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8、さらば無人島

 喜んでいると、またレッドドラゴンが僕の体に鼻先をすりすりと摺り寄せてきた。


『キュ~ンキュ~ン』


「よしよし」


 僕はその鼻の上をそっと撫でた。

 襲われた時はかなり怖かったけど、こうなると可愛いものだな。

 そうだ、このレッドドラゴンに名前を付けよう。


「お前に名前を付けてやるよ。うーんと……ポチ……は犬だし……ミケは……猫だよな……どうせならレッドドラゴンから取るか……なら、レッド? んーなんかオスっぽいな……ドラゴンは普通すぎるし……ドラゴ………ドラコ……ドラ子なんてどうだ?」


『ガウガウ!』


 お、頷いている。

 名前が気に入ったのか、喜んでいる感じだ。


「よし、今日からお前はドラ子だ。改めてよろしくな」


『ガウ!』


 僕の言葉は理解している感じだし、知能は高いようだ。

 これは実に頼りになるな。


 さて、さっそくドラ子の背中に乗って無人島から脱出……したい所だけど、まだやり残したことがある。

 それをドラ子に頼もう。


「ドラ子にお願いがあるんだ。聞いてくれるかな?」


『ガウガウ』


 ドラ子は首を縦に振り、二つ返事をした。


「この島にいる人間の男を探し出して、ここに連れて来てほしいんだ」


 この島でやり残した事、それはクラムの存在だ。

 あいつも一緒に連れていく。

 アリサにその事を話すと「あんな奴と一緒に島を脱出するのか!」って怒られそうだけど、それは違う。

 何も助ける為じゃない、あいつの顔を思いっきり殴り飛ばす為だ。

 暴力は良くないけど、こればかりはそうしないと気が済まない。

 で、その後に目元が僕に似ている騎士団長につき出してやる。


「ああ、抵抗するようなら殺さない様に痛めつけてやっていいぞ。いいか、絶対に殺しちゃ駄目だからな」


 とはいえ、あいつの事だから十中八九抵抗するだろうけどな。


『ガウッ!』


 ドラ子はうなずいた後飛び上がり、低空飛行しながら無人島をグルグルと回り始めた。


「んー……すぐには見つからないっぽいな」


 クラムが船で海を渡っていた事を考えると、この世界にテレポートといった瞬間移動系の魔法が無い、もしく覚えていないかのどちらかだろう。

 となれば、この島のどこかにまだいるのは間違いないはずだ。

 森の中で身を隠しながら移動しているのかもな。

 だとすると探すのは大変そうだ。


「……うっ……うちは、どうなって……いたた……」


 アリサが目を覚まして上半身を起こした。


「あっ」


 僕は起きたアリサの傍へと駆け寄った。


「だ、大丈夫?」


「あ、う、うん……痛み、あるけど……体は動くし、大きな怪我はないわ」


「そ、それは良かった」


 怪我をしていてもスーパー・チャームじゃ治せないからな。

 何も無くて良かった。


「…………そうだっ! レッドドラゴン! レッドドラゴンは、何処!? 早く、逃げないと!」


 おっと、アリサにさっき起きた事を早く説明しないと。

 ドラ子がクラムを連れて、ここに戻って来たら大変な事になっちゃう。



「――と、いう事があったんだよ」


「……」


 話している間、終始アリサが怪訝な顔をしていた。

 女神様だのスーパー・チャームだの、何を言っているんだという感じで……。


「え、えと……信じて……無い?」


「……女神ならともかく、スーパー・チャーム? っていうのは、聞いた事が無いしね……」


 そりゃあ固有能力だし。

 能力を見せようにも、アリサ……いや、ヒトに使っては駄目だと僕の本能が言っているんだよな。


「……とはいえ、うちらの上空をレッドドラゴンが、何回か素通りしていっているのも事実なのよね……普通なら、とっくに襲われているし……あれ? 止まった?」


「え?」


 飛んでいるドラ子の方を見ると、西側の海岸の上でホバリングをしていた。

 もしかして、クラムの奴は西の海岸から海に逃げようとしたのかな?


「あ、降りた」


 ドラ子が海岸へと降りた。

 そして、その数秒後に雷撃音や何かが爆発する様な音が聞こえてきた。


「リョーの言う通りなら、クラムの奴が必死に、抵抗しているのかな?」


 多分そうだろう。

 雷魔法の威力は身に染みてるけど、レッドドラゴンに通用する威力だとはとても思えない。

 抵抗すると痛い目に合うだけなのにな。


 響いていた戦闘音が止み、急に静かになったかと思えばドラ子が海岸から飛び上がり、僕の元へと戻って来た。

 左手にはボロボロの姿で気絶しているクラムをしっかりと握りしめている。

 やっぱり、レッドドラゴン相手には流石に敵わなかったようだな。


『グルル』


 ドラ子は褒めてほしいのか、鼻先を僕の体に摺り寄せてきた。

 またか、これはドラ子の癖なのかな。

 まぁいいや、ちゃんと褒めないと。


「よしよし、よくやったぞ」


 鼻の上を優しく撫でると、ドラ子は嬉しそうに喉を鳴らした。


「あ、ドラ子、あの子はアリサ……さんだよ。僕の仲間だから、仲良くするようにね」


 ドラ子がアリサの方をギロッとにらみつけた後、アリサの方に顔を寄せて鼻先を摺り寄せた。


「ひっ!」


 その行動にアリサは驚いて小さな悲鳴をあげたが僕の言葉とドラ子に敵意が無いのが分かったらしく、ドラ子の鼻の上を撫で始めた。


「……驚き……本当にレッドドラゴン、手懐けちゃってるよ……」


「そ、そういう事。さて、ドラ子。手に持っている奴を握ったまま、降ろしてくれないか?」


『ガウ』


 クラムを握りしめていた左手が僕達の目の前に降ろされた。


「うわー……これはまた……」


「痛そう……」


 クラムの顔は元がわからないほど腫れあがっていた。

 これは相当ボッコボコにされたんだな。

 ここまでされると、ある意味この状態の方が辛いかも……。


「おーい、起きろー」


「……あ……あう……」


 駄目だこりゃ、全然反応しない。

 当分は目を覚ます感じがしないぞ。


「はあー……」


 こんなボロボロの状態でこいつをブン殴ると、僕が悪人みたいでなんか嫌だな。

 シコリが残るけど、ドラ子が傷めつけたから良しとするか。


「ク、クラムも捕まえたし、ドラ子に乗って島から出ようか」


「……あ、うん」


「ど、どうかしたの?」


「この島と、お別れなんだな~って思うと……ちょっとね」


 アリサの気持ちがわからない事も無い。

 短い間だったけど、頑張ってこの島で生活していたからか離れるとなると寂しさを感じる。


「……ねぇねぇ。リョーは、クラムを連れて行った後、どうするの?」


「そ、その後か……えーと……」


 その後については何も考えていなかったな。

 どうしよう、魔王を倒すなんて絶対無理だ。

 ……普通にこの世界で暮らすしかないかな。


「……あのさ、決めてなかったら………うちと一緒に、この世界を回る旅……なんてどうかな?」


 アリサと一緒にこの世界を……それはいいかもな。

 せっかく異世界に来ているのだから、見て回るのも面白い。


「そ、そうしようかな。旅はよくわからないから、よろしく頼むよ」


「っ! うんうん! うちに、まかせて!」


「そうと決まれば……ドラ子、僕達を背中に乗せてくれ!」


『ガウ!』


 ドラ子が屈み、僕とアリサは背中の上へと乗った。

 背中の上は愛用していた鱗斧と同じ感触だな。


「わ~! 自分の翼以外で、空を飛ぶの初めてだよ!」


「よし! 出発だ! 目指すは人の居る大陸!」


『ガウッ!』


 僕の言葉にドラ子が勢いよく飛び出した。

 狭い無人島から、広い異世界へと――。




 僕は今、異世界の無人島で生活しています。――終――

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