目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第7話 遺跡の奥で待つもの

 洞窟の奥へと足を踏み入れながら、グータは心のどこかで後悔し始めていた。


 「……俺、なんでこんなことしてんだ?」


 今さらながら、そう思う。


 わざわざ不気味な場所に入って、死んだ人間の声を聞いて、それを確かめようとしている。普通に考えたら、馬鹿げてる。自分は戦士でもなければ探検家でもない。ただ、ダラダラしていたいだけの男だ。


 「なのに、なんで俺は……」


 『……たすけ……て……』


 まただ。


 洞窟の奥から、誰かの声が聞こえる。


 明らかにただの幻聴ではない。誰かが、本当に助けを求めているような声だった。


 「……幽霊か、それとも……?」


 グータは自分の胸のあたりを軽く叩いた。緊張をほぐすための癖だ。


 深呼吸し、もう一歩進む。


 ザクッ……


 靴が何かを踏んだ。


 「……ん?」


 下を見下ろすと、それは軍用のヘルメットだった。


 「……マジか。」


 砂に半分埋もれているそれを引き抜き、裏返してみる。ヘルメットには銃痕のような穴があり、中には誰もいない。


 「やっぱ、ここってガチの戦場だったんだな。」


 戦争があった、というのは兵士から聞いていた。だが、こうして遺物を目の当たりにすると、急に現実味を帯びてくる。


 戦った誰かが、ここで死んだ。


 その事実を突きつけられると、軽口を叩く気分にもなれなかった。


 「……行くしかねぇな。」


 ヘルメットをそっと地面に戻し、グータはさらに奥へと進んだ。


 『……たすけ……て……』


 声が、すぐ近くまで来ていた。


 目の前に現れたのは、大きな金属扉だった。


 白銀に輝く、閉ざされた巨大な扉。


 まるで、この場所がかつての基地だったかのように、そこには軍事施設のような雰囲気があった。


 扉の表面には、奇妙な文字が刻まれていた。


 「……読めねぇな。」


 見たこともない言語だったが、妙に規則的な配列をしている。まるで暗号のようにも見える。


 「どうするよ、開けるか?」


 自分に問いかけながら、そっと扉に手を触れた。


 すると――


 ガコン……!


 「……うわっ!」


 扉が、勝手に開いた。


 まるで、グータが来るのを待っていたかのように。


 「……嫌な予感しかしねぇ。」


 慎重に足を踏み入れると、中は想像以上に広かった。


 白い壁、整然と並んだコンソール類、そして――


 中央にぽつんと佇む、透明なカプセル。


 グータは、ゆっくりとそのカプセルに近づいた。


 カプセルの中には――


 「……え?」


 少女が眠っていた。


 透き通るような白い肌、短めの銀髪、閉じられたまつ毛が、静かに眠っていることを示している。


 カプセルの表面には、かすれた文字が残されていた。


 「PROJECT: NOAH」


 「プロジェクト……ノア?」


 グータは眉をひそめる。


 その時――


 少女の目が、ゆっくりと開いた。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?