目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第6話 星の遺跡と静寂の声

 星の砂を踏みしめながら、グータは無言で歩いていた。

 吹きつける風は冷たく、空はどこまでも広い。だが、それ以外は何もない。


 「……ほんと、何もねぇな。」


 つい愚痴が口からこぼれる。


 兵士の話が本当なら、この星はかつて戦場だった。だけど、今はそんな痕跡すら見当たらない。荒野が果てしなく広がるだけで、生き物の気配はない。


 「つーか、これ、見て回る意味あんのか?」


 正直、歩きながらも半信半疑だった。

 この星を知るため、とか言ってみたものの、見渡す限りの何もない景色を眺め続けるのは苦痛に近い。


 本当にここで、何かが起こったのか?


 そう疑いかけた、その時だった。


 足元が、急に変な感触を伝えてきた。

 柔らかい砂ではない。何か、硬いものを踏んだ感触。


 「ん?」


 グータは立ち止まり、靴の下のものを覗き込む。

 砂に埋もれかけたそれは、金属だった。


 「……なんかの残骸か?」


 しゃがみ込み、砂を払ってみる。

 すると、そこから姿を現したのは……。


 「これ、建物の一部か?」


 金属板のように見えたそれは、どうやら何かの建造物の一部らしい。完全に埋もれているが、角ばったデザインが、自然物ではないことをはっきりと示している。


 「なるほどな……あったじゃねぇか、戦場の痕跡。」


 グータは少しだけ、興味を持ち始めた。


 「ってことは、他にも何かあるか?」


 あたりを見回すと、砂丘の影になっている場所に、不自然な窪みが見えた。


 「……ちょっと行ってみるか。」


 慎重に足を運び、そこへと近づく。


 すると――


 「……なんだ、これ。」


 砂に埋もれた巨大なドーム型の建物が、そこにあった。


 薄暗い洞窟のように、ぽっかりと空いた入口。

 そして、何よりも不気味だったのは――


 その奥から、微かに「声」が聞こえたことだった。


 「……は?」


 思わず耳を澄ます。

 確かに、誰かが話しているような、そんな声が聞こえる。


 しかし、それははっきりとした言葉ではなく、まるでノイズ混じりの古い録音のような、不明瞭なものだった。


 「……幽霊か?」


 冗談めかして言ってみたが、冗談では済まない雰囲気だった。


 「いや、待てよ……?」


 グータは少し考える。

 もしこれがただの幽霊なら、なぜこんな場所に残っている?

 誰かがメッセージを残しているのか?

 それとも――。


 「……行くしかねぇか。」


 このまま引き返したら、きっとまた同じ疑問にぶつかるだけだ。


 グータは大きく息を吸い、ドームの中へと足を踏み入れた。


 ザッ……ザッ……。


 砂を踏む音が、洞窟の奥へと響く。


 内部は驚くほど広かった。まるで地下都市のように、天井が高く、壁にはかつて何かが刻まれていたらしいが、ほとんど風化している。


 そして、足元に転がるのは――。


 人間の形をした「影」。


 「……っ!」


 グータは思わず後ずさる。

 影――いや、それは、人間の焼け跡だった。


 「……マジかよ……。」


 誰かが、ここで死んだ。

 いや、正確には、「焼き尽くされた」。


 壁にも、床にも、いくつもの影が残っている。

 まるで、熱線か何かで、一瞬にして命を奪われたかのように。


 「……兵士の言ってた戦争って、こういうことか。」


 グータは拳を握った。

 この場所には、確かに戦争の傷跡が刻まれている。


 だが、それだけじゃない。


 まだ、何かがここに「残っている」。


 「……声が、まだ聞こえる。」


 注意深く耳を澄ます。

 すると、奥の方から、再びかすかな声が――


 『……たす……け……』


 「……!?」


 はっきりとした言葉だった。


 「誰かいるのか……?」


 反射的に声をかける。だが、返事はない。


 代わりに、洞窟の奥に、ぼんやりと光が見えた。


 「……行くしかねぇよな。」


 グータは苦笑しながら、ゆっくりと光の方へ歩き出した。


 この先に何があるのか――それは、まだわからない。


 だが、確実に「何か」が、この場所にはある。


 戦争の遺跡と、静寂の中に響く声の正体を確かめるために。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?