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2、古の知恵

「お~、綺麗に、なってる!」


 アリサが洗った服を伸ばして感心している。

 良かった、服の汚れはちゃんと落ちてくれた。

 すごいよな……灰汁で洗濯をするなんてよく見つけたもんだよ。

 昔の人に感謝しつつ、洗濯をした服を陽の当たる枝にかけた。

 うん、洗濯物が陽に当たって風でなびいてるところを見るのは気分がいいな。


 さて、乾かしている間に土器洗いと漏れないかのチェックをしますか。

 僕はもってきていたお玉と土器の器を手に取った。


「あ、うちも、手伝うよ」


「じゃ、じゃあこのお玉を洗ってくれる?」


「お玉ね、まかせて~」


 アリサにお玉を渡し、ぼくは土器の器を沢の中に入れて洗い始めた。

 まずは小さいひびが入っている器から。

 すすを洗い流して全体を確認してみると、ひびが見えるのは外側だけで内側はない。

 これなら水漏れはなさそうだけど、確認はちゃんとしておかないと駄目だよな。

 水を中に入れて、しばらく放置っと。


 次、大きなひびが見えている器。

 すすを洗い流して……あーあ、この時点で水漏れしてるよ。

 これは液体を入れない物入に決定だな。


 最後は見た目に問題が無かった器。

 すすを洗い流して、全体を見てもひび割れは見えない。

 後は水を汲んで漏れが無いかどうかと、火の上において割れてしまわないかだな。

 火の上に置くのは後回しにして、水を入れてっと……。


「リョー、お玉、洗ったよ」


 お、丁度いいタイミング。


「あ、ありがとう」


 アリサからお玉を4本受け取り、1本1本確認をした。

 すすで気が付かなかったけど、4本のうち2本が持ち手の棒にひびが入っているな。

 縦状なら問題は無いとは思うけど、横には入っている奴は使わない方が無難かもしれん。

 かき回している時に折れたら悲惨だし。


 とりあえず、ひびが入っていないお玉の実験をしてみよう。

 僕は沢の中にお玉を入れて、水をすくい上げてみた。

 柄は折れる事も無かったし、水が漏れている感じも無い。


「おっ、これなら、器から汁、すくえるね!」


 もう1本のお玉も同じ様に沢の水をすくい上げてみた。

 こっちも問題無し。

 2本確保できたのは大きいぞ。


 少し時間を置き、水を入れた土器の確認。

 ……どっちも水漏れはしていないようだ。

 ただ、小さなひびの入っている方は火の上に置くのはちょっと危険かな。

 このひびが熱で広がって割れてしまう可能性もあるし。

 となれば、残った1個が火の上においても大丈夫かの実験対象になるな。




 さて、沢でやる事はもう済んだ。

 島の探索の事も考えると、そろそろ海に向かった方が良いが……。


「服は……まだ乾いてないか」


 いくら日当たりが良くても、流石に早すぎたか。

 んー……どうしよう、このまま乾くまで待つのも時間が勿体ないよな。

 かといって濡れた状態で服を着るっていうのも辛い。


「…………仕方ない」


 僕は服を干してある枝を折り、肩に担いで海に行く事にした。



 いつもの海に到着。

 そして、いつもの様に火おこしから準備開始。

 この流れはもう体にしみついて来たな。


「そ、それじゃあ、燻製作りをしようか」


「お~」


「ぼ、僕は燻製の準備をするから、アリサ……さんは罠で獲れた小魚の下ごしらえをお願いしていいかな?」


 正直、この葉っぱの服で海に入りたくない。

 頼む! 承諾してくれ。


「わかったわ。どう下ごしらえ、したらいいの?」


 よし! 願いが通じた!


「こ、小魚の内臓を取って、塩をふって天日干しをしておいてほしんだ」


「え? それだと、干物になっちゃうよ?」


「そ、そこまで乾かさないよ。表面が乾く位で良いんだ」


「そっか。じゃあ、やってくるね~」


 アリサはもんどりをあげに海へと向かって行った。

 僕も燻製作りの為の準備を始めるか。

 燻製は煙にあぶって食料を長持ちなせる方法だ。

 やり方は3種類。

 ・熱燻

 ・温燻

 ・冷燻


 熱燻は80度から140度くらいの高温で、約30分ほどの短時間で食材を一気に燻す方法。

 ただ、食材の水分が多く残ってしまうから保存には向かない。

 すぐに食べる食事用という辺りかな。


 温燻は30度から80度くらいの温度で、約2時間ほどかけて食材を燻す方法。

 燻製法としては最もポピュラーで、キャンプとかでよく見る方法だ。

 熱燻と比べると食材の水分が抜ける分、保存も良くなる。


 冷燻は15度から30度くらいの低温で、数週間ほどかけて食材を長期間燻製をかける方法。

 長時間をかけて食材の水分を抜くから、長期保存が可能だ。

 本当なら冷燻が理想なんだけど、気温に左右されるし、そもそも冷燻用の道具もない。

 到底ここでは作れない。


 そうなると、保存食を作るなら温燻になるから縄文式燻製をやってみよう。

 縄文式燻製をやっている動画を見て、縄文時代にもう燻製が作られていた事に凄い驚いたのを今でも忘れられない。


 まずは大き目の穴を地面に掘って、その横に小さ目の穴を掘る。

 ここの土は堅めだけど、ドラゴンの鱗の敵じゃない。


「……こんなもんかな」


 大体、肘くらいの深さで良かったはずだ。


「リョー、出来たよ~」


 小魚の下ごしらえを終えたアリサが戻って来た。

 思ったより速かったな。


「おお、また、穴だ」


 穴です、いつも通りの。


「うち、手伝う事ある?」


 手伝いか……そうだな。

 穴はこのまま僕一人でも出来るし……あ、やってほしい事があるわ。


「は、葉っぱのついた枝の先を、大量に採って来てほしいな」


「葉っぱの、ついた枝?」


「あ、穴の中に煙が充満するように、大量の葉っぱを置いて蓋をするんだよ」


「なるほど。わかった、とってくるね」


「よ、よろしく」


 アリサが葉っぱを採っている間に作業を再開だ。

 穴が出来たら、その間にトンネルを掘って2つの穴を繋げる。

 大き目の穴に火を入れて、小さ目の穴に煙を流す仕組みだ。


 トンネルが出来たら最後の作業。

 バムムの若木を細く割って串状にする。

 その串を小さな穴の側面に縦横に突き刺して、燻す物が並べる網を作れば完成だ。


「……本当に、これだけで煙が流れるのかな」


 動画ではスムーズに流れてはいたけど……ぱっと見だと不安だな。

 ちょっと実験してみるか。

 僕は大きな穴に枝と枯れ葉を入れて、かまどの火を穴に移した。

 枝をどんどん入れて火を強くしていくと煙の量も増え、小さ目の穴からも煙が出てきた。


「おー出てきた出てきた」


 これなら蓋をすれば燻製が出来そうだ。

 それにしても、煙で食べ物を燻すと長持ちをするっていうのを昔の人はどうやって思いついたんだろうか。

 灰汁もそうだけど、今なら科学の進歩のおかげでこういう原理があるからこうすればこうなるという答えが出て来る。

 けど江戸時代、ましてや約1万年の人類がそういった原理がある事を知るわけもない。

 でも実際使われていた……そう考えるとある意味、昔の人の方が天才だったのかもしれないな。

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