僕はアリサの時と同じ様に、果実酒の入った木箱から果実酒を全部抜いて、木箱をバラしてその板を砂浜の上に並べて置いた。
そして、その上に寝かせる為、貴族っぽい男の腕を僕の肩にかけて立ち上がった。
「よいしょっ!」
この人、余り運動をしていない様だな。
お腹の辺りがぽっこりと出ていらっしゃる。
まぁ貴族っぽいから、おいしい物ばかり食っているんだろうな。
「よっと」
男を板の上に寝かせてから、指笛を吹いた。
これでアリサがこっちに来るはず。
その間に火をおこしてっと……。
バムムで火を起こし、焚き火が強くなった頃にアリサがやって来た。
「ねぇねぇ~。その指笛、やめない? やっぱり、ペットみたいで嫌なんだけど」
来た早々文句を言われた。
猪鹿蝶の時もそうだったけど、スマホとか無いんだしこれしか合図の出しようがないんだから仕方ないじゃないか。
「し、仕方がないだろ。アリサ……さんみたいに、人がこの島に流れ着いていたんだよ。このまま放置してアリサ……さんを呼びにも行けないし、指笛で呼ぶしかなかったんだよ」
「む~……それなら、仕方ないか。で、一体どんな人が、流れ……うえええっ!?」
アリサが男の顔を見た瞬間、目をまん丸にさせて飛び上がった。
すごいテンプレなリアクションだな。
「ちょちょちょちょっ! 何でこの男が、ここに居るのよ!?」
何でってさっき説明したじゃないか。
「だ、だから、この島に流れ着いたみたいで……」
「ああ! そうだった! 嘘でしょ……あ~も~……マジ、最悪……」
頭に両手を置いて、アリサがしゃがみこんでしまった。
この感じだとこの男とは知り合いみたいだな。
ただ……知り合いだけど、こいつとは会いたくなかった……ってところか。
「え、えと……この人は一体……」
「……こいつは、クラム・ディアック! うちにこの首枷をつけて、奴隷として売ろうとしてた、人さらいよ!」
「人さら……ええっ!!」
こいつがアリサを!?
とんでもない奴が流れ着いてしまったじゃないか!
「なら、さっさと両手両足を蔓で縛ってしまおう!」
僕は蔓を取り出し、クラムが動けない様に縛って拘束をしようとした。
「そんなの、無意味よ。火の魔法で、簡単に焼き切られちゃうわ」
「あっ……そうか……」
そうだった。
この世界の人は簡単に魔法を使えるんだった。
「んー閉じ込めるとこも無いし……力づくで抑え込むしかないか」
本当は暴力でこの筋肉は使いたくはないけど悪人が相手なら仕方がない。
僕はクラムがいつ目覚めてもいいように、肩を回して戦闘態勢をとった。
「リョーが? 返り討ち、あうだけだからやめた方が良いよ」
やる気を出している僕に対して冷ややかなアリサの言葉。
こんなお腹がぽっこりの奴に返り討ちだって?
ふっなめてもらっちゃ困るな。
「ま、魔法が使えたとしても、この筋肉で打ち破ってやるさ!」
僕は両手を挙げてから曲げ、力こぶを見せてアリサにアピールをした。
最近は島の生活でまともに筋トレが出来ていなかったけど、どうよ。
まだまだ衰えちゃあいないぜ。
「……じゃあさ。高速で飛んで来る、火の玉は受けられる?」
「……」
そんなの当たったら火傷しちゃうよ。
「尖ったツララが、飛んで来たら弾ける?」
「……」
そんなの当たったら刺さっちゃうよ。
「電撃食らって、耐えられる?」
「……」
そんなの耐えられるわけないよ。
「突風で、ふっ飛ば――」
「もういい! わかったよ! 僕の負けだよ!」
「この世界で、魔法が使えないとなると、赤ちゃんが大人に、戦いを挑むくらい無謀な事なのよ」
なんだよ、この世界のパワーバランス……おかしいだろ。
この筋肉が全く役に立たないのが悲しすぎる。
くそっこんな奴が魔法を使えるからって上位にいると思うとなんか腹が立つな。
「……待てよ、魔法……そうだ! あ、あのさ、魔法が使えるって事は、今の現状を話して協力して――」
「それは、無理! 絶対、無理!」
ソッコーで否定されてしまった。
自分をさらって奴隷にしようとした奴とは協力したくないか。
うーん……気持ちはわかるけど、何も一緒に生活をするってわけじゃない。
この無人島から出るからとちゃんと伝えないと。
「ア、アリサ……さんが嫌がるのもわかるけどさ、風魔法を使ってもらってこの島から脱出できるまで我慢を……」
「だから、無理だってば! 風魔法は、自分で調整しないと、うまく飛べないのよ!」
「ああ……そういう事でしたか……」
いい案だと思ったんだけどな。
飛べないんじゃあ駄目だ。
「そもそも、こいつとは話し合い、無駄だと思うよ……」
「え? 何で?」
「こいつ、傍若無人で他人の事は常に見下し、怠け癖も強くて金になる事でしか、動かないのよ」
うわー……それは絶対に関わりたくないタイプの奴だ。
「で、でもどうするのさ。このまま放置しても逃げるにしても、拠点で火を起こせば煙でバレる。流石にそれだけで火のない生活は無理だよ?」
これが無人島生活の辛い所だ。
いくら大きいとはいえ火をおこせば絶対に場所がバレてしまう。
「そう、だよね…………海に、戻しちゃう?」
「そ、それはいくら何でも……」
いくら悪党とはいえ、それは後味が悪すぎる。
2人してクラムをどうするかあれこれ話していると。
「……うっ……ううん…………ここは……何処だ?」
「「あっ」」
クラムが目を覚まして、右手で頭を抑えながら上半身を起こした。
どうしよう、まだ何も決まっていないのに。
「あー……くそっ……ひでぇ目にあったぜ……ああん? テメェ等、誰だ?」
起きて僕達を見た早々、この言い方よ。
アリサの言う通り、かなりの問題児ぽい。
とはいえ、起きてしまったから仕方がない。
まずは自己紹介をして、現状の説明をしよう。
「え、えと、ぼっ僕達は……」
「……似てる」
「え?」
クラムが鋭い目つきで僕を睨んで来た。
なんだなんだ、何でそんなにガンを飛ばしてくるんだ。
「テメェ! 俺様が逃げる羽目になったクソ騎士団長の野郎に目元が似てやがる!」
「はあ? 目元!?」
マジで何言ってんだこいつ。
クソ騎士団長って誰だよ。
「ちょ、ちょっと一体何を言っ――」
「気にくわねぇ! サンダーボルト!!」
「――うぎゃっ!!」
クラムが僕に右手を向けて叫んだ瞬間、チカッと光が走り僕の体に電流が流れた。
強い痛みを感じたと同時に目の前が真っ暗になっていき、アリサの叫び声も遠くなり……僕の意識は途切れてしまった。