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1、嵐が来る

 朝日が昇り、僕はのそのそとベッドから起き上がった。

 今日も今日とていい天気だなー。

 さて、アリサを起こして朝の支度をしないと。


「ア、アリサ……さん、朝だよ」


「……ん……ん~……ふぁあ~……もう、朝か」


 アリサは目をこすりながら上半身を起こした。

 いやはや、人間の慣れっていうのは本当にすごいな。

 流石に約1週間も経てば、アリサが隣に寝ていても普通に寝られるようになってしまったよ。

 まぁいい事ではあるんだけどね。


「じゃ、じゃあ僕は外のかまどに火を入れるから、アリサ……さんは……」


「……」


 ん? どうしたんだろう。

 アリサが上半身を起こしたまま固まっているぞ。


「ど、どうかした?」


「……ねぇねぇ。なんか妙に、静かじゃない?」


「へ?」


 静かなのはいつも通りだと思うんだけどな。

 だってこの島って虫はいないし動物系もほぼいないんだし。


「ん~……ちょっと、待っててね」


 そう言うとアリサはベッドから降り、走ってシェルターの外へ出ていった。

 そして近くの木によじ登って、高いところから辺りを見わたした。


「なんだ? どうしたんだ?」


 僕はわけもわからずシェルターから外に出ると、アリサが木の上から飛び降りてきた。


「よっと……リョー、外の火をつける意味、無いと思う」


「い、意味がない? えっと……どういう事?」


 火を起こさないと朝ご飯が食えないんだけど……。


「妙な静けさ、生暖かい風、強い草木の匂い、遠くにうろこ雲。たぶん、嵐が来る」


「あ、嵐が?」


 こんなにいい天気なのにな。

 けど嵐の前兆でよく聞くパターンだし、この世界の住民でハーピーであるアリサがこう言っているんだから本当に嵐が来るのかもな。


「わ、わかったよ。じゃあ、濡れたら駄目なのをシェルターの中に入れようか」


 僕達は干してある物を片っ端からシュルターの中へと入れ込んだ。

 しばらくすると、晴れていた空をどす黒い雲が覆い、雨が降ってきた。


「シェルター、いい感じだね」


「う、うん」


 かなり不安があるシェルターだったけど、雨はちゃんと防いでくれているな。

 良かった良かった。


 次第に雨が強くなり、風も吹き始めた。

 アリサの言う通り嵐がやって来たな。

 シェルターの中に入る判断は正解だった。


「あ、雨漏り、して来た」


「え? あ……」


 アリサが指摘した場所を見るとポタポタと雫が起きて来ている。

 横風のせいで隙間から入り込んでいるんだな。

 ふーむ……普通の雨は問題は無い感じだけど横雨だと駄目か。

 まぁ風が当たって軋む音がするけど飛ばされる気配は無いし、雨漏りしている所を直せば大丈夫だろう。


「い、今は補修が出来ないから……これを置いておいて、嵐が過ぎるまでやり過ごそう」


 僕は空の土器の器を手にして、雨漏りがしている場所の下に置いた。


「通り過ぎる、までか……それまで暇、だね」


 暇か。

 確かに、このまま嵐が過ぎるまでぼーっとするのもな……あ、そうだ。


「だ、だったらさ、籠を作らない?」


「籠?」


「そ、そう。嵐の後に必要だからね」


「嵐の、後に?」



「お~、リョーの言う通り、色々流れ着いているわね」


 僕達は嵐が過ぎた後、砂浜へと来ていた。

 目的は嵐で流れ着いた漂着物だ。

 さっき籠を作ったのもこの為だ。


「じゃ、じゃあ手分けして砂浜を見て回ろうか」


「わかったわ。うちは、こっちに行くね」


「そ、それじゃあ僕はこっちに」


 僕はアリサとは逆の方へと砂浜を歩き始めた。

 何か使えそうな物が流れ着いているといいな。




 ふむ、今回も大小の流木の中に、加工された物が混じっているな。

 また船が沈没してしまった可能性もあるぞ。


「…………おっ!」


 布切れを発見。

 今度は鮮やかな装飾がされた服だ。

 うーん、普通の布の服の方がありがたいんだよな。

 サバイバルに使うとすると装飾の部分は邪魔でしかない。

 まぁ無いよりはマシって事で回収しておこう。


「あ、あれは……」


 少し大きめの木箱が2個ほどうち上げられている。

 ……あの木箱ってリーゴ酒が入っていた奴とそっくりだな。

 まぁ中身がリーゴ酒と決まっているわけじゃない。

 今度こそ食べ物だと嬉しいなーと思いつつ、木箱に近づいて蓋を開けてみた。


「……マジかよ」


 木箱の中には液体の入ったガラスビンが6本。

 まさかと思いつつ、ビンの栓を抜いて臭いを嗅いでみた。

 ほのかにいちごの様な香りとアルコール臭……間違いない、リーゴ酒だ。


「いやいや! どんだけ密造酒を運ぼうとしているんだよ!」


 そんなにこの世界って密造酒が儲かるんだろうか。

 アリサの奴隷の件といい、穏やかな世界じゃないのはよくわかった。

 となると、もう1個の方もリーゴ酒が入っている木箱かな。


「まぁ、一応確認をしてみるか」


 そう思い、木箱の傍に近づいた瞬間――。


「――――っ!!」


 僕は驚きのあまり、声にならない悲鳴をあげて、腰を抜かしその場に尻餅をついてしまった。

 木箱の影に男がうつむきで倒れていた。


「しっししししししししししした――」


 僕はその場から逃げようとするが足が全く動かない。

 その場でガタガタと震えていると……。


「……っ……」


 ピクリと倒れていた男の体が動いた。


「…………今、動いた……ような……」


 下半身が海に浸かっているから、波のせい……か?

 けど、アリサの時と同じ様に生きているかもしれない。

 恐る恐る這いつくばりながら近づいてみると……。


「……うう……」


 うめき声が聞こえた。

 体も上下に揺れて息をしてる。


「生きてる!」


 僕は慌ててそのヒトに近寄り、砂浜の上まで引き上げた。

 歳は30半ばくらいだろうか。

 身なりはやたらキラキラしていて、綺麗に整えられた口ひげ、ガチガチに固めたオールバックの髪型。

 まさにザ・貴族って感じの男だな。


「嵐がまた人を運んで来るとは……」


 この無人島って、人を引き寄せる力でもあるんだろうか。

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