グータは空を見上げた。異星の艦船が徐々に近づいてくるのが、目に見えてわかった。その大きさは圧倒的で、まるで空が飲み込まれてしまうかのように、漠然とした恐怖を感じさせる。
「こりゃ、ヤバいな…」
思わずつぶやいたが、周囲は静かだ。まるで時間が止まったかのように、ただ冷たい風が吹き抜けるだけだった。
「お前、何を呑気にしてるんだ?」
突然、後ろから声が聞こえてきて、グータは振り向いた。そこには、あの幽霊兵士が立っていた。目は依然として冷徹だが、口調は少し焦りを含んでいた。
「お前、どうするんだ?」
グータは何も答えずに、再び空を見上げた。艦船はさらに近づいてきている。その大きさはまるで星そのものが浮かんでいるような錯覚を覚えさせる。
「いや、どうしろって言われても…」
グータは苦笑しながら言った。まったくもって、この状況が信じられない。だって、こんなことになるなんて予想してなかった。星の上でダラダラしてるだけだったのに、いつの間にか戦争が始まってしまっている。
「お前がどうするかなんて、関係ない。」
兵士が冷たく言った。
「俺がどうにかしろって言ってんだろ。」
グータは目を細め、思わずため息をついた。どうしてこんなことになったのか、自分でも理解できない。
「俺は別に英雄になりたくないんだよ。」
その言葉は、心の中から自然に出てきたものだった。だって、自分にできることは限られている。それに、英雄だなんて、大げさだ。彼はただ、何も考えずに過ごしたかっただけだった。
兵士はグータの言葉に反応せず、ただじっとその目で見つめてきた。グータはその視線を避けることなく、むしろじっと向き合った。
「分かるけどさ、俺には力なんてないだろ。」
グータはそう言いながら、ふっと空を見上げる。だが、空はどこまでも広く、何も答えてくれない。ただ、その艦船だけがどんどん迫ってくる。
「俺に力がある? それって、どういう意味だ?」
思わず声が震えた。何もかもが重すぎて、呆然とする自分がいた。
兵士は一歩前に進んで、静かに言った。
「お前には力がある。それを使うべき時が来た。」
その言葉は、まるで冷静な事実を告げるようだった。
グータは自分の内心を探った。力? そんなもの、自分にはない。何もできるわけがない。だが、なぜかその言葉が心の中に残り、じわじわと重くのしかかってくる。言われてみれば、確かに自分には“何か”がある気がする。それが何かはわからないけれど、まるで自分が知っていることが、何か大きな力に引き寄せられているような感覚があった。
「でも、俺には何もない。」
グータはその言葉を繰り返した。心の中で何かが反発しているようだった。
兵士は無言で、再び空を指差した。
「見ろ、あれが来ている。お前が選ばれた理由を、今知ることになる。」
その言葉に、グータは無意識に振り向く。
艦船がどんどん近づいてきている。巨大な船体は、まるで夜空そのものを覆い尽くすような存在感を放っていた。その形状は、グータが見たことのないもので、鋭利で冷徹な印象を与える。
「それが来たら、どうなるんだ?」
グータは声を震わせながら言った。兵士は冷静に答える。
「この星が壊れる。お前が戦わなければ、ここは消滅する。」
その言葉には一切の余裕がなく、どこか焦りを感じさせるものがあった。
「消滅?」
グータは目を大きく見開いた。まさか、そんなことになるのか? 星が消える? そんな話を誰が信じるっていうんだ?
その時、遠くから地響きが伝わってきた。艦船の到着を知らせるような、重い音だ。グータはその音がどんどん大きくなっていくのを感じた。
「お前が戦わなければ、この星は無事ではいられない。」
兵士の言葉が、グータの心に突き刺さった。自分にできるのか、わからない。けれど、今この瞬間、自分が何もしなければ、全てが終わるという現実が、どこかで理解できた。
「わかったよ…」
グータはそう言って、空を見上げる。目に映る艦船は、今やもう目の前に迫っている。その巨大さに、グータは自然と心を引き締めた。
「でも、俺のやり方で戦うよ。」
そう呟きながら、グータは一歩踏み出した。どこか迷いが消え、決意が湧いてきた。今から始まる戦いに、自分がどう立ち向かうのかは、まだわからない。しかし、もう後戻りはできない。
それが、グータの新しい決意だった。