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5、猪鹿蝶との再会

「そ、そんなの僕にはわからないよ……」


「まぁ~そう、だよね。そう、思った」


 思ったのなら聞かないで下さい。


「ん~……どう、しようか」


 アリサが腕を組んで首をひねった。

 目印になるようなものが無いとなると難しいな。

 とはいえ見つけたし、このまま何もしないっていうのもなー。

 何かいい方法は無いだろうか。


「……そうだ! 火で、焼いちゃうの、どう?」


 思いついたのがそれかよ。

 駄目に決まっているでしょうが。


「い、いや、ラファイスルどころか、森全体が燃えちゃうって……」


 そうなるともはや手が付けられない。

 無人島だから消防なんて呼べないし、手持ちのビンの水だけじゃあ火を消すのは無理だ。

 仮に消せたとしても、手持ち分だけで消える火だとラファイスルの除去なんてできているわけがない。


「あ~……そっか……む~……」


 このままだと埒が明かないな。

 運任せになるから適当でやりたくはなかったけど、仕方ないか。


「と、とりあえず、2人でめぼしい所を切ってみてみようよ」


「それしか、ないか~。じゃあうちは、上の方、切るね」


 アリサは木に登り、ラファイスルの蔓を切り始めた。

 じゃあ僕は下のを切るかな。


「うえぇ……ネチョネチョして気持ち悪い」


 しかも、このネチョネチョの粘液のせいで摩擦力が無くなって蔓が掴みにくい。

 粘着質があって滑りやすいとか、これは予想以上に大変な作業だな。

 わかっているだろうけど、念の為アリサに注意を促しておこう。

 声掛けは大事だし。


「ア、アリサ……さん、落ちない様に気を付けてね」


「大丈夫、このくらい、平――きゃっ!」


 言った傍からアリサが手を滑らせて、密集しているラファイスルの蔓の上に落ちてしまった。

 おいおい、フラグ回収早すぎだろう。


「うう、助けて~~!」


 アリサが助けを求めて、蔓の中でもがいている。


「あ、駄目だよ、そんなに暴れると……あーあ……」


「うわあああん! どう、なってるのおおお!」


 アリサが、ますます蔓に絡まっちゃったよ。

 もうー労働を増やさないでくれよ。




 どうにかこうにか、からまった蔓を切って何とかアリサの救出に成功することが出来た。


「うう……ひどい目、あったよ」


 全身ネチョネチョだな。

 こりゃあ、また沢に行かないと駄目かな。


「はぁ~……ちょっと海で体、洗って来るね」


 そっか。

 わざわざ沢に戻らなくても、海で洗い流した方が近いし早いか。

 まぁどっちにしろ塩を落とすのに沢には行かないといけないけど……。


「つ、ついて行こうか?」


「ううん、自分のせいだもの、大丈夫よ」


「あ、うん……わかった」


「じゃあ、行って来るね」


 アリサは駆け足で海の方へと向かって行った。

 ふーむ……ただ待っているだけなのも時間が勿体ないし、改めてラファイスルの除去方法を考えてみるか。


「あ、そうだ! 庭の草むしりが面倒で、除草方法を調べた事があったな」


 えーと、確か……。

 ・除草剤を使う。

 ・重曹を混ぜた水をかける。

 ・酢をかける。

 ・塩水をかける。

 ・熱湯をかける。

 ……くらいしか思い出せないな。


 一番手っ取り早いのは除草剤を巻く事だ。

 庭に使ったのもこれだったから、効果は抜群だった。

 けど、この島で除草剤なんて手に入るわけがないので駄目。


 次、重曹。

 無人島にあるわけないし、作り方も知らないからこれも駄目。


 次、酢。

 除草剤と重曹と同様に、この島にはないし作り方も知らない。

 でも、酸っぱいといえばリーンの実だ。

 もしかすると、酢と同じ効果がある可能性がある。

 ただ……枯らすには、かなりの量が必要だからリーンの実を大量に採って、汁をかけるっていうのは現実的じゃないよな。

 そもそも、食料になるから枯らす為だけにっていうのも非常にもったいない。


 で、塩だ。

 塩はあるけど、リーンの実同様に使うのは非常にもったいない。

 だからかなーり大変だけど、海水を土器に汲んでかけるという事は出来る。

 けど、塩は土を汚染して良くないんだよな。

 塩害でラファイスル以外の植物も枯れるし、育たなくなってしまう。

 それじゃあなんの意味が無いから塩も駄目。


 そうなると、残りの熱湯になる。

 やろうと思えば今からでも出来るけど、この規模だと手持ちの土器では到底おっつかない。

 100個くらいは必要になるかな……100個ってとてもじゃないけど用意できないから駄目。


「…………うん、詰んだ」


 どれもこれも駄目だ。

 やっぱり元を断つしかないのかな。

 どこかそれっぽいところは無いものか……。


「リョー!」


「……ん?」


 振り返ると、アリサがこっちに向かって走ってくる。

 どうしたんだろう、別に急いで戻ってくる理由も無いのに。


「……あれ、待てよ? この感じって……ハッ!」


 まさか、また猪鹿蝶に追われているんじゃ!?

 そう思い、僕は慌ててアリサの後ろをよく見てみてみたが猪鹿蝶の姿は見えなかった。

 なら違うみたいだな。


「はあ~……はあ~……」


 走って来たアリサが僕の前で立ち止まった。

 おいおい、全身ネチョネチョのままじゃないか。


「ちょっ、ちょっと! どうし――」


「――っ!」


 僕の言葉を遮るかのように、突然アリサが僕の腕を掴んだ。


「――ひゃっ!?」


 その瞬間、動揺して僕の口から奇声が漏れてしまった。

 突然そういう事をするのは止めてよ。


「早く! こっち、来て!」


 アリサは声を荒げて、僕の腕をぐいぐいと引っ張って来た。


「ちょっちょっと待ってよ、何があったのか説明を……」


「説明の、時間が勿体ないから! 早く!」


 僕は訳も分からないまま、アリサに引っ張られて連れていかれた。




 ラファイスルから少し離れた茂みの中に連れ込まれてしまった。

 何なんだよまったく。


「あ、あのー、一体何が……」


「……いたっ! リョー、静かにゆっくりと、こっちに来て」


 アリサが小声で手招きをしている。

 本音は動揺するから近づきたくないけど……仕方ないか。

 僕は言われるまま、声を出さずゆっくりとアリサの傍へと寄った。


「あれ、見て」


 アリサが右手で指を指をさした。

 その先を見ると……。


「――っ!」


 そこには一生懸命に前足で穴を掘っている猪鹿蝶の姿があった。

 マジかよ、本当に猪鹿蝶がいたのか!!

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