「こ、この島を通り過ぎるかな?」
そうあってほしい。
あんな凶悪な姿を見たら心底そう願うしかない。
「わからないわ……そんなの、レッドドラゴンの気分次第だもの」
だよね。
ドラゴンも動物だから、行動を読めないわな。
「と、とりあえず、火を消してシェルターを隠しましょう! レッドドラゴンに、見つかると大変だから!」
「わ、わかった!」
僕達たちは急いでかまどの火を消し、派手なシェルターに落ち葉や葉っぱのついた枝を積み上げてカモフラージュをする事にした。
……けど、葉っぱの隙間から派手な虹色がどうしても顔を出してくる。
それを隠すためにどんどんと積んでいったら、明らかに不自然な落ち葉の山が出来てしまった。
ここに来て派手な作りが仇となって来るとは思いもしなかったな。
「……こ、これ大丈夫……かな?」
「……多分……ま、まあ真上から見たら、こういうの、案外わからないものよ」
本当かよ。
真上からでも、不自然に見える様な気がするけど……これはもう、レッドドラゴンに見つからない事を祈るしかないか。
「グガー……グガー……」
でだ、残りの問題。
頑張って隠したシェルター内で、呑気に寝ている奴をどうするかだ。
危険が迫っているから、叩き起こしてここから逃げるというのが普通。
でもなー……こいつの場合、起こしたらうるさいだけで足を引っ張る図しか想像できない。
なら、このまま寝かせておいた方が良い気がする。
正直こいつがどうなろうが知った事でもないし……。
「ぼ、僕的に……こいつは、このまま寝かせておいた方が……」
「そうね。このまま寝かせて、おきましょう」
アリサから即返事が返って来た。
僕と同じように思っていたようだ。
「さ、さっさとっシェルターの中に、隠れましょう」
「あ、うん」
僕達はクラムの寝ているシェルターの中に入って息を潜めた。
しばらくすると、羽ばたきの音が大きくなり、雲が太陽を隠したように辺りに影が出来た。
入り口から少し顔を出して、恐る恐る空を見上げ……レッドドラゴンの姿に僕は絶句をした。
「……」
お……大きすぎる……。
全長はビル10階建て前後位の大きさはあるんじゃないだろうか。
あんなのに見つかったら一貫の終わりじゃないか。
頼む! 早く過ぎ去ってくれ!
両手を組み合わせてそう願っていると……。
「うるせぇな!! 俺様の睡眠を邪魔すんじゃねぇよ!!」
「「――っ!?」」
クラムが大声をあげて起き上がった。
この馬鹿! こんな時に大声をあげやがって!
「しっ静かに! 今、レッド――」
「うるせぇ!! 俺様に命令をするなって言っているだろうが!! この野郎!!」
いきなり怒ったクラムに蹴られ、しゃがんでいた僕はバランスを崩してシェルターの外へと倒れ込んでしまった。
「いった! おい! いきなり蹴る……なんて……」
空中でホバリングしているレッドドラゴンと目が合ってしまった。
蛇に睨まれた蛙。
今の状態は、まさにこの言葉通りだ。
恐怖で体が動かない。
「おーおー。怯えた顔はいつ見ても気分が良いねぇ」
シェルターの中から出てきたクラムがニヤニヤと笑っている。
俺はお前に恐怖をしているんじゃない、お前の頭上で飛んでいる化け物に恐怖しているんだ。
というか、異変に気付けよ!
「にしても、なんだ? このやかましい音は……」
『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』
地響きがするほどの咆哮が辺りにこだました。
「え? ……なっ!? レッレレレレレッドドラゴン!?」
レッドドラゴンの咆哮でクラムはやっと気が付いた。
今更遅いっての。
「うっうわああああああああああああああああ!!」
クラムは情けない声をあげながら森の中へと走って行った。
流石のクラムもレッドドラゴン相手には逃げ出すしかなかったようだ。
「――っ!」
アリサがシェルターの中から飛び出して、僕の腕を掴み森の中へと駆け出した。
「ア、アリサさん!?」
「早く! 遠くに、逃げ――」
背後からドスンと大きな音と地響き、そして熱風が僕達を襲ってきた。
「――わっ!!」
「――きゃっ!!」
強い熱風で木々がなぎ倒され、僕達も吹き飛ばされてしまった。
「…………いたた……一体、何が起こったん……だ?」
辺りの木々は燃え、レッドドラゴンが拠点のあった場所辺りに立っていた。
レッドドラゴンの口元から火が出ている……今の熱風は火を吹いたって言う訳か。
直撃していたら消し炭になっていたかと思うとゾッとする。
「……あれ? アリサさん? アリサさん!?」
僕の腕を掴んでいたアリサの姿が見えない。
今の衝撃でどこかに吹っ飛ばされたか。
「……一体何処に…………いたっ!」
周辺を見わたすと、大きな石の傍で倒れているアリサを見つけた。
僕は大急ぎでアリサの傍に駆け寄った。
「大丈夫!?」
「……うう……」
よかった、気を失っているけど生きてる。
アリサを担ぎ上げた瞬間、辺りは大きな影に覆われた。
ゆっくりと背後を振りかえると、そこには僕達を睨みつけているレッドドラゴンの姿があった。
『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』
レッドドラゴンが咆哮をあげ、口の中が体同様に真っ赤に燃えた。
終わった……ここで死ぬのか……。
僕は全てを諦めて目を瞑った。
「……」
熱いのも痛いのも嫌だな。
せめて一瞬でやってほしい。
「……」
焦らすなよ。
こっちは抵抗なんてしないっての。
「……」
おいおい、いい加減にしてくれ。
弱者をいたぶるのが趣味なのか?
クラムみたいに性格が悪い奴だな。
「……?」
おかしい、いくら何でも間がありすぎ。
不思議に思いそっと瞑っていた目を開けた。
「……うおっ!!」
僕の目の前には、レッドドラゴンが吐き出した炎があった。
だが、明らかにおかしい。
炎は動かずに空中で止まっている。
炎だけじゃない、燃えている木々の火、生暖かい風、レッドドラゴン、全てが一切動かなくなった。
これは時が止まっている?
「い、一体……何が……」
困惑していると、地面から突如光の柱が立ち昇った。
そして、その光の柱の中から人が出てきた。
出てきたのは虹色に輝くドレスを着た女性……。
「は~い、久しぶり~。元気にしてた?」
僕はこの女性を僕は知っている。
僕をこの異世界、この無人島へと送った全ての元凶……。
「め、女神様……!?」
自称、全知全能の女神だった。