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1、疑いの目

 頭がまだぼーっとするな。

 もうちょっと寝たい感じもあるけど、そうも言っていられない。

 今日も頑張るぞ。

 僕はゆっくりと起き上がり、シェルターの外へと出た。


「あ、朝の支度……ありがとう……」


 かまどの前には干物が焼かれていた。

 残しておいた分も焼いちゃったか。

 まぁ干物を残しておいてとも言ってないし、朝ご飯の準備もしてくれたんだからあれこれ言うのもあれだな。


「うん。それにしても、大丈夫?」


 アリサはかまどに薪を入れてから立ち上がり、僕の傍にへと寄って来た。


「え? な、なにが?」


 大丈夫と聞かれても、多少眠いくらいで特に異常はないんだけどな。


「うちの方が、早く起きたから、体の調子、悪いのかなって思って」


「ああー……」


 そういう事か。

 1回寝坊しただけで心配されるとは思いもしなかった。

 というか、今までアリサより早く起きていたのは、僕が早起きじゃなくてただただ寝れない状況だったから早起き状態になっていただけなんだけどな。

 けど、それをはっきりいうのもなんか恥ずかしいし……適当に元気だよアピールをしておくか。


「だ、大丈夫だよ。ほら、この通り」


 僕は体を捻ったり、屈伸運動をして元気な所をアリサに見せた。


「そう? なら、いいけど……」


 アリサはあまり納得がいっていない感じの顔をしつつかまどへと戻った。

 これはこれで、無理をしている様に見えてしまったかもしれんな。

 まぁ疲れからの可能性もあるし、今日は早く寝る事にしよう。

 慣れで寝れるようになっていればの話になっちゃうけど。


 さて、朝ご飯はアリサに任せて僕は焼いた土器の確認するかな。

 器の方はひびが入っていても、まだ物入として使える。

 問題はお玉だ。

 ひびが入っていたり割れていたら、その時点で使い物にならない。

 どうかうまくいっていますように。


「どうなっているかな……」


 火の消えた土器焼き専用のかまどに枝を入れて炭を退かし、土器を取り出していった。

 まずお玉……んー見たところ割れてもいないし、大きなひびが入っている感じも無い。

 洗って水をすくってどうなるかだな。


 で、次は器の方だけど……1個目は特に問題はなさそうかな。

 けどひびが見当たらないだけで、水に入れたら漏れてしまう可能性も考えられるのが怖い所だ。

 2個目は……あー目に見えるほどの大きなひびがある。

 これは入れ物いきだな。

 3個目は……小さいひびが入っているけど、これはどうだろう。

 水を入れてみないとわからないな。


「お~い、リョー、焼けたよ~」


「あ、うん」


 アリサの呼びかけに、僕はビンの水で手を洗ってかまどの方へと向かった。


「出来上がり、どうだった?」


「あ、洗って水を入れてみないと、何とも言えないかな」


「そっか。うまくできてると、いいね。いただきま~す」


 それを願うばかりだよ。

 1個は確実に駄目だけど、残り2個もってなるとな。

 だから毎日土器は作っていきたいんだけど、今日は寝坊してしまったから土器作りアリサにも手伝ってもらおうかな。

 本当なら木を伐る作業の続きもやりたかったんだけど……今日は諦めだ。


「ア、アリサ……さん、朝ご飯食べた後に土器作りの手伝をお願いできるかな?」


 樹液を集めてある、取りに行かなくても拠点で土器が作れる。

 まさに器があるからこそできる事だ。


「うちが? うまくできるか、わからないよ?」


「だ、大丈夫だよ。作るのは簡単な器の奴だから」


 陶芸みたいに立派な物を作るんじゃないからな。

 それに形が良くても焼いた時に割れる可能性もある。

 だから、形が悪くても器にさえなっていれば何も問題は無い。


「簡単な、か……わかった、いいよ」


「あ、ありがとう」


 よし、そうと決まればさっさと干物を食べて土器作りをしますか。




 干物を食べ終え、粘樹の樹液と土を混ぜた粘土をアリサに渡して土器の作り方をざっくりと説明。

 そして出来上がったのが、僕達の目の前にある2つの土器の器だ。


「土器作り、結構楽しいものね」


 1つは形が歪んでいる物。

 もう1つは形が綺麗になっている物。


「……そ、それは良かった……」


 どうしてだ。

 僕の器は歪んでいるのに、アリサの器は綺麗な形をしている。

 何で教えた方より教わった方のが出来が良いんだ。


「まだ余っているし、もう1個、うちが作ってもいい?」


「……あ、うん……いいよ……」


 今は陶芸みたいな立派な物を作るんじゃない。

 それに形が良くても焼いた時に割れる可能性もあるんだ。

 だから形が悪くても、器にさえなっていれば何も問題は無い……無いんだ。

 朝ご飯前に思った事を復唱して必死に自分に言い聞かせた。

 そうしないと、敗北感に襲われて立ち直れそうにも無かった。


 歪んだ形の土器と綺麗な形の土器2個を、日があたって風通しの良いところに置いて乾燥。

 土器はこれで良し。


 次は今日のやる事に必要な灰汁だ。

 だいぶ時間も経っているし、十分灰も沈殿しているはずだ。


「どんな感じになっているかな?」


 僕は昨日作った、灰と水を混ぜた物を入れた器を覗き込んだ。

 灰は器の底に沈み、水はうっすら灰色に濁った状態になっていた。

 その濁った水の上澄みを空きビンですくいとって……。


「灰汁の完成」


「……ええ……本当に、それ使うの?」


 現物を見たアリサの顔が曇った。

 その気持ちはわからんでもないよ。

 でも、実際に使われていたんだから。


「そ、そんな顔しないで、沢にいくよ」


 僕達は洗濯をする為に沢へと向かった。



 沢に着き、僕はさっそく葉っぱの服に着替える事にした。

 開いている部分は蔓で結んだから、そこから見えてしまう問題は無いけど……ワンピースみたいな感じになってしまったから下半身がスースーしてめちゃくちゃ落ち着かない。

 早く洗濯を終わらそう、日の当たる所に干せばすぐ乾くし、ぶっちゃけ多少濡れていても問題は無い。

 この葉っぱのワンピースを着ている方がなんか辛いもん。


「あ、灰汁を服の上にかけてからよく揉んで」


「……わかった」


「そ、その後は、よく水で洗い流してね。確かアルカリ性? っていう成分が強くて、肌に良くないんだよ」


「はあ? 肌に、良くないって……そんな物で、洗濯する方が、良くな――」


「――よ、汚れは落ちるんだし! ちゃんと洗えば問題は無いの! ほら、口ばかり動かさないで手を動かす!」


 僕はアリサの言葉を遮り、誤魔化すように必死になって手を動かすのだった。

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