洞窟の奥へと足を踏み入れながら、グータは心のどこかで後悔し始めていた。
「……俺、なんでこんなことしてんだ?」
今さらながら、そう思う。
わざわざ不気味な場所に入って、死んだ人間の声を聞いて、それを確かめようとしている。普通に考えたら、馬鹿げてる。自分は戦士でもなければ探検家でもない。ただ、ダラダラしていたいだけの男だ。
「なのに、なんで俺は……」
『……たすけ……て……』
まただ。
洞窟の奥から、誰かの声が聞こえる。
明らかにただの幻聴ではない。誰かが、本当に助けを求めているような声だった。
「……幽霊か、それとも……?」
グータは自分の胸のあたりを軽く叩いた。緊張をほぐすための癖だ。
深呼吸し、もう一歩進む。
ザクッ……
靴が何かを踏んだ。
「……ん?」
下を見下ろすと、それは軍用のヘルメットだった。
「……マジか。」
砂に半分埋もれているそれを引き抜き、裏返してみる。ヘルメットには銃痕のような穴があり、中には誰もいない。
「やっぱ、ここってガチの戦場だったんだな。」
戦争があった、というのは兵士から聞いていた。だが、こうして遺物を目の当たりにすると、急に現実味を帯びてくる。
戦った誰かが、ここで死んだ。
その事実を突きつけられると、軽口を叩く気分にもなれなかった。
「……行くしかねぇな。」
ヘルメットをそっと地面に戻し、グータはさらに奥へと進んだ。
『……たすけ……て……』
声が、すぐ近くまで来ていた。
目の前に現れたのは、大きな金属扉だった。
白銀に輝く、閉ざされた巨大な扉。
まるで、この場所がかつての基地だったかのように、そこには軍事施設のような雰囲気があった。
扉の表面には、奇妙な文字が刻まれていた。
「……読めねぇな。」
見たこともない言語だったが、妙に規則的な配列をしている。まるで暗号のようにも見える。
「どうするよ、開けるか?」
自分に問いかけながら、そっと扉に手を触れた。
すると――
ガコン……!
「……うわっ!」
扉が、勝手に開いた。
まるで、グータが来るのを待っていたかのように。
「……嫌な予感しかしねぇ。」
慎重に足を踏み入れると、中は想像以上に広かった。
白い壁、整然と並んだコンソール類、そして――
中央にぽつんと佇む、透明なカプセル。
グータは、ゆっくりとそのカプセルに近づいた。
カプセルの中には――
「……え?」
少女が眠っていた。
透き通るような白い肌、短めの銀髪、閉じられたまつ毛が、静かに眠っていることを示している。
カプセルの表面には、かすれた文字が残されていた。
「PROJECT: NOAH」
「プロジェクト……ノア?」
グータは眉をひそめる。
その時――
少女の目が、ゆっくりと開いた。