「ねぇ、シン。これ見てよ」
そう言ってタツが和紙に包まれた物体を俺に見せてくる。
「……なんだこれ。ウ○コか?」
「ウ○コなワケないでしょ! そもそも色が違うでしょ!?」
確かにその物体は金色に光り輝いている。
「光るウ○コか」
「かりんとうだよッ、かりんとう!! 作った人に怒られるよ!!」
「何でかりんとうが光ってるんだよ」
「ふふん、よくぞ聞いてくれました」
タツが得意げな顔で鼻を鳴らす。嫌な予感しかしない。
「前に太陽石でシンの魔力……かな? 回復したことがあったじゃん?」
「あぁ、あれね」
俺たちは今、村周辺の森のパトロールをしている。
「正直時間がかかりすぎるな。お前に気合注入してもらった方が話が早い」
ポーション代わりになると思って太陽石での回復を試みたのだが……はっきり言って即効性がない。
例えるなら、タツのは『即効性バリバリの栄養ドリンクを一気に血管に流し込まれる』感じ。太陽石は『栄養満点の飴玉を少しずつ溶かしていく』といった感じだろうか。
コウタのように脚に巻き付け一日待つとかなら問題ないが、正直戦闘中にそんな悠長なことはしてられない。……まぁ、大した戦闘もしていないのだが。
「でしょ? そこで僕考えたんだ!」
ニコニコとタツが、手に持った光り輝くかりんとうをズイッと押し出してくる。
「肌からじゃなくて、経口接種したらどうかなって!」
「経口接種って……これ、もしかして太陽石か?」
「うん、太陽石の粉末をかりんとうにまぶしたんだ!」
……でた。タツの悪い癖が。
俺は料理が好きだ。そしてタツも俺と一緒に料理をしたがるのだが、はっきり言ってセンスがない。変な料理ばかり作るわけではないのだが、どこかズレている。『美味しいものと美味しいものが合わされば、もっと美味しくなる』……そう考えているのだ。それが吉となる時もあるが、大体は凶となる。
タツはコウタにもらったかりんとうにエラく感動していた。美味しいかりんとうに太陽石を組み合わせれば素晴らしいものになる、とでも考えたのではないだろうか。
「いやぁ〜、かりんとうにすっかりハマっちゃってね! これなら美味しく食べれると思うんだ!!」
だよね。分かってるんだよ、タツの思考は。そして、タツの実験台に選ばれるのは……もちろん俺だ。
「美味しくって……石だろこれ? 食えんのかよ。毒性とか──」
「僕も昨日食べたけど大丈夫だったよ!」
こいついつの間にッ。
正直全く食う気はしないが、タツが折角作ったものを拒否するのは……気が引ける。善意全開なのが厄介なんだよな。
「はいどうぞ」
「あ、あぁ……」
タツの笑顔に負けて、紙の上に乗ったかりんとうをつまみ上げる。……なるほど太陽石の粉末か。つまんだ指にザラザラとした触感が伝わる。
「今お腹いっぱいで……」
「甘いものは別腹でしょ?」
(……仕方ないか)
意を決し、俺は光り輝くかりんとうを口に放り込んだ。
口の中に入れた瞬間、太陽石の粉末が口中に纏わり付く。その不快な感触に耐えながら舌で粉末を絡め取り、かりんとう本体と一緒に咀嚼していく。
口の中に血を思わせるような鉄の味が広がる。口の中を怪我したのではないかと錯覚するほどだ。かりんとう本体の甘さが援護しようとしてくれるが、それを待つ余裕はない。すぐさま飲み込むことにする。
「ぐ……う……ぐはぁッ」
「どう?」
「……俺がかりんとう職人だったなら、助走をつけてブン殴るな」
「そ、そんな!? 僕が食べた時はそこまで不味くなかったけどなぁ……」
すまんな、タツ。
出されたものは食べるが、味の感想は正直に言わせてもらう。今後のためにもな!
「そ、それで……魔力の方はどう?」
「ん?」
酷い味にメインの効果を忘れてたわ。
「……お、効いてる。お前ほどじゃないがな」
「ホントに!?」
今言った通りタツには及ばないが、魔力は回復している。例えるなら、『即効性のある栄養ドリンクを普通に飲んだ』と言った感じか。
「よかった、やっぱり効果ありなんだね。早速量産しないと────」
「ちょっと待て」
「どうしたの?」
「タツ、太陽石は高価なもんなんだろう? そんなお菓子に使っていいのか?」
「ケンさんから、太陽石を加工した時に出たかけらや粉末をもらったんだ。まだまだいっぱいあるから大丈夫だよ! それにシンもいっぱいお金持ってるでしょ?」
……確かに。実はこの前ダイコク達とチンチロをして超・大勝ちしたのだ。俺ってこんなにギャンブル強かったんだ! と感動したのだが、まぁそれは別の話。
「その……やっぱり、石を口に入れるのは抵抗がある。ウ○コしたらケツも切れそうで怖いし……」
「そっかぁ。消化されずにそのまま排出されると危ないかもしれないね」
お? これは回避できそうか?
「そうそう、だから今回は──」
「そうだね、もっと細かくしてみるよ! あと味の方も研究してみるね!!」
「あ、あぁ……」
タツは完全にやる気スイッチが入っている。今色んなことを考えているのだろう。あーでもないこーでもない、と言いながらウロウロしている。
こっちに振り向いたタツの顔は、とても楽しそうで──幸せそうだった。
まったく……こんな顔をしやがるから、断りきれないんだよなぁ。
「待っててねシン! いつか完璧な【太陽のかりんとう】を完成させてみせるよ!!」