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僕は君といたい。

「まさかお嬢様がご結婚なさるなんて」

「私もびっくりしちゃった、しっかり見送らなくちゃ」

 僕は侍女達に並んで、ただ俯いていた。

 この年で、しかも望まぬ相手との結婚。どんなに苦しいだろうか。

 そんな中、昨日あんなに犯して、侵されて僕は一体なにをしてるんだ。

 彼女の事が好きだって自覚出来たんだろう、ならやる事はひとつだろ。それもせずのうのうと性にふけて、馬鹿か僕は。

「お嬢様が来ましたわよ!整列!」

「はい!!」

 使用人の列の端に並ぶ僕。

 馬車の音が次第に聞こえ、豪邸の前に止まった気品のある豪華な馬車。

 馬の嘶きが敷地に鳴り響き、操縦席と呼ぶのだろうか?馬の手綱を持っている使用人の男が馬をよしよしと宥める。

 そして、この後すぐに式を上げるのだろう。ステラが、花嫁のドレスを着て屋敷の大扉をくぐった。

 コツ、コツと彼女は無情に進んでいく。

 あんなに、あんなにみだらに絡み合って口づけを交わしたのに僕には見向きもしない。

 その程度の男だとも取れる。でも朝起きて、隣に眠る彼女は一筋の涙が浮いていて。

 裸で寝る彼女に、もちろん僕も全裸。どうしようもない体でただ、ただ、醜く僕も泣き腫らした。

 僕の顔が可愛い、絶対化粧似合うって女装して遊ばれた時にもらった化粧箱でなんとか隠した、けど。

 なあ、君の顔もすんごい腫れた顔してたんだ。隠してるんだろ?見せろよ。おい、おい!

「おい!なになにもありませんでしたみたいな面してんだよ!」

 我慢できなくなって声を上げた僕に侍女は驚いて、開いた馬車に手を向ける執事の手前で、彼女は足を止める。

 そうだよ、それでいい、それでいいんだ。

「昨日はよくも僕にセクハラしてくれたな!いくら価値のない食用肉として買ったからって許さねーぞ!!」

 彼女は止まったまま、足を止めたままだ。

「おい!聞いてんのか!!このブス!日本食バカ!顔だけの能無し!」

 その言葉の羅列を聞いた瞬間、ステラは一瞬で振り返り、ダンダンダンダンダン!と音をたててこっちに向かってきた。

「な・に・か、言ったかな?童貞くん」

 彼女は笑顔なんだけど、鬼の形相という言葉がしっくりくるようなただ怖さしか感じない顔を肉薄させながら、喋ってくる。

 あ、あへ、怖い。怖いよー、ままー。

「なにも言っておりません、はい」

 つい真顔になって彼女も笑顔のキレ顔。もう修羅場てしかない。

 でも、いきなりこんな展開になったからか、ステラも急に吹き出して笑いを堪えていた。

「くく……く、ぷふ!もーうなによー、今まで真面目に苦しんでたのが、バカみたいじゃない……!それに私セクハラしてないし!!ユウキからしてきたんじゃん!」

 あっ、あれ?拍子抜け、された?

 で、でもチャンスだ、今言うしかない!

「あ、はは。ごめん、これだけ言わないと立ち止まってくれないと思って。でも、これだけは言わせて。……僕は君が好きなんだ。誰かに取られたくない。それに命の恩人だし、他に方法があるなら僕がなんとかするよ」

 そう、真面目に、彼女の金色の瞳を見て呟く。

 でも、その言葉を笑いを抑えて聞いてたステラは、ぽか~んと口を開けて、すぐにあひゃひゃとバカ笑いをかます。

「あはあはは、げほっげほっ。あー久しぶりに笑った。でーもユウキ、あなたの言っていることはあなたがこの家を継ぐくらい大変な事よ。あなたがこの結婚をぶち壊して、これでも権力のない私に代わってこの家を立て直すの。それが出来るとしたら、もうあなたは当主になっているわ。血筋さえないあなたにそれが出来るの?あなた引きニートでしょ?」

 え、ええ~!?めっちゃ凄い事をめっちゃ凄い弾丸トークで並べられても……。

 いや、やるしかない。彼女に救われ、彼女を好きになってしまった時点で答えは決まってるんだ。

 当主にでもなんでもなってやるさ。

「分かった。いえ、分かりました、お嬢様。必ずや貴方を娶り、当主の実力を手に入れてご覧いれましょう」

 僕は彼女の手をそっと掴み、膝まづいては彼女の手の甲にキスをした。

 その後、この話題で侍女達がきゃーきゃー言うようになって、永遠の黒歴史になったのは言うまでもない。


 彼に手の甲をキスされた。まるで騎士で姫にするようなその儀式が、私にはとても恥ずかしくて、凄く嬉しかった。

 前世ではヒモの彼氏の代わりに過労になるぐらい働いて、休日になれば彼のセックス相手。

 そりゃ死ぬのも納得。

 生まれ変わったら何もかも持った存在だった。地位も、家柄も、この世界で魔法を使うための魔力適正も。

 成長するにつれて、この世界、この国では食人文化があって、人間が食われる為に育てられてる事を知った。

 この国は政治も整っていて、尚且つ他国からの攻撃に備えての防御も強かった。

 でもそれは、回復アイテムとして大量に両脚羊と呼ばれる人間の肉で魔力を回復してるからだ。

 この国でただ、それだけが気に食わなかった。

 それで、私も魔法が使える、いざっていう時の為に両脚羊を手元に置きたいから養人場へ連れてってと父に打診した。

 そうしてなんとか手に入れた彼は、どこか女の子みたいに頼りなくて、でも同じ転生者だというのは知ってたから飲み込みは早かった。

 そして、何故だろう。なんとか使用人にして一緒に暮らしてくうちに彼に引かれてた。

 今ではこんなに立派になって。

 昨日の一夜限りの夢だと思ってたのに。いいの?私、こんなに恵まれて。

「私でいいの?ユウキ、ううん、レイ」

「君だからいいんだよ」

「ありがとう、私も大好きだよ」

「うん、知ってる。バレバレ」

 ふふっ、こんな異世界転生も悪くないね。

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