膨大な雨が降り注ぐ日本という国の一端で私は目を覚ました。
その雨は敵を殺すための雨だと聞いたことがある。
だが私は。この青い空から降り注ぐ兵器のような雨も、きれいだなと思ってしまう。
陥落した都市…日本。
そんな世界で私は生きるために廃墟となった町を探索する。
だが今日は、いつもと違ったものを見つけた。
緑色のカプセル状の物体。
保存カプセルといわれるソレは中の生命体を保存する役割があると聞く。
普段は壊れているカプセルしか見なかったけれど。
今日はいつもと違った。
中には…女の子がいた。
きっと。機械族の女の子。
見たところ欠損部分はない。
それはちょっとした好奇心だった。
私は、カプセルの中で眠る女の子を。カプセルの外に出したんだ。
ひとりぼっちのこの人生にほんの少しだけ色をつけたかったのかもしれないし、ほんの少しだけさみしかったのかもしれない。
私と同じぐらいの見た目…高校生ぐらいの女の子。その子はカプセルから出てきてすぐ、息をした。
「大丈夫?」
私が放ったその一言を、彼女はゆっくりと飲み込んで、言った
「大丈夫」
その言葉には、感情がなかった。
表情からも、感情が一切感じられなかった。
機械族なのだから、当然なのだろうか。
私はその女の子をつれて、このちっぽけな世界を旅することに決めた。
まず、図書館を探した。
機械族について調べるためだ。
カプセルから出たばかりの女の子をおんぶすることもあった。
機械族はこんなにも軽いのかと、驚いた。
雨は敵を殺す兵器というのは知っていたので、女の子を雨のもとに連れ出すことはしなかった。
移動のペースは落ちるけけれど、特に急ぐ用事もなかったから、二人で一緒に探検した。
2日かけて図書館についた私たちは、機械族について調べた。
何も言わずとも、女の子は機械族について調べ始めた。
まるで思考が読まれてる感覚だった。
調べて分かったことは少しだけ。
機械族は模倣が得意なこと。
だが心は模倣できないこと。
機械族は集団で生活すること。
だが欠陥品は集団から切り離されること。
機械族は、この地球以外の異世界から来たということ。
機械族はご飯を食べなくてもいいということ。
機械族には寿命という概念がないということ。
だが体は変化するということ。
それだけだった。
私はふと、目の前の機械族の女の子に、少しでも人間らしくなってほしいと思った。
もし、心の模倣ができたのならこの機械族と人間の戦争は、止まるのではないか。
もし、人間らしい機械族がいるのなら、仲良くなれるのではないか。
何も話さず手伝ってくれる女の子。私は雨宿りをしつつ機械族の彼女に、ご飯を与えてみることにした。
野菜のスープを私は作り、一度私が食べて毒がないことを証明して、女の子の口へ運ぶ。
女の子はそのスープを口に入れるとゆっくりと飲み込んだ。
どうやら食べられないということでもないらしい。
それから私は、私たちは。二人で食事することが増えた。
二人でいっしょに過ごすこともふえた。
一緒に朝起きて、一緒に探索して、一緒に雨宿りして、一緒にご飯を食べて、一緒に寝て、また一緒に起きる。
そんな日常を繰り返し、いろんな場所を見て回った。
最初に見たのは大量の機械族の山だった。
命を失った機械族がごみのように捨てられていた。
彼女はそれを見て何を思っただろう。
次に行ったのは水に侵食され倒壊したビル群だった。
ビル群は緑に覆われて、一望できる場所に木製のベンチがあった。そのベンチから見る景色はきれいだった。
彼女はそれを見て何を思っただろう。
そんな一人ではない日常。そんな時ふと私は思った。
そうだ、本を書こう。
文字の心を通わせる小説。それを読んだら、もしかして…心がわからない機械族の女の子でも、感情を感じることができるのではないだろうか。
そう思ってから、私の行動は早かった。
まずいきついた先で、いろんな本を見た。私自身たくさん小説を見てきたほうではなかったからだ。
まず、心を教えるためにはまず、私が心を書く方法を身につけなければならなかった。
それから私は探索の合間に詩を書くことにした。
小説なんて小難しいこと私にはできない。だからそのまま歌として読む詩を選んだ。
何日も、何か月も、何年もかけて、その詩を書き続けた。
寿命がない機械族でも体は変化するというが、目の前の機械族の体も少しづつ変わっていった。
一緒にお風呂に入っているとそう思う。
ーーーーーーーーーーーー
あれから10年が経過した。
初めてあった時の面影はとうになくなっていて、その女の子はベンチに座り、水につかったビル群を眺めている。
このちっぽけな国を一周して、何を思っているのだろうか。
私には分からなかった。
そんな女の子に私は、何度も書き直した詩を渡した。
彼女はおもむろにページを開くと何も話さず、ただそのページを見つめていた。
そんな女の子を、私は置いて探索に出た。
何か思ってくれることがあればいいなと願いながら、私は探索をした。
戻ってきたころには雨が降っていた。
私は雨宿りしているはずの女の子を探した。でも、見つからなかった。
探し回っているうちに雨がやんだ。
女の子はまだベンチに座っていた。
雨を浴びた女の子は動かなくなっていた。
雨を浴びた女の子は…びしょびしょで、冷たくて…ほんの少しだけ笑っているように見えたのは、気のせいだろうか。
そんな彼女を私は土に埋め埋葬した。
手に持っていた詩にはたった一言。
「ありがとう」
そう付け加えてあった。
ーーーーーーーーーーーー
それから私は知った。
雨は、黒い雨と呼ばれ、人間にのみ害があると。
私はそこで、初めて自分が機械族だと知った。
同時に私は欠陥品であることを知った。
私の目から、何かが落ちた気がする。ふと見上げれば雨が降っていた。