戦いが終わった。
グータは荒い息をつきながら、静まり返った星の上に立ち尽くしていた。
異星の兵士たちは撤退し、巨大な艦船も闇へと消え去った。だが、それが本当に終わりを意味するのかは、彼自身にもわからなかった。
「はぁ…疲れた。」
グータはその場に座り込み、夜空をぼんやりと眺めた。星々はいつも通り輝いている。ただ、自分が今までと違う場所にいるような、そんな違和感があった。
「やっと終わったな。」
背後から、あの幽霊兵士が静かに呟いた。彼の姿は相変わらず青白く、どこか現実感がない。
「終わった…って、本当にそうなのか?」
グータは天を仰ぎながら答えた。
「ああ、ひとまずな。だが、これはほんの序章に過ぎない。」
兵士の言葉に、グータは思わず顔をしかめた。
「はぁ? また来るってことか?」
彼は嫌そうに言いながら、砂の上に仰向けになった。
「奴らは諦めることはない。今日の戦いはただの偵察だ。本番はこれからだろう。」
兵士は腕を組み、静かに夜空を見つめていた。
グータは思わず頭を抱えた。
「はぁ~…最悪だ。結局、ダラダラしてる暇なんてないってことか。」
その時だった。突如として、星の空気が変わった。まるで、何かがそこに潜んでいるような、冷たい気配が広がる。
「ん? なんだ、この感じ…?」
グータはすぐに身を起こし、周囲を見渡した。さっきまで戦っていた場所のはずなのに、今はまるで異世界に迷い込んだような錯覚に陥る。
「感じるか?」
兵士が低く呟く。
「何か…いるのか?」
グータは警戒しながら立ち上がった。
その瞬間、音もなく影が動いた。
「うわっ…!」
思わず後ずさるグータ。目の前に現れたのは、さっきまで見たこともない、異形の存在だった。
それは、まるで兵士のような姿をしていたが、体の一部がぼんやりと歪み、透明になったり黒く滲んだりしていた。目は闇のように黒く、見つめるだけで吸い込まれそうな錯覚を覚える。
「…幽霊か?」
グータは無意識に呟いた。だが、これはただの幽霊ではない。何か…異質なものが混ざっている。
「これは…戦場に取り残された“亡霊”だ。」
兵士の声がどこか沈んでいた。
「亡霊?」
グータはその言葉を反芻しながら、目の前の影を凝視した。
「戦争の中で死んだ者たちの怨念が、この星に染みついている。その残滓が、こうして実体を持ち、彷徨っているのだ。」
兵士は冷静に語った。
グータは目を細めた。
「…だったら、成仏とかさせればいいんじゃね?」
だが、その瞬間、亡霊が動いた。
まるで音もなく宙を滑るように、一瞬でグータの目の前まで迫る。手がかすめた瞬間、冷たいものが体を貫いたような錯覚が走る。
「うおっ…!」
反射的に飛び退くグータ。その動きに反応するように、亡霊はふわりと宙を舞い、再び消える。
「…やべぇ、コイツ、マジでヤバい。」
グータは心の中でそう確信した。
「こいつらは普通の武器では倒せない。物理的な存在ではないからな。」
兵士が静かに言う。
「じゃあ、どうすんだよ!?」
グータは叫んだ。こんな得体の知れないものと戦える気がしなかった。
「お前の力を使え。」
兵士は冷静に言い放つ。
「俺の力? あの光のやつ?」
グータは前回の戦いで発動した自分のエネルギーを思い出した。
「ああ。だが、あの時は無意識だったはずだ。今度は、自分の意思で放て。」
兵士の言葉に、グータは額に汗を滲ませながら、自分の手のひらを見つめた。
「…どうやんだよ。」
その瞬間、亡霊が再び動いた。黒い影が一気にグータを包み込むように迫る。心臓が跳ね上がる感覚を覚えながら、グータは反射的に拳を握った。
ドンッ――!
突如として、彼の手のひらから淡い光が放たれた。それはまるで波紋のように広がり、亡霊の体を弾き飛ばす。影が一瞬揺らぎ、亡霊は苦しむように形を歪めた。
「…やれる。」
グータは自分の力を確信した。
亡霊は再び姿を現し、ゆっくりと形を戻す。だが、さっきよりも明らかに弱っている。
「なるほど、これなら倒せる…!」
グータは目を見開き、再び光を発動させようとした。その時――
「やめておけ。」
兵士の声が遮った。
「なぜだ?」
グータは思わず問いかける。
「これ以上の戦いは、お前の力を削るだけだ。今はまだ、退けるだけでいい。」
兵士は冷静だった。
グータはしばらく黙っていたが、ふっとため息をつき、
「…ったく、せっかくノってきたのに。」
と呟いた。
亡霊は消え去った。戦いは、またも終わった。しかし、グータの心の中には、新たな疑問が生まれていた。
「俺の力って、一体…なんなんだ?」
この星で生まれた“亡霊”たちの正体、そして、グータが持つ未知の力。その全てが、まだ謎に包まれていた。