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桜の降る日に

 春の風がふわりと頬をなで、満開の桜が優雅に舞う午後。


 高校二年の**奏多(かなた)**は、校庭の隅にある一本の桜の木の下に立っていた。そこは、彼にとって特別な場所だった。


「奏多、またここにいたの?」


 軽やかな声に振り向くと、幼なじみの**紗良(さら)**が笑顔で立っていた。彼女はいつも明るく、どんなときも前向きな性格で、奏多とは対照的だった。


「今日は、なんか風が心地よくてさ」


「……うそ。どうせ、去年のこと思い出してたんでしょ?」


 図星を突かれ、奏多は目を伏せた。


 一年前、この桜の木の下で、彼は親友の**悠真(ゆうま)**を事故で失った。ほんの一瞬の出来事だった。何もできなかった後悔が、今も奏多の胸を締め付ける。


「悠真なら、きっとこう言うよ。『いつまで落ち込んでんだよ、バカ』って」


 紗良の声は優しく、どこか懐かしかった。


「わかってる。でも……簡単には忘れられないよ」


「忘れなくていいんだよ。ただね、奏多が前を向いてくれたら、悠真もきっと安心すると思う」


 ふわりと、桜の花びらが二人の間を舞った。その瞬間、どこからか悠真のいたずらっぽい笑顔が見えた気がした。


 ――生きろよ、俺の分まで。


 悠真の声が聞こえた気がして、奏多は空を見上げた。桜の花が、まるで「大丈夫だよ」と言うように降り注いでいた。


「……そっか。俺、そろそろ進まなきゃな」


 奏多はそっと目を閉じ、深く息を吸い込んだ。春の香りが胸いっぱいに広がる。


「よし、帰ろうぜ!」


 紗良の声に、今度は自然と微笑むことができた。


 桜の降る日に、止まっていた時間が、ゆっくりと動き出した。

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