少年の涙は、いつの間にか止まっていた。
私はその少年の持っている心を学ぶため、残りの10年を少年と一緒に生活することにした。
一緒に朝起きて、一緒に会話して、一緒に隠れて、一緒にご飯を食べて、一緒に寝て、また一緒に起きる。
そんな日常の繰り返しだった。
楽しい。
私の空っぽの心がそう告げた。
うれしい。
私の空っぽの心がそう告げた。
幸せ。
私の空っぽの心がゆっくりと満たされていくのを感じた。
人間というのは、あたたかい生き物なんだなと思う。
こうやって抱き合っていると体がポカポカするから。
こうやって話していると心がポカポカするから。
こうやって一緒に寝ていると、私の中の冷たいものが解けていく気がした。
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そんなとある朝だった。
少年は消えていた。
いつものように朝起きると隣で寝ているはずの少年の姿がなかった。
急いで探すと、少年は燃え盛る街を見渡しのいい場所で呆然と見渡していた。
私は急いで少年を隠れさせた。
「なんで危険なことしたの?」
私が問うと少年はゆっくりと答えた。
「心…教えてあげようと思った」
その言葉に私は困惑した。
心を教えてもらえるチャンスを逃したのかもしれない。
そう、思った。
「でも…もうお姉さんは心を持ってるみたい」
意味が分からなかった。
少年はそんな言葉を残して隠れ家に戻っていった。
突然と消えて、心を教えると言われ、心はすでに持っていると言われた。
理解できなかった私は、心を教えることができると述べた少年を、失うわけにはいかなくなったのだった。