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9、肉の保存食

「ふぃ~…………食べた、食べた……」


 アリサは右手で自分のお腹をさすりながら寝転んだ。

 なんて行儀の悪い……とは思ったけれど、僕も同じ様にお腹をさすりながら寝転んだ。

 こうなっちゃうよ、うん。


「はあ~……このまま、寝ちゃいたいな」


 気持ちはわかるけど、それは困る。


「ほ、保存食を作らないといけないから、寝るのはちょっと……」


「冗談よ。もうちょっと休んだら、やるからさ」


 本当かな。

 目を瞑っている状態で言われても説得力が無いんですが。


「す~……す~……」


 アリサから寝息が聞こえてきた。

 フラグ回収はやっ。


「ちょ、ちょっと起き……あーもー、しょうがないな……」


 そんな幸せそうな顔で寝られると、起こすに起こせないじゃないか。

 猪鹿蝶の解体も頑張ってくれたしちょっとだけ寝かせておくかな。


 30分くらいたってからアリサを起こし、僕達は猪鹿蝶の肉を持って拠点へと戻った。



 さて、拠点に戻ったらまずは火おこしからだ。

 2人でさっさとかまどに火を付け、猪鹿蝶の保存食作りを開始した。

 まずは肉を切る……じゃなくて、肉を干す所を作らないとな。

 僕は長めの棒を地面に突き刺して、倒れない様に棒の先を石でガンガンと叩きつけた。


「あれ、リョーってば、何してるの?」


「ま、まずは肉を干す所を作らないと……この棒から少し離れた場所にも立てて、2本の棒の間に蔓を張るんだよ」


「……ああ。肉を洗濯物を、干す感じにするのね」


「そ、そう」


 洗濯物って……まぁ実際そんな形になるから違うとも言えない。

 本当なら魚の干物みたいに網の上に乗せて乾かすのが理想だけど、肉の量を考えるとでっかい網を作らないといけなくなる。

 でも、この方法なら棒2本と蔓1本があれば出来るという訳だ。


「じゃあ、うちはもう片方の棒、立てるわね」


「あ、よろしく……」


 アリサが立てた棒の間に蔓を張り終わり、これで準備は完了。

 次は肉の番だ。


「に、肉の作業に入ろうか」


「お~」


「じゃ、じゃあまずは猪鹿蝶の脂身の部分を、2人掛かりで取り取り除こう」


「脂身、付いていたままだと駄目なの?」


「あ、脂身は水分が多くて、そのせいで腐りやすくなってしまうんだよ」


「へぇ~、なるほど……」


 だから、最初に取り除かいないといけない。

 これは猪鹿蝶だからじゃなくて豚でも牛でも鳥でも、どんな肉でも同じ事だ。


「よし、じゃあさっさと、取っちゃいましょ」


 アリサは足の爪で猪鹿蝶の脂身の部分を削いで地面に落として行った。

 おっと、その脂身を捨てられては困るぞ。


「あ、取った脂身はその辺に捨てないで、この葉っぱの上に乗せていって」


 僕は鱗で無理やり取った脂身部分を、地面の上に置いてある大きい葉っぱの上へと置いた。


「え? まさか、脂身だけを食べるの? 流石に、それは……」


「そ、そうじゃないよ! 別の使い道があるの!」


 とはいえ脂身も貴重なエネルギー源ではある。

 油を取り過ぎないように気を付けて夕飯にするのもいいな。



 肉の脂身を取り除くのができたら、干しやすいように薄切りにしていく。

 肉が厚すぎると、しっかりと乾燥が出来ないで脂身が無くても腐ってしまうから注意だ。

 大体1cmぐらいが良いんだけど……くそ、鱗だと思った厚さに切れないな。

 やっぱり包丁がほしい。


 肉を薄切りに出来たら、塩水につける。

 いつもなら海につけるけど、せっかく塩を作ったんだからこの塩を使おう。

 土器にろ過した水を入れて、作った塩もその中に入れた。


「ちょっと味見を……ペロ」


 土器の塩水をお玉で少しすくって葉っぱの上に落とし、舐めてみた。

 肉をつける塩水は塩分3%、海水と大体一緒なんだけど……このくらいかな?

 んー気持ちもうちょっと入れておこうっと。


「じゃ、じゃあこの位の厚さで切った肉を、この土器の中に入れていってくれるかな」


 若干ボロボロ状態で切った肉をアリサに見せ、土器の塩水の中へと入れた。


「はいは~い」


 この時にニンニクとかショウガがあれば、肉の臭みを取ることができて食べやすくなるんだけどな。

 当然のごとく無いから、このまま続行だ。

 肉を塩水に入れたらしばらく放置して漬け込む。



 漬け込みが出来たら、取り出して水分をはらう。

 そして、作っておいた蔓にどんどん肉をかけていって干していく。

 干す時に大事な事は、肉同士がくっつくと間隔を開ける。

 くっついてしまうと肉が乾きずらくなってしまうかららしい。

 そして、直射日光が当たらないように日陰に干す事。

 こっちの理由は全然知らない、素人的には日にあたって乾くのが早いと思うんだけどな。

 まぁそう動画で言っていたからそうするだけだ。


「これでよし……あとはこのまま2~3日干して、肉がカチカチになれば保存食の完成だ」


「お~。これで好きな時に、肉が食べられるね!」


「そ、そういう事だね」


 干し肉とはいえ、それは本当にありがたい事だ。

 量も結構あるしな。

 さて、このままラードもさっさと作ってしまうか。

 その為に脂身を取っておいたんだよね。


 僕は脂身を手に取り、鱗を使って出来る限り細切れにしていった。


「お、残して置いた、脂身じゃない。それ、どうするの?」


「ラ、ラードを作ろうと思って」


「ラード?」


「えーと……簡単に言えば、油の塊かな」


「油の塊……そんな物、役に立つの?」


「た、立つから作るんだよ。ラードがあれば、料理のバリエーションを増えるし、いざとなれば明かりの燃料にも使えるんだよ」


「だったら、そのままでも、良くない?」


「こ、このままだと身の方が邪魔になるだろ? だから、油のみを出すわけ」


「ああ~、なるほどねぇ」


 切った脂身とコップ1杯くらいの水を土器の中に入れて、かまどの上に置く。

 かき混ぜながら脂身が色づくまで煮ていく。

 脂身が色づいたらかまどから外して、ビンの中に脂身が入らない様に気を付けてラードを入れれば完成だ。

 後は直射日光に当たらない様にシェルターの中に入れてっと。


「……だいぶ拠点も充実して来たな」


 かまど、薪、鱗斧、シェルター、ベッド、土器、多種多様な保存食。

 この無人島に来た時は何にもなかったのにな。

 人間、やれば何とかなるもんだ。


「――よし! この調子でどんどん開拓していって雨期も乗り切るぞ!」


 自分の頬を叩き、次の作業へと向かった。




 この時の僕は思いもしなかった。

 一週間後、この無人島を襲う大嵐がとんでもない厄災を運んで来る事に……。

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