目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第20話:二人の戦い

 ────僕は、がむしゃらに南の山道を走っていた。


 今から数分前、僕の独房にセコーモの本体がやってきた。セコーモは不服そうな顔をしながら、僕を解放した。そして……シンの元へ行けと。


 無数のレヴェナントをすり抜け、丘を駆け上がる。僕に気づいた村の人が何かを言ってくるけど、僕は止まらない。一直線に、僕が最もよく知る魂の元へと駆けつけた。



「シンッ!!」

「よぉ、タツ! 来てくれたか!!」


 シンが手を挙げ、僕を陽気に迎えてくれる。



「シン、怪我は!? 僕……シンが死んじゃうかもって……」

「確かに死にかけたが大丈夫だ。こいつのおかげでな」


 そう言ってシンは、腰袋から輝きを失った太陽石を取り出した。


「そっか。役に立ったんだそれ……」

「あぁ、さすがだなタツ」


 シンが歯を見せながら笑いかけてくる。

 何だかシンの様子が、いやに明るいような……。



「タツ、色々と話したいことがあるがそれは後だ。今お前が分かる状況を教えてくれないか?」

「う、うん」


 僕は言われた通り、周りの状況を探り始めた。



「東の山道では、ヴィクターの二人が戦ってるよ。相手は五人……みんなすごい力を持ってる。多分女性だね」


 五人それぞれが凄まじい力を持っている。

 シンのように金色のオーラを纏った五つの魂。そしてその中の一つは、美しい虹色の魂だ。もしかしてこれが、変幻の魂を持つA・Sオールシフターと呼ばれる人の魂なのだろうか? この人だけは別格と言える強さを感じる。

 太陽石のように七色に変化するその魂は力強く、そして同時に家の灯りのような優しさを感じさせてくれる。僕はその美しすぎる魂に魅入られ、我を忘れてしまいそうになった。



『シロガネ族だ。今はバジクとグリジャスの二人が足止めしているが……』


 セコーモの言葉が詰まる。

 そう、このシロガネ族の女性達は一人一人がヴィクターを大きく凌ぐ力を持っている。きっとヴィクターにとっても、このシロガネ族の強さは予想外だったのだろう。グリジャスの泥が何とか足止めしている様だけど……突破されるのも時間の問題だね。



 次に僕は目の前の丘に視線を移した。丘の頂には、金色のオーラを纏う深紅の魂が視えた。

 全てを焼き尽くさんと威圧するような魂に、身体がガタガタと震えてしまう。僕は一度強く目を閉じ、大きく深呼吸してから口を開いた。



「丘の上にはカザンがいるよ。他の傭兵の人達は……移動してるね。強い力を持った二人が先頭にいるよ」

「カシュー……それにペロンド、だったか」


『移動しているだと? どこへ行く気だ?』

「多分、森を抜けて東の山道に行く気じゃないかな?」


 彼等は馬に乗っていない歩兵部隊だ。道なき道でも行けない事はない。



『な、何だと? じゃあ奴らはそのまま村へ──』

「いや、それはない」


 シンが自信たっぷりにセコーモの言葉を否定した。


「カシューが……あいつらが俺たちを無視して村に入るはずがない」

「シン……」


 僕はシンをずっと視ていたけど、会話を聞いていたわけではない。そのカシューという人と何か話したのかな? シンの言葉からは、カシューという人に対しての信頼のようなものが感じられた。


「シンの言う通り、村を目指してるんじゃないみたい。多分、バジク達のところに向かってるよ」

『背後を突くつもりか……クソッ、まずいぞ』


 シロガネ族の五人に苦戦しているんだ。ここにカザン傭兵団の横槍が入れば、間違いなくヴィクターの二人はやられるはずだ。後方にレヴェナント達を配置してるけど……恐らく時間稼ぎにもならないと思う。



『クソ! クソッ!! どこから手をつければッ──』


 セコーモが苛立ちを隠せずにいる。彼は偵察兵としての役目と共に、全体の指揮も一任されているようだ。虫が首を何度も捻り回している。



「おい、セコーモ」

『な……何だ?』


「俺に考えがある」

『何だとッ?』


 シンの言葉にセコーモが食い付く。


「まずはここにいる男達を、東の山道にいるレヴェナントの後ろに移動させろ。ヴィクター達がやられたらレヴェナントで、レヴェナントがやられたら村人達で時間稼ぎするんだ」

『こいつらを移動させて何になる!? 相手はシロガネ族とカザン傭兵団だぞ!!』


「シロガネ族はどうか知らんが、少なくともカザン傭兵団は俺達の立場を汲んでくれていた。案外、シロガネ族を止めてくれるかもしれんぞ?」

『ぐぅ……だが、カザンはどうする? 奴は陣地に残ったままなんだろう? 奴を何とかしないことには──』


「カザンは、俺とタツで何とかする」

『何とかするだと!? 手も足も出ずにやられていたではないかッ!!』


「足は出たぞ。それにな、このままじゃカザンに皆殺しにされるだけだ。あいつの力を見ただろ? いや、力なんてまだ見せてない。素でアレなんだ。お前達であいつを食い止めれるのか?」

『ぐッ……』


「なら俺とタツに賭けても惜しくはないだろ? ここにいるレヴェナント達を全部カザンに当てて、少しでも時間を稼ぐんだ。その後に、俺とタツがカザンの相手をする」

『……分かった。その通りにしよう』


 セコーモがシンの提案を全面的に認めた。というより、もうそれしか手が無いのだと思う。多分ヴィクター達が束になってもカザンには敵わない。そこを突いて主導権を握ったシンのファインプレーだね。これでとりあえず、ダイコクさん達が戦うのをギリギリまで引き延ばせる。


 セコーモの指示でダイコクさん達は村を通って東の山道へ向かい、レヴェナント達がカザンのいる丘の麓に向けて動き出した。



「タツ」


 シンが背中を向けて僕の名前を呼んだ。僕はその意図を理解し、シンの背中に飛び乗った。



(シン……無事でよかったよ)

(あぁ。このまま逃げてもいいんだが、色んな奴らに借りができてな。悪いが付き合ってくれるか?)


(シンがそうしたいなら、僕は構わないよ)

(ありがとな。タツ、セコーモの野郎の虫の数は分かるか?)


(僕たちの周りにニ匹いるよ。一匹はすぐ近くだけど……もう一匹は空を飛んでるね)

(そうか、分かった)



「なぁ、タツ」

「な、何?」


 念話ではなく、声で話し始めたシンに少しびっくりしてしまった。セコーモに聞かれても大丈夫なのかな?


「俺さ、この世界に来たのがお前と二人で本当に良かったと思ってる」

「うん、僕もだよ」



 ──何だろう。



「お前のことは親友だと思ってる。でも、それ以上に家族っていうか……弟みたいなもんだと思ってる」

「え、僕が弟なの!?」

「ははッ、誰が見たってそうだろう? 一応俺の方が年上なんだし。だからさ、弟は兄である俺が守らなくっちゃ……そう思ってた」  



 シンの様子が、今までと違う。



「俺がお前を守る、そう思ってやってきた。今までも、これからだって……でも違う、違うんだ」



 この世界に来ても、シンはいつも通りの優しいシンだった。



「カザンにぶっ殺されかけて……分かったんだよ」



 でもシンは、どこかで僕以外の人と壁を作っていた。



「俺が一方的にお前を守る……そんな関係じゃない。俺達はそういう仲じゃないんだ!」



 それはまるで、裏切られた時に少しでも傷を軽くする為の様に。



で戦うんだッ……俺達二人でやるんだよ!!」



 どこか陰りを見せていたシンの魂。でも今は────



「俺たち二人なら……相手が誰だろうと負けたりしない!!」



 ────太陽のように輝く、金色の魂がそこにあった。



「タツ……俺達二人で、カザンの野郎をぶっ飛ばしてやろうぜ」

「──うん!!」


 この瞬間、僕の中で何かが変わったのを強く感じた。

 心の垣根は取り払われ、より深くシンと繋がったのを感じる。【護られる存在】から、【共に戦う仲間】へと僕は変わったんだ。


 こうして僕達の、二人の戦いは始まった────。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?