星の砂を踏みしめながら、グータは無言で歩いていた。
吹きつける風は冷たく、空はどこまでも広い。だが、それ以外は何もない。
「……ほんと、何もねぇな。」
つい愚痴が口からこぼれる。
兵士の話が本当なら、この星はかつて戦場だった。だけど、今はそんな痕跡すら見当たらない。荒野が果てしなく広がるだけで、生き物の気配はない。
「つーか、これ、見て回る意味あんのか?」
正直、歩きながらも半信半疑だった。
この星を知るため、とか言ってみたものの、見渡す限りの何もない景色を眺め続けるのは苦痛に近い。
本当にここで、何かが起こったのか?
そう疑いかけた、その時だった。
足元が、急に変な感触を伝えてきた。
柔らかい砂ではない。何か、硬いものを踏んだ感触。
「ん?」
グータは立ち止まり、靴の下のものを覗き込む。
砂に埋もれかけたそれは、金属だった。
「……なんかの残骸か?」
しゃがみ込み、砂を払ってみる。
すると、そこから姿を現したのは……。
「これ、建物の一部か?」
金属板のように見えたそれは、どうやら何かの建造物の一部らしい。完全に埋もれているが、角ばったデザインが、自然物ではないことをはっきりと示している。
「なるほどな……あったじゃねぇか、戦場の痕跡。」
グータは少しだけ、興味を持ち始めた。
「ってことは、他にも何かあるか?」
あたりを見回すと、砂丘の影になっている場所に、不自然な窪みが見えた。
「……ちょっと行ってみるか。」
慎重に足を運び、そこへと近づく。
すると――
「……なんだ、これ。」
砂に埋もれた巨大なドーム型の建物が、そこにあった。
薄暗い洞窟のように、ぽっかりと空いた入口。
そして、何よりも不気味だったのは――
その奥から、微かに「声」が聞こえたことだった。
「……は?」
思わず耳を澄ます。
確かに、誰かが話しているような、そんな声が聞こえる。
しかし、それははっきりとした言葉ではなく、まるでノイズ混じりの古い録音のような、不明瞭なものだった。
「……幽霊か?」
冗談めかして言ってみたが、冗談では済まない雰囲気だった。
「いや、待てよ……?」
グータは少し考える。
もしこれがただの幽霊なら、なぜこんな場所に残っている?
誰かがメッセージを残しているのか?
それとも――。
「……行くしかねぇか。」
このまま引き返したら、きっとまた同じ疑問にぶつかるだけだ。
グータは大きく息を吸い、ドームの中へと足を踏み入れた。
ザッ……ザッ……。
砂を踏む音が、洞窟の奥へと響く。
内部は驚くほど広かった。まるで地下都市のように、天井が高く、壁にはかつて何かが刻まれていたらしいが、ほとんど風化している。
そして、足元に転がるのは――。
人間の形をした「影」。
「……っ!」
グータは思わず後ずさる。
影――いや、それは、人間の焼け跡だった。
「……マジかよ……。」
誰かが、ここで死んだ。
いや、正確には、「焼き尽くされた」。
壁にも、床にも、いくつもの影が残っている。
まるで、熱線か何かで、一瞬にして命を奪われたかのように。
「……兵士の言ってた戦争って、こういうことか。」
グータは拳を握った。
この場所には、確かに戦争の傷跡が刻まれている。
だが、それだけじゃない。
まだ、何かがここに「残っている」。
「……声が、まだ聞こえる。」
注意深く耳を澄ます。
すると、奥の方から、再びかすかな声が――
『……たす……け……』
「……!?」
はっきりとした言葉だった。
「誰かいるのか……?」
反射的に声をかける。だが、返事はない。
代わりに、洞窟の奥に、ぼんやりと光が見えた。
「……行くしかねぇよな。」
グータは苦笑しながら、ゆっくりと光の方へ歩き出した。
この先に何があるのか――それは、まだわからない。
だが、確実に「何か」が、この場所にはある。
戦争の遺跡と、静寂の中に響く声の正体を確かめるために。