「古牧さん!」
帰りのタクシーを待つ古牧さんに声を掛ける。
「あーいやいや、そういえばあなたへの、感謝を忘れていましたね。ご協力、どーもありがとうございました」
「とんでもないです。でも、どこから気が付いていましたか?」
「何をですか?」
「犯人をです」
うーんと唸りながらも、事件を解決したスッキリからか、いつもより、古牧の口が軽くなる。
「正直、最後にようやくですよ」
「またまた、そんな......」
「でも、文字数制限で、登場人物も少なかったですし」
「え? まじですか。もしかして、四宮の家に調査できたのも」
「あれも文字数制限ですね。筆者を味方にすれば、たいていの事件は解決します。私はこれを、”パワー推理”と呼びますが……。私が思うに、多くの推理小説の主人公は、筆者に媚びを売る。そこから始めると、事件の早期解決に繋がります。んふふ。あなたもまだまだですね」
あまりにも呆れてしまい、私は何も言えなかった。
「……。んーでもですね。山添さんは、怪しかった」
「今さら軌道修正ですか?」
その発言を、古牧は意図的に無視した。
「そうですね......。あまりにも、山添さんは、自分の意見に従い過ぎているようでしたから。それに、なにか、焦っていましたね」
確かに言われてみると、そう感じた。
あまりにも強い正義感。
たしか、元々山添さんは、グループ会社全体で、社内風土改革を行うチームの、副リーダーもやっていた。誰よりも正しさや秩序を重視していたように思う。
そういえば、たしかそのチームのトップは、親会社の重役で、ナンバーツーの......。
「あまり、詮索はよくないですよ」
そう言われて、自分が考え込んでいたことに気が付く。
「すみません、つい考えちゃって......」
そんな私のことを一瞬うっすら笑い、タクシーに乗り込みつつ、古牧さんはまた一言。
「闇探偵に依頼が来る時点で、だいたい事故じゃなくて、誰か犯人がいますよその分、殺人より、推理は楽になりますよ」
「ちょっと、悲しいですねそれ」
「いえいえ、意外にも、働き甲斐はありますよ。今日の掛橋さんと四宮さんを見て、よりそう感じました。通常の外部監査では、あんな終わり方はないでしょうし」
「......そうですかー。んー。あ、そっか。なら、私。古牧さんに雇ってもらいましょうか?」
その一言に、古牧さんの表情には、今までで、一番の驚きであった。
「あ、あなたをですか?」
「そうです、私、なんかこの会社、嫌いになっちゃったし」
「で、でもですね......」
「物事には見方がある。だからこそ、古牧さんが気が付かない、私を雇うメリットはありますよ、絶対に」
「んー困りましたね、これは......」
「大丈夫です。文字数制限的に、了承しなきゃ、筆者が困りますから」
クスクス笑う私。
それを見て、頭をポリポリしつつ、諦めた古牧さん。
「そういえば、あなたのお名前を聞いてなかったですね」
私は一呼吸して、一言。
「私、三谷と言います。三谷幸子です。三谷は、あの、『古畑任三郎シリーズ』の脚本家、三谷幸喜の苗字と一緒。下は幸せな子と書いて、幸子といいます。どうぞ、よろしくお願いいたします」
筆者「あれ? 二千字オーバーした……」