緒に近くで遊んでもいたし、なんなら彩紗とは親友と言える程にお互いの家を行ったり来たりしてもいたのだけど、高学年になって来ると三人で一緒に遊ぶことも少なくなって、彩紗が宗次と一緒にいる事が多くなった。


――わたしは……お邪魔虫なのかなぁ……。

 彩紗ははっきりと言葉にして言わないけれど、どうもそんな感じがする。


――うん!! まぁいいや!!

 止めていた足を前に出し、顔を上げ、自分の家である『らぁめん 喜多』という看板を目指しゆっくりと歩き出した。






 中学生になると、私たちの関係性は一気に変化を迎えた。


 宗次の家は変わらず八百屋さんなのだけど、野菜専門で商売していた以前と違い、お惣菜などもお店で作り販売することになったので、ご両親二人と、宗次の兄である慎太しんたお兄ちゃんも大学生となり独り暮らしを始めてバイトとしてお店で一緒に働き始め、それに宗次も加わり、家族ぐるみでお店を回し始めている。


 彩紗の家では、商売の焼肉屋さんが海外からのインバウンド客のおかげもあり、海外の人からの和牛人気に乗っかる形で、二号店や三号店といった感じでお店の数を増やしていった。


 もともと『お人形さん』だった彩紗の容姿は、思春期を迎えるとどんどん成長し始め『女の子度』が更に増して、商店街だけではなく、周囲の中学校の生徒たちにまで噂されるほどの美少女へと変貌を遂げた。


 そんな彩紗は自分の武器が何たるかを把握している様で、小さい時のように最早一緒に遊ぶなんて事はなく、私とは違う友達と一緒にいる事が多くなり、休みの日にはどこに行くにもオシャレをして出かけていくのを何度も目撃するようになった。


 私はというと、変わらず家の匂い――お店から誘われる匂い――が大好きで、お店のお手伝いをする為に学校の授業が終わると直帰するようになり、クラスメイト達もそんな私が働いているお店に、友達や両親などと一緒に来てくれるようになった。


 お店の規模は変わらないけれど、小学生の時と変わらず――ううん。それ以上にお客さんが来てくださるようになっていると思う。


 それもテレビで『下町の名店』として紹介してもらったおかげだと思う。


 ただ――。


「あ、彩紗……」

「あら幸ちゃんじゃない? まぁたそんな恰好で……」

 お店の前の掃除などをしている時に、偶然彩紗に会う時が有るけど、その時の彩紗は見るからに『お嬢様』の様な服を身に纏い、どこかへお出かけする前なのか後なのか、なんというか雰囲気が近寄りがたいものを感じる。


「もうちょっとは女の子らしい格好したらいいのに。彩紗程とは言わないけれど、幸ちゃんだってそれなりに見えるんだから」

「それなりにって……」

「何時までもこんなお店に、今と同じくらいお客さんが来るなんて事が続くと思ってない?」

「え?」

「外観も古いし、お店の中も変わってないし、味も大したことないし。テレビで取り上げられただけなんだから、あまり調子に乗ってもいい事なと思うよ?」

「調子になんて乗ってないよ……」

「ふん……どうだか……」

 そういうとフイっと顔を背けて歩いて行ってしまう。


――え? 私調子に乗ってる? え? 

 彩紗の言葉に困惑する私。しかしいくら考えても思い当たる節が無い。


「どうしたんだ?」

「え?」

 声のした方を振り向くと、大きな段ボール箱を腕いっぱいに抱えた宗次ダ立っていた。


 『やおはち』さんから野菜をしいれている家のラーメン屋さんに、注文していた野菜の配達に宗次が来る事が次第に増えてきて、私がウチに居る時は時折話をしたりするけれど、前ほど『一緒に遊ぶ』という事も無くなってしまった。だからこういう時は今となっては貴重な時間ともいえる。


「えっと……何でもないよ?」

「また……彩紗か?」

「ううん!! 何でもないよ!! あ、お野菜だよね!? 今お父さん呼んでくるね!!」

「あ!! ……たく、もう少し――」

 わたしは彩紗の事を宗次に気付かれないようにするため、急いでお店の中へと駆けこんだ。私の背中越しに宗次が何か言っていたような気がするけど、わたしにはその場を逃げ出す事が精一杯で、気にしている余裕なんて無かった。







 高校生になって私にとっての事件が起こる。


「わたしね、宗ちゃんと付き合ってるのよ」

「え?」


 私の前に久しぶりに現れた彩紗。その彩紗から放たれた際その一言がコレ。



 中学生の時には既に私の『目指すもの』はある程度決まっていて、高校もその目指すものがかなえられやすいようにと、なるべく専門的な事が学べるような学校への進学を決めた。


 中学生になって同じクラスになれたことが無い宗次と彩紗。だから二人がどの高校へと進学を考えているのかなんて詳しく聞いたことは無いけど、宗次はお野菜を持ってきてくれた時に少しだけ聞いた。


 家はお兄さんが継ぐことがほぼ決まっているために、宗次自体は自由に自分の思うところへ進学していいとおじさんやおばさんに言われているそう。ただ将来的には『自分でお店を』とも考えている様で、その願いをかなえるべく経営を学んでみたいと言っていたので、宗次は地域の進学校へと通うべく、中学2年生の夏にはもう勉強を始めていた。


 彩紗はというと、噂にしか聞いていないけど、女子高へと進学することを考えているらしい。

 偶然街中で彩紗のお母さんに会った時に話を聞いたけど、小学生の頃は真面目に勉強をしていたので成績も良かったのに、中学生になって交友関係が広くなってきたころから少しずつ変わりだし、成績も下がる一方で勉強もせず、『家を継ぐ』からと真剣に将来を考えている素振りが無いと嘆いていた。



 そうして、高校へそれぞれがそれぞれの思惑を胸に秘め進学した。




 クラスの中で新しい友達もでき、女の子らしい『恋バナ』をしたり周囲が恋人を作ったりと、勉強だけではなく異性の事を強く意識し始めると、どうしても話題になるのが『好きな人』の事について。


「幸はどうなのよ?」

「え? わたし?」

「そうそう。幸ってあんまりそういう話しをしないじゃない? だからその辺は居るのかなって気になるんだよ」

「好きな人かぁ……」

 クラスメイトの女子に囲まれてそんな話になった時、私が一番最初に思い浮かんだのが――。


――わたしの好きな人かぁ。誰だろ?このクラスには……気になる人はいないしなぁ……。宗次は……好きな人いるのかなぁ……? え!? 宗次? どうして今宗次が!?

 何気に思った事に動揺する。


――え? 宗次……あぁ……そっかぁ、わたしは……。

 誰かの事が好き。そんな事を考えてもみなかったわたし。でもこの時にやっと自分が想っている人がいる事に気が付いた。


「ないしょ!!」

「えぇ~!? 白状しろぉ~!! このクラスに居るの?」

「だから内緒だってば!!」

「言ってしまえ!! さぁさぁ!! 吐いちゃえ!!」

「やだ!! ぜったいいわなぁい」

「このぉ~!!」

「きゃぁ~!! 襲われるぅ~」

「変なこと言うなし!!」

 クラスメイト達ときゃっきゃうふふと、そんな話で盛り上がる。



そうして迎えた高校生初の夏祭り。

 夕方からの営業前、わたしがいつもの様にお店の前を掃き掃除しているところに、ピンク色で花模様があしらわれた浴衣を着た女の子がつかつかと近づいて来た。


「幸ちゃん」

「え? あ、彩紗……」

「わたしね、宗ちゃんと付き合ってるのよ」

「え?」

「これから夏まつりデートなの」

「そ、そうなんだ……」

「うん。だから……」

「…………」

 スッと私の顔に顔を近づけてくる彩紗。


「もう、二度と宗ちゃんにちょっかいかけないでよね」

「っ!?」

「じゃぁね幸ちゃん」

「…………」

 わたしの前から歩き去る彩紗。


――そっかぁ……。宗次と彩紗が……。

 昔から何かと仲が良かった二人、中学生になって宗次とは話す機会が時折あったけど、彩紗とはあまり話す機会も無かった。

 だから二人がそんなに仲良くなっている事にも気が付かなかったし、何なら自分の『恋心』なんて最近自覚したばかりだし。


 そこから何か行動したのかと言われれば、何もしていないというのが現在の状態で、彩紗が宗次の事を好きだというのは知っていた。ううん、知っていたはずだった――。


――……初恋は……実らない……か。


 ぽたり。

 ひとしずく、道路へと広がりを見せる。


 わたしの直ぐ目の前でだけ、どうやら雨が降り出したらしい。





 その日の記憶がそこで途切れてしまっているのは、きっと私の心の中で凄い嵐が吹き荒れていたからだろう――。





 高校を卒業してわたしは目指すものの為に、調理師と栄養士の資格を取るために県内ではなく、関東の大学へと進学した。表向きの理由はその大学が自分の理想とする事が学べるから。


 でも、裏の理由はと言いうと――。

 県内に居るとどうしてもあの二人に会ってしまいそうで、少しでも離れた場所で静かに暮らすため。


 会ってしまったら、どうしても気になってしまって勉強どころではなくなってしまうだろうから、ならば会わない様にすればいい。

 その答えが『上京し進学する』だった。


 勉強することが元来好きじゃない私にとって、高校生よりも更に難しくなった分野を詰め込んでいくのに苦労をしつつも、授業の無い日は居酒屋でバイトしたり、ラーメン屋さんでバイトしたりと、後々自分の為になるようにといろいろ経験した。


 バイト先には色々人達がいて、良い事も悪い事もあったけど、学んで働いている時間はとても充実していた。


――そこで新しい恋が出来ればよかったんだけどね……。

 自分で突っ込んでしまうくらいに、わたしはどうやらものすごく奥手だったらしい。


 アプローチされた事に気が付かないまま過ごしていて、私じゃない人と付き合いだした後に『好きだった』と言われることが多く有る。

 ただその度に『認知すらしてもらえないから』とも言われる事が多い。自分では気が付いていないけど、わたしは気になる存在以外の事はあまり目に入らないらしい。


 大学生生活の4年はあっという間に過ぎて、同窓生の皆が企業へと就職をしていく中、わたしは久しぶりに実家の『らぁめん喜多』へと戻ってきた。



「ただいまぁ」

「おう!! おかえり!!」

「おかえりなさい」

「おかえりぃ~」

 裏から家の中へと入り、持ってきていたバッグ類を部屋に置き、高校生の時までしていたエプロンを手に持ってお店の方へと顔を出す。 


 事前から帰る日は伝えていたので、わたしの顔を見てにこりとしてくれる家族の顔を見て、わたしの顔も自然とほころぶ。


「手伝うよ」

「おう!! じゃぁ今日は調理場の方はいいから接客の方に入ってくれ」

「わかった」

 そうしてエプロンをしながらお店の方へとあるいていき、暖簾をくぐる。

 既に男性が一人で注文を聞いている所だった。その様子を確認して自分も注文を取りに行くため注文票を手元に用意する。


「親父さん、ラーメン二つと餃子二枚。生二つ」

「あいよ!!」

 先に注文を取ってきた男性が隣でお父さんに注文内容を伝えている。何気なしに視線を向ける。


「っ!? ぼぇ!?」

「ぼぇ? ぼぇってなんだよ」

 わたしの方を向いたその男性の顔は、私が良く知る人物の顔で、お店の中でではなく、いつもはお店の外で見ていた顔。


「宗次?」

「よう。おかえり幸」

「あ、た、ただいま……。え? どうして宗次が?」

「どうしてって……俺、ここの従業員」

「はぁ?」


 困惑する私の顔を見て笑う宗次。そんな私たちを見てニヤニヤするお父さんとお母さん。そしてお婆ちゃんもニコニコしている。



「聞いてないのか?」

「え?」

 すると自分に指を指す宗次


「これからよろしくな」

「あぁ、うん」


 あれだけ避けていた人物の一人に、帰宅早々に会ってしまい。どうしたらいいのか分からない。しかしお店も込み始め詳しく聞いている暇も無くなった。


 数時間後にようやくお客さんも捌け、お店の前の暖簾を一時的に外し、準備中の札を掛ける。



「では改めて。蜂谷宗次です。これからよろしくお願いします」

「は、はぁ。こ、こちらこそよろしく? でもどうして宗次が?」

 わたしの疑問に答えたのは父だった。


「高校生の時から宗次に頼まれてたんだ。大学行って経営を学んでくるから雇ってくださいってな」

「そうそう。けっこう頼み込みましたね」

 お父さんと宗次が和やかに笑う。


「え? でも家で働いていいの? だって宗次は彩紗と……」

「彩紗?」

 戸惑うわたし。私からこぼれた名前を聞いて首をかしげる宗次。


「彩紗と付き合ってるんでしょ? だからお店を継ぐために経営を学んでたんじゃないの?」

「いや? 何のことだ? 俺と彩紗は付き合った事なんて一度もないぞ?」

「え? でも彩紗が……」

「彩紗が幸に何かしているのは知ってたよ。だから俺から幸には接触しない様にしてたんだ。俺から絡むとアイツうるさいからな」

「宗次は彩紗と付き合ってない? 彩紗の家を継ぐわけじゃない? え?」

「何度も言わすなよ。俺はここで働く為に勉強してきたんだよ。だから……これからもよろしくな。幸」

 スッと手を出す宗次。


「うん!! これからよろしくね!!」

 差し出された手を両手でギュッと握りしめる。


「どうだ?」

「やっぱり伝わって無いっすね……」

「そうか……まぁ頑張れ……」

「はい……」

 わたしが宗次という相棒の存在を噛み締め、喜んでいるその奥で、父さんと宗次は大きくため息をついていた。




 後に風のうわさで聞いたところによると――


 彩紗は宗次といつでも付き合うことが出来るし、宗次が自分の家を継ぐのだからと慢心し、勉強もおろそかになってしまっていたが、なんとか無時に大学には進学できた。


 大学進学を契機に、宗次にようやく告白するも「好きな人がいるから無理」「そもそも彩紗は眼中にないから」とバッサリ切って落とされ、傷心を抱えたまま大学生生活を送っていたモノの、同じ大学に通う女子生徒に連れられて行ったホストクラブのキャストにガチ恋してしまい、週に何度も通った挙句、ツケ飲みしていたせいで借金がかさみ、見事に単位も落とした事で大学を中退。


 その後、実家に戻されたが生活レベルを落とすことが出来ずに、店のお金を持ち出すようになって困り果てた両親に、田舎に住む祖父母へと預けられることになったそうだ。


 今ではその田舎で、やった事も無い農業に従事し、毎日必死に暮らしているらしい。




 わたしはというと――。

 お店の為に獲ってきた資格を駆使して、毎日毎日一生懸命に働く毎日。時に厨房に入ってお父さんやお母さんと調理をしたり、時に注文を取るためにお店の中を忙しく動き回ったりと、充実した時間を過ごしている。


 そして宗次はというと、お父さんに聞きながら仕入れの事などを学びつつ、忙しい時などには注文取りや皿洗いなどで一緒に汗を流している。

もうすぐ父さんから経営の方は任さられるようになるらしい。時折目が合うとニコッ微笑んでくれる。


――その顔を見るとドキッとしちゃう……。



 今日もわたしは『彼』に見守られながら、お店でお客様に笑顔を見せている。




「いらっしゃいませ!! お客様は何名様でしょうか?』




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