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4、異世界の食虫植物

 初めて来た、無人島の北西辺り。

 パッと見たところ他の場所とあまり変わりがないな。

 何か新しい発見があるかもと思ったんだけど……。


「……ん? スンスン」


 なんだろう、ほのかに甘い匂いがするぞ。

 これはフローラル系かな……?

 近くに花でも咲いているのだろうか。


「……この匂い、もしかして……」


「な、何の匂いかわかるの?」


「たぶん、ラファイスルだと、思う」


 ラファイスル? ……ああ、アリサの言っていた食虫植物か。

 確か僕の身長の2倍くらいある、大きくて真っ赤な花だったよな。


「この近くにあるのかな?」


「匂い、かすかだから、まだ遠いわね」


 マジかよ、これでかすかなのか。

 匂い的に十分な気がするんだけどな。


「風向きから、こっちにある、と思うけど……どうする? 行ってみる?」


 んー別に危害を加えるタイプじゃないみたいだし、どんなものか見てみたい。

 どの道、除去対象だし行ってみるか。


「う、うん。行ってみよう」


「わかった、いってみましょう」


 僕達は、匂いがする方へと歩いて行った。



 歩いて10分くらいたっただろうか。

 一向にラファイスルがある場所につかない。

 本当に近くに無かったんだな。

 けど、どんどん匂いが強くなってきているから、確実に近づいてはいる。

 それにしても、不思議だ。

 蜜のような甘ったるい匂いがしたと思えば、いきなり肉が腐った様な悪臭に変わり、そこから青臭い葉っぱの様な匂いになって、柑橘系の酸っぱい匂いになるとめちゃくちゃだ。

 あらゆる虫が匂いに寄って来るっていうのもうなづける。

 これならこの島から虫が消えたり、生態系を壊すっていうのもわかるわ。

 異世界の食虫植物って怖いなー。


「……ん?」


 目の前に、なにか浮いて動いているのが見えるぞ。

 黄と黒のしましま模様の虫……あれはハチか?

 けど、僕の知っているハチとはだいぶ違う。

 黄と黒のしましま模様、大きさスズメバチほどくらいしか共通点が無い。

 まず、一番おかしいのは手足の数と異常な長さだ。

 簡単に言えば蜂の体に蜘蛛の足が生えている感じ……あまりにも不気味過ぎる。

 そして、針が出るしっぽの部分から緑色の細くて長い紐みたいなのが出ている。

 一応はちのこは食用に出来るけど、あの姿を見ると食べたくないな。


「あ、あれって……虫……だよね?」


「うん。ジーイック、だね」


 あのクモハチはジーイックっていうんだ。

 この島では全く見なかったけど、来たばかりでラファイスルの匂いに誘われたのかな。


「ラファイスルに、捕食されて、囮にされてるわね……」


「捕食? 囮?」


 あんなに元気に飛び回っているのに、捕食だなんて…………待てよ。

 よく見ると、あのクジーイックはなんで羽を動かさずに空中を飛んで動き回っているんだ。

 羽が早く動きすぎて止まって見えているなんて事はあり得ないよな。


「……まさか」


 僕は嫌な想像をしつつ、気になっていたしっぽから出ている緑の紐を目線で追って行った。

 その先は地面と繋がっていた。

 いや、地面から生えていると言った方がいい。


「……あの、ジーイックのしっぽから出ている緑色の紐って……」


「そう、ラファイスルの、蔓よ。捕まえたジーイックの中身だけ溶かして、ガワを自分の蔓につけて、飛んでいる様に、見せているの」


「うげぇ……やっぱり……」


 これが捕まえた虫までも利用するってやつか。

 おいおい、なんて惨い事をしているんだ。


「それでおびき寄せたのを、別の粘着質の強い蔓で捕まえて、口の部分に運ぶわけ」


 それは本当に植物ですか。

 もうモンスターにしか思えないんですけど。


「匂いもだいぶ強いし、囮もあった。周りの蔓も、多くなって来たという事は、ラファイスル、近くにあるわね」


 アリサの言葉で辺りを見渡すと、木という木に蔓が絡みついていた。

 これ全部ラファイスルの蔓って事なのか。


「さっ、進むわよ」


 アリサがすたすたと進み始めた。

 僕は恐怖を感じつつ、後ろから続いた。




 囮のジーイックを過ぎると、匂いがかなり強くなり、蔓の絡み具合もすごい量になって来た。

 この絡み具合、完全にホラーな場所なんですけど。


「……あったわ」


 アリサが大きくて太い1本の木の前に立ち止まり、見上げた。

 僕も見上げてみると……。


「えええ……こ、これが……ラファイスル……」


 匂いを出す巨大な花という事で、僕はラフレシアの様な花のイメージを持っていた。

 だから地面に生えていて、大きな花1つドーンとあるとばかり思っていた。

 けど、目の前にあるのは全く違っていた。


 ラファイスルは、1本の太くて大きな木に絡みついていて赤くて巨大なチューリップみたいな花だった。

 それも花は1つだけではなく別の木1本に対して1つ、全部で6つもある。

 そうか……色んな匂いが出せるのは、それぞれ花から匂いを出しているからか。

 で、辺りでニチャニチャと粘着質な音を出して動いているのが、獲物を捕まえる為の蔓ってわけね。


「ちなみに口は、それぞれの花の中にあるわ。うち達、みたいなのがね」


 ……それを聞いて、ますます植物だとは思えなくなってきた。

 やっぱりモンスターじゃないか!


「ほ、本当にラファイスルって人を襲わないの!?」


 全然信じられない。

 普通に人を捕食してそうなんですけど。


「大丈夫、だって。そもそも、襲ってくるんだったら、もうとっくに襲われてるわよ」


「……あ、そうか」


 言われたら確かにそうだ。

 とはいえ、恐ろしいものは恐ろしい。

 さっさと除去してしまおう。


「ど、どうやってラファイスルを除去しているの?」


「簡単よ。寄生している木から、水分を取ってるから、その部分を切れば、枯れるわ」


 なるほど、ただ絡みついているんじゃなくて水分を取る為にくっ付いているのか。

 本当にすごい食虫植物だな。


「じゃ、じゃあさっさと切って……って、それはどこにあるの?」


 蔓が木に絡まりすぎて、何処から水分を吸い取っているのか全く分からない。

 手あたり次第に切ってもいいけど、鱗斧じゃあ簡単に切れないだろうから相当時間と労力がかかるのは目に見えている。

 だから、ここだって所をピンポイントでやらないと辛いぞ。


「……え~と……………………何処だと、思う?」


 現地人のアリサがわからないのに、僕がわかるわけないでしょうに。

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