グータは、星の上でただのんびりしていた。周りには何もない。砂漠のような広がりが延々と続くだけの、無機質で冷たい世界。しかし、グータにとっては、そんな時間こそが最高の贅沢だった。地球でも、ここでも、仕事や責任から解放されたのは久しぶりだ。
「こんなところで、ダラダラしてていいのかね…」
グータはふと自分に問いかけた。いや、もうどうでもいいのだ。だって、これが「星の上」の生活だ。特にやりたいこともなく、ただ過ごしていれば、それだけで満足だった。
その日は、いつも通りの空気だった。少し風が吹いて、遠くに見える青い空に、ポツンと浮かんだ白い雲。それをぼーっと眺めていると、少し心が落ち着く。
「……あれ?」
ふと、目の前に一瞬、異常な気配を感じた。空気がぴんと張り詰め、なにか重苦しいものが圧し掛かってきたような気がした。
グータは無意識に立ち上がる。周囲には、誰もいないはずなのに、何かが近づいてきている…そんな予感がした。
「…おい、誰だよ。」
目の前に現れたのは、全身に鎧をまとった幽霊の兵士だった。顔は真っ白で、目はうつろにこちらを見つめている。ただし、その兵士は何も言わずに立ち尽くしているだけだ。
グータは少し警戒しながらも、無駄に戦う気にはなれなかった。戦闘とか面倒だし、そもそもこんな場所で誰と戦うっていうんだ?
「おい、なんだよ、これ。」
兵士はそのまま無言で立っていたが、やがて口を開いた。
「お前は…選ばれし者だ。」
その言葉は、あまりにも唐突で、思わずグータは目を見開いた。
「は? 何言ってるんだ?」
グータは半信半疑で問い返すが、兵士は動じることなく続けた。
「お前の力で、星を守るのだ。」
グータはその言葉をしばらく黙って聞いていた。何かが変だ。こんな展開が、現実にあり得るとは思えない。どうしてこんな不気味な奴が現れて、急に星を守れだなんて言うんだ?
「いや、俺はただダラダラ過ごしたいだけなんだよ。」
思わず本音が口をついて出る。だが、兵士はその言葉を聞いても何も答えず、ただひたすらグータを見つめ続けた。目が、冷徹で何かを試すような、そんな印象を与えていた。
「選ばれた者…って、なんだよ、それ。俺、別に英雄になりたいわけじゃない。」
グータはもう一度、兵士に向かって言った。
その時、兵士が小さく呟いた。
「お前には力がある。それを使え。」
その言葉に、グータは胸が重くなるような気がした。だが、結局、彼はどこかでこの星がどうなろうと、自分には関係ないと思っていた。
「力? 何それ、俺にそんなものあるのか?」
グータは空を見上げ、何もかもがどうでもよくなって、また座り込んだ。だが、兵士はまだ黙って立っている。
その時、突然、空が暗くなり、空気が変わった。どこからともなく、異様な音が響き渡る。
「来た…」
兵士は低く呟いた。その言葉と同時に、グータは目を見開いた。空に浮かぶ巨大な艦船が見え、何かがこの星に向かって迫っているのがわかった。
「…俺、やっぱり戦うんだな。」
そう心の中で呟くと、グータはふっと立ち上がった。