目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第24話:決着

 ──カザンが繰り出した攻撃によって形成されたクレータの中心で、ボロボロになったカザンが一人佇んでいる。だが、ひび割れた鎧は既に修復が始まっており、パキパキと音を立てながら傷が塞がっていく。振り下ろした戦斧を肩に担ぎ直し、カザンは気だるそうに息を吐いた。



「ふー、死ぬかと思ったぜ」

「「こっちのセリフだッ!!」」


 無数に空けられた穴から、老人と子供が目を吊り上げながら飛び出してきた。



 ☆



「へッ、文句言うな。俺だって痛いんだ」

「マジで死ぬかと思った。未だに頭がクラクラするぞ……」


「これでも手加減したんだぜ。俺が死なないようにな」

「手加減って……これでもかよ」


 草木も灰も全てが吹き飛んでいる。ひび割れた地面はあちこちがガラスのようになっていて、カザンの攻撃の凄まじさが見てとれた。



「俺だって腹に風穴開けられたんだ」

「その前に俺は殺されかけてるぞ。それ位許せ」

「ま、まぁまぁ。見張りもいなくなったみたいだし」


 巻き込まれないように距離をとっていたセコーモの虫は、さっきのカザンの攻撃に巻き込まれて消し飛んだみたいだ。どこにもその姿は見当たらない。



「ところで、その……カザン、さん。 何で僕たちを助けてくれたの?」

「言っとくが、俺ぁ殺す気で戦っていた。だが、その攻撃をお前達が凌いだ……それだけの事だ」


 カザンさんは素っ気無く言い放った。でも、穴を開けて逃げ場所を用意してくれたり、見張りの虫を倒してくれたのは事実だ。

 そして僕には、どうしてカザンさんが僕たちを助けてくれたのか……その理由に心当たりがあった。



 さっきの戦いで、僕は必死にシンへ魔力を供給していた。

 もっと多く、もっと強く……際限なく僕の魔力を吸収するシンに、僕は何とも言えない一体感を感じていた。


 もっと深く……そう思った時だった。僕の意識は途切れ、僕の身体ごとシンの中へと流れ込んでいった。気づけば僕は、鎧となってシンの身体を包み込んでいた。


 何の違和感も無かった。まるで、これが本来の形であるかのように。


 カザンさんとの戦いの中、戦斧と鎧が合わさる度に……僕の中にカザンさんの魂の情報、記憶が流れ込んできた。

 その映像を見た僕は確信した。『この人は信用できる人だ』と。きっとカザンさんも、同じように僕たちの記憶を垣間見て、考えを変えたのだと思う。


 シンも見たはず……そう思ってシンの顔を見ると、シンは虚な目で遠くを見つめ、その顔は青ざめていた。


「し、シン……どうしたの、大丈夫?」

「え……あ、あぁ……悪い、少し疲れただけだ」


 確かに、あんな戦いの後じゃ心身ともに疲れちゃうよね。


「気合い注入しとく?」

「いや、大丈夫だ。ありがとな、タツ」


 シンはいつもの感じに戻っていた。顔色も戻ってるし、シンが大丈夫だと言うなら大丈夫なんだとは思うけど……少し引っかかるなぁ。



「セコーモの野郎が見た最後の光景がこれなら、俺たちは死んだと思われているはずだ」


 僕の心配をよそに、シンが地面を指差す。

 自分の使い魔を巻き込むほどの爆発……僕たちが生きているなんて思わないはずだ。


「そうだね、今が動くチャンスだね!」


 僕たちが戦っている間に、戦況にも変化が起きていた。


「東山道の戦いは終わったみたいだよ。ヴィクターのニ人はやられたみたい。レヴェナントも傭兵団の人たちがやっつけてるね」

「そうか」


「セコーモは虫を全部引っ込めたみたい。残ったレヴェナントを集めて南の入り口に向かってるよ。坑道には地獄炉……入り口にはプラームがいるね。人質は変わらず牢屋にいるけど、今なら誰もいないよ!」

「ほー、相手の位置が分かるのか? そりゃ便利だ」


 カザンさんが、僕の力に感心しているみたいだ。ふふ、もっと褒めてもいいんだよ?



「よし。タツ、お前は今すぐダイコク達の元へ行くんだ。あいつらのところへ行くなら、飛べるお前が一番早いッ」

「え?」


 耳を疑った。

 せっかく合流できたんだから、このまま一緒に行動すると思ってたよ。



「人質は必ず俺が解放する。だから、この事をダイコク達に伝えるんだ。あいつらが傭兵団と戦う必要はもう無い。解放したら東門に向かわせるから、そこで合流するよう伝えて欲しい」


 シンの言葉を聞いたカザンさんが、その言葉に納得したのか静かに笑いを漏らし、光と共に現れたダインに跨った。



「俺はこのまま南から突っ込む。せいぜい暴れてやるから人質は頼んだぞ」

「……頼むから村を吹っ飛ばさないでくれよ?」


「おいおい、誰にもの言ってんだ。俺は『全滅のカザン』様だぜ」

「だから心配なんだよ! カイやモンゾーだって──」

「あ、そのニ人なら生きてるよ」


 はぁ? とシンが僕へと視線を向ける。



「え、えと……っていうか傭兵団の人たちと一緒に行動してるよ」

「た、タツ! 何で早く言わないんだ!?」

「だって、シンもニ人のこと特に話題に出さなかったし。言う暇もなかったしさぁ」


「へッ、まぁそういうこった。俺たちに同行してたアマツクニの巫女がA・Sオールシフターでな。瀕死の人間ニ人までなら治せるっていうから、殺したふりして持って帰ったのさ。だから余分にテメェをやっちまった時は焦ったぜ」

「それじゃあ、そのニ人から僕たちの状況は聞いてたんだね?」


「まぁな。『このまま逃げることはできない』って言うから、鎧を着せてあいつらと行動させてんのさ」

「そうか……生きてたのか」


 シンが顔を伏せている。殺されたと思っていた二人が生きてたんだ……泣きたいくらい嬉しいよね。



「さぁ、お喋りしてる暇はねぇぞ。俺はもう行く。お前達も抜かるなよ」

「カザン、その……色々とすまん。俺はシン、こっちがタツだ」


「……知ってるよ。じゃあなシン、タツ。また後でな」


 そう言ってカザンさんは、ダインと共に走り去っていった。



「俺も行く。タツ……頼んだぞ」

「うん!」



 シンがカザンさんの後を猛スピードで追いかけていく。僕は跳躍し、翼をはためかせ東へと進路をとった────



 ☆



 ────山を越え、僕はダイコクさんたちの上空へと到着した。レヴェナントは既にやられたみたいで、村人衆が傭兵団と向かい合っている。


 僕は声を出すより先に、滑空しながら両者の間に思いっきり火を吹き込んだ。



「あちちちちちッ!!」

「ひッ、火ぃ!?」


 両者の動きが止まり、全員の視線が空にいる僕へと集まった。



「終わり! 終わりだよ!! 人質はもう大丈夫だから!!」


 僕の叫びに、ダイコクさんたちは目を白黒させている。


「た、タツ? って飛んでる!?」

「細かいことは後ッ! シンが人質を解放してるから、東門で合流してみんなで逃げて!!」


 僕がシンを確認すると、シンは既に人質を解放していた。行動が早い!

 予定通りみんなが東門へと向かってきている。でも、その中にシンの姿はない。一人で坑道に向かってるみたいだ。



「早く! 今はカザンさんが敵を引きつけてくれてる、今のうちに村から離れるんだ!!」

「わ、分かった!!」


 そう言ってダイコクさんたちは村へと引き返して行った。その後を傭兵団の人たちがついて行き、入り口近くで二つに分かれ道を開けている。どうやら殿をしてくれるみたいだ。

 少し離れた山中には、虹色の魂を含めた強い光が五つ……多分シロガネ族が、事の成り行きを見守っているんだと思う。


 南門ではカザンさんがセコーモと、坑道ではシンがプラームと対峙している。



 僕は急いでシンの元へと飛び立った。でも、鉱山街にもう一つ問題があることを思い出したんだ。



「あの雲……あれを何とかしないと!」


 僕はシンを信じて方向を変えた。向かった先は展望台……そのてっぺんで瘴気雲を発生させている装置だ。

 展望台へと着地した僕は、ドロドロと絶え間なく瘴気を吹き上げる、巨大なツボのような装置の元へと駆け寄った。



「え、えーと。どうしよう……」


 来てはみたものの、どうすればいいか分からない。見た感じスイッチも無さそうだし、止め方が全く分からない。

 でも、そのツボの中心に怪しげな宝石が輝いていて、宝石から血管のようなものが伸びてツボ全体を覆っている。



「これを壊せば止まるかな?」


 どう見ても動力源でしょ! そう思い立ち、僕は拳に力を込めた。でも、少し躊躇した。


(……爆発とかしたらどうしよう。いや……迷ってる暇はないんだ。岩をも砕く僕の拳を味わってみるがいいッ!)


 僕はシンの見様見真似で、力を込めた拳を宝石へと叩き込んだ。



「あだああぁぁぁ!!」


 その宝石はびくともせず、傷一つない。反対に僕の拳が真っ赤に腫れ上がってしまった。



「こ、こいつ……僕の魔力をッ」


 そう……拳が触れた瞬間、宝石に僕の魔力が一気に吸い取られてしまった。心なしか、さっきより元気に瘴気を立ち上らせている気がする。



「く、くそぅ……そっちがその気なら!」


 僕が両手を宝石にあてがうと、宝石が僕の魔力を吸い上げ始める。


 シンに魔力を与えることができるんだ。なら吸うことだってできるはず。

 僕は一気にツボから魔力を吸い上げた。ツボから流れ込んでくる魔力は、正直気持ちのいいものでは無かった。でも、その闇に満ちた魔力が、僕の中で光ある魔力へと変換されていくのが分かる。


 ツボから発生する瘴気が徐々に減ってきている。でも、停止するには至らない。

 遠くからは戦闘の音が聞こえてくる。早くこのツボを停止させて、シンに合流しないと!



 焦る僕とツボの、吸って吸われての長い戦いが始まった────。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?