今からベッドを作る時間は無し、シェルターなんてもっと無理だ。
今日の所は簡易的な屋根とベッドを作って夜を過ごすか無いか。
「ア、アリサ……さん、火をおこすのを頼んでもいいかな?」
「いい、けど。なにか、するの?」
「シェ、シェルターの中にはクラムが寝ているだろ? 起こすとうるさいだけだから、とりあえず今夜は簡単な屋根を作ってそこで寝ようかと思って」
「そっか。もうすぐ暗くなるから、今からだと新しいシェルター、作る時間はないものね」
「そ、そういう事。じゃあ、よろしく」
「うん、まかせて」
火おこしをアリサに任せ、僕は作業に取り掛かった。
作業と言っても、これまでやってきた事に比べたらすぐに終わるけどな。
まずは葉が密集した木の枝を探す。
見つけたらある程度曲げてみて、幹や途中で折れずにしなりが良いか確認する。
大丈夫そうなら枝の先に蔓を固く結ぶ。
そして、蔓を引っ張って枝を曲げてからもう片方の蔓の先に重い石を結ぶ。
こうすれば枝が曲がった状態で固定される。
それを繰り返して密集させれば葉っぱの屋根の完成だ。
流石に強い雨風だと防ぎきれないけど、無いよりは全然まし。
で、後はその下に大量の葉っぱを敷き詰める。
これがベッド代わりだ。
「ふー……こんなもんかな」
即席にしてはいい感じに出来たかな。
まったく、本来なら必要ない労働をさせやがって。
「出来たの?」
火おこしを済ませたアリサが様子を見に来た。
「う、うん。とりあえずは……」
「なるほど、木の枝を曲げて、屋根にしたのか……じゃあ、うちはこの上で、寝ようかな」
「え? あ、あいつが寝ているのは僕のベッドだから、アリサ……さんは別に野宿をする必要は……」
「いや、普通にあの男の隣で、寝たくないし」
「……そ、そうだよね」
それはごもっとも。
僕もあいつの隣で寝るのは断固拒否するわ。
「それじゃあ、夕ご飯を食べよっか。今日は食料、採っている暇がなかったから、干物を焼いておいたわ」
火おこしだけじゃなくて、夕ご飯も作ってくれていたのか。
それはありがたい。
にしても、クラムは干し肉を食って僕達は小魚の干物か。
なんか悲しくなってきた。
※
やっぱり、ベッドは作らないと駄目だな。
朝日が昇り辺りが明るくなった頃に、僕は上半身をおこして心底そう思った。
「ふああ……久々だな……まともに寝れなかったのは……」
葉っぱの量が足りなかったのもあるだろうけど、思った以上に地面の上は堅かった。
堅くてもまだ木の上の方がマシと感じてしまった。
「んーーーーー! ……ア、アリサ……さん、朝だよ」
僕は凝った体をぐーっと伸ばして、火おこしの準備をしつつ木の上で寝ているアリサに声をかけた。
イビキをかいているクラム……は起こさなくても良いよな。
そう思いシェルターの中には入らず、外のかまどの火を入れる作業にとりかかった。
「あー……よく寝た」
朝ご飯の干物を焼いていると、頭をかきながらクラムがシェルターの中から出てきた。
「…………おい、肉はどうした?」
起きた早々の一言目が肉ってか?
こいつ、どれだけ肉が好きなんだ。
あーも―仕方がないな。
「肉が食べたいのなら、干し肉を……」
「ちげぇよ! 俺様は猪鹿蝶が獲れたのかを聞いてるんだ!」
そういう事か。
だったら肉とか言わずに猪鹿蝶って言ってくれ。
「探したけど、見つからなかった」
「……それは本当か? 俺様の見えない所で、サボっていただけなんじゃないのか?」
「なっ!?」
なんたる言い草!
自分は貴重な干し肉食べて、酒を飲んで、寝ていただけのくせに!
「ちゃんと、探したわよ!」
流石のアリサも、今の言葉は頭に来たらしく大声をあげた。
「やっぱり、この島には――」
「俺様に口答えをするなと言っているだろう! ファイヤーボール!」
クラムの右手の手のひらから火の玉が放たれた。
「――っ!」
「え? うおっ!」
アリサはサッと身を低くして飛んで来た火の玉を避けた。
そして、火の玉はかまどに当たりボンッ! と弾け飛んだ。
「あっつ!! あっつ!!」」
火の玉に直接当たらなかったけど、弾け飛んだ火花が僕を襲った。
「あっ! ごめん! 大丈夫?」
アリサは慌てて体を起こしてから僕に駆け寄り、羽でパタパタと体を叩いてくれた。
「だ、大丈夫……」
髪から少し焦げた匂いがするけど、火傷はしていなさそうだ。
あーこわ、無人島で火傷をしたら大変だったぞ。
「チッ……いいか? 今日こそ猪鹿蝶を獲ってくるんだぞ!」
クラムは酒を手にしてシェルターの中へと入って行った。
しばらくすると、イビキが聞こえてきた。
マジかよ……また寝たのか。
「はあ~……いい加減に、してほしいわ」
「ど、同感……」
これじゃあ雨期の前にクラムのせいで命を落としちゃうよ。
そんなの冗談じゃない。
こうなったら、一か八かイカダを作って無人島から脱出する方がまだいい。
うまくいくかわからないけど、その方がまだ助かる可能性はある。
よし、さっそくアリサと話し合おう。
「ア、アリサ……さん、話があるんだけど……」
「……」
嵐の時みたいにアリサが固まっている。
「ど、どうしたの? また嵐でも?」
「……音、聞こえる」
「お、音?」
耳を澄ませると、クラムのイビキの他に低いブオンブオンと羽ばたいているような音が微かに聞こえる。
オオヴァラスかな? いや、また違う感じだな。
「もしかして!」
慌てた様子でアリサが木に登った。
僕も嫌な予感がして、曲げた木の枝を足場にして木によじ登った。
辺りを見わたすと、空中で上下に動く赤いモノが見えた。
「…………まさか……そんな……」
アリサの顔が青ざめいている。
「な、なに? なんなの、あれ?」
「レッド……ドラゴン……」
「……えっ? レッドドラゴンって、あの山の拓けた場所を作った……マジで!?」
もう一度レッドドラゴンの方を見ると、その姿がはっきりと見えた。
大型の爬虫類の様な骨格に、全身が僕が愛用している鱗と全く同じ赤色。
羽ばたく音が聞こえるほどのコウモリのような大きな翼に長い尻尾。
まさにファンタジーに出てくるドラゴンが、僕達のいる無人島へと近づいて来ているのだった。