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3、気絶の間

「…………うう」


 飛んでいた意識が徐々に戻って来た。

 ……くそっ……体中が痺れる。

 頭もガンガンするし、柔らかい感触が……うん? 柔らかい感触?

 僕は不思議に思いつつ重たい瞼をうっすらと開けた。


「あ、気が付いた? 大丈夫? 何処か、痛みはない?」


 目の前には覗き込んでいるアリサがあった。


「……ア、アリサ……さん……?」


 目の前にはアリサの顔。

 そして、後頭部には柔らかい感触。

 これの意味する事は……。


「――っ!?」


 ひっひひひ膝枕されてる!?

 僕は慌てて起き上がろうとしたけど、体が痺れていて全く動けなかった。


「あっ! 急に動いちゃ、駄目だよ!」


 そ、そうは言われても、このまま膝枕されている状態も良くないんだよ!

 だって今にも鼻血が出そうなんだもの!

 なんとかして起き上がろうと僕は体を動かした。


「だから、駄目だってば!」


 そんな僕をアリサが押さえつけてきた。

 あー! それは駄目だって!

 押さえつけられると余計に……。


「……あれ?」


 アリサの顔をよく見ると、頬に赤い跡がある事に気が付いた。


「ア、アリサ……さん……その頬……どうしたの?」


「え? あっ! なっなんでも、ないの! き、気にしないで!」


 アリサはサッと自分の手で赤い箇所を隠した。

 いや、気にするなって……その赤いのはどう見ても……。


「くははははは! そうそう、気にすんな気にすんな! ングング……プハー」


 男の声がした方を見るとクラムが板の上に座り、リーゴ酒の入ったビンを手に持っていた。

 辺りには空になったビンが2本。

 こいつ、いきなり俺を攻撃してきた後に酒を飲んでるのかよ……なんて野郎だ。


「ちょっとしつけた跡だよ。奴隷のくせに、俺様に対して言う事をきかなかったからな」


 赤くなった頬にしつけた後って言葉、やっぱり叩いたって事か!?

 こいつ! 女性に手をあげるだなんて最低野郎すぎる!


「――おまえっ! ぐぬぬぬ……!!」


 今すぐにこいつをぶん殴ろうと起き上がろうとするが、体は言う事をきいてはくれない。

 首を動かすのがやっとだ。


「リョー! 落ち着いて! ねっ?」


 これが落ち着いていられるか!

 ここで動かなきゃ漢じゃねぇ!!


「ぐおおおおおおおおおお!!」


「リョーッ!?」


 僕はアリサの押さえつけていた手を退かし、気合で立ち上がった。


「ふー……ふー……うう……」


 立ち上がれたのはいいけど、足元がフラフラする。

 気を抜くとそのまま倒れそうだ。


「ほぉ……まだ体が痺れているだろうに、その身体は伊達じゃないってか。いいねぇお前、クソ騎士団長に目元が似てるが、特別に俺様の手下にしてやるよ」


「はあ? ……誰がお前なんかの手下になるかよ! 死んでも嫌だね!」


「ングング……ぷはー……じゃあ死ね」


 クラムはリーゴ酒を飲んだ後、先ほどと同じ様に鋭い目つきで僕を睨んで来た。


「っ!」


 また魔法で攻撃する気だ。

 しかも、あの眼は本気で僕を殺そうとしている。

 こんなにフラフラだと避けるのも無理だよな……くそっあの顔に僕の鉄拳を食らわせてやりたかった。


「ファイヤ……」


 クラムの右手の手のひらの前に火の玉が出てきた。

 火の魔法か、僕じゃなくて薪を燃やしてほしいもんだ。


「待って!」


「ん?」


「ア、アリサ……さん!?」


 アリサは両手を広げ、僕とクラムの間に入って来た。


「さっき話した通り、ここは無人島! 彼はサバイバル知識が豊富、殺せばあんたが言う、ここでの生活は到底無理よ!」


「………………チッ! クソがっ! ……ングング」


 アリサの言葉にクラムは火の玉を消して、リーゴ酒を飲み始めた。

 ここでの生活ってどういう事だ。


「おい、そいつも起きた事だし、テメェ等のアジトに行くぞ」


 アジト? もしかして、拠点の事?

 アリサの奴、拠点の事を話したのか?

 僕が気絶している間に何があったんだよ。


「でも、彼はまだ、フラフラで……」


「うるせぇ! 立ち上がったんなら、問題ねぇだろうがよ!」


 手に持っていたリーゴ酒のビンを木の板へと叩きつけた。

 あーあ、ビンは無人島だと貴重だってのに粉々にしやがって。


「もういい! そいつにサバイバル知識があろうがなかろうが関係ねぇ。足手まといは……」


 クラムの手のひらの上にまた火の玉が出現した。


「わ、わかったわ。……リョーの体、支えるから頑張って歩いてね」


 アリサは僕の傍へと寄り、フラフラな僕の体を支えてくれた。


「い、いや、そんな事をしなくても!」


 慌てて距離を離そうとするが、アリサは無理やり体を引っ付けてきた。


「お願い。うちの言う事、きいて……ね?」


「…………わかった」


 そんな泣きそうな声を出さないでほしい。

 これじゃあ僕が悪者みたいじゃないか。




 僕たち3人は拠点に向かって森の中を歩き始めた。

 前をアリサと僕が歩き、その後ろには酒を飲みながらクラムがついて来ていた。

 クラムとの距離があるしアリサの顔も近い。

 小声で話せば、あいつに聞かれる心配はないだろう。


「ア、アリサ……さん、僕が気絶している間に何があったの?」


「……リョーに雷魔法を撃った後、冷静になったのか、ここはどこだ? お前等は誰だ? ってうちに対して、色々説明しろって迫って来たの」


 まぁ当然だわな。

 ただ、僕に攻撃して冷静になったっていうのは腹が立つけど……。


「しゃべってやるもんか、そう思っていたんだけど……話さないと、もう一度リョーに雷を落とすって脅されて……仕方なく、色々と話したわ」


 なんて事だ。

 気絶していたとはいえ、僕が人質みたいな事になっていたなんて。


「ある程度、話し終わったら、最初から言えや! って、叩かれたわけ……」


 それで頬が赤くなっていたわけか。

 どこがしつけじゃ、身勝手にもほどがある。


「クラムは、この無人島に住む気よ」


「はあ!?」


 脱出じゃなくて、生活をするだって!?


「声、大きい」


 おっと。

 慌てて手で口を押えた。


「……さっきクソ騎士団長、って言っていたでしょ?」


「う、うん」


 僕に目元が似ている奴だな。

 それで、僕がひどい目にあった。


「どうやら、王国直属の騎士団長に、今までの悪行がバレたみたいなのよ」


 あー……それだけで全部分かったわ。


「つ、つまり、それで別の大陸へ逃げ出そうとしたら嵐に襲われてここに流れ着いた。で、ほとぼりが冷めるまで、この無人島で身を隠すってわけ?」


「そう、いう事」


 やっぱりな。

 悪党の考えそうな事だ。


「…………着いたわ」


 アリサと話していると、拠点に到着した。


「へぇーここが……って、なんだこの趣味のわりぃ場所は? よく、こんなところで生活していられるな」


 クラムがこの異様な空間に若干引いている。

 これに関したら本当の事だから、何も言い返せないのが悔しすぎる。

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