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第17話

 先週日曜日の大事件から早くも一週間が経ち、次の日曜日がやってきました。

 この一週間は私にとっては時間の流れがとても早く感じられるものでした。学校では大体あの日のことを考えてしまって授業に全く集中できず、気が付けば一週間が終わっていたという感覚です。

 先週は土曜・日曜と続けて遊んでいた私と紅歌ちゃん、咲良ちゃんですが、流石にあんな事件に巻き込まれたばかりで精神的にも参っていたということもあって、今週の休日はそれぞれお家でゆっくり休むことにしました。

 そんな日曜日もあっという間に日没です。

 私は一日中パジャマ姿のまま、だらだらごろごろと過ごしていました。一応自分の名誉の為に言っておきますが、こんな自堕落は極めて稀です。本当です。

 高校生の本分は学業ですが、休日に勉強するようなやる気も元気も無く、かといって特にやることも無く。スマホで日曜日の事件関連のネットニュースを色々見て回っていた私でしたがやがて手持ち無沙汰になって、何となくSNSを見に行きました。

 取り留めもなくタイムラインを見ていると、話題になっているのは大体が先週の事件と、ヒーローの事。

 一週間が経っても、ヒーローや彼らが対峙していた少女の正体に繋がるような続報は何もありませんでした。

 どころか、再び彼らが現れるような事件も起こりませんでした。

 大きな事件が起こらないというのは平和で良いことだと私には思えるのですが、そうは思わない人達もいるようです。「正義のヒーローの活躍が見たいから何か大きな事件でも起こらないかな」というような意見も目に付きました。

 センセーショナルでインパクトの強い先週の事件は人々の心を強く掴み、そして何も起こらなかった平和な一週間は少し物足りなかったようです。

 私だって最近世の中の平凡さに物足りなさを感じていたお年頃ですし、初めてヒーローが姿を見せたタワーマンションでの事件の際には、興奮して舞い上がって一人で色々盛り上がっていました。

 けれど今の私はどうにもそんな気分にはなれません。あの頃と比べて情報も増え、世の中でも一大トレンドとして盛り上がり、ニュース番組以外でも話題になり何度も特番が組まれるほど、社会全体が注目しているほどの熱気にも関わらず、です。

 自分が今どうしてこんな心境でいるなのか、私自身にもよく分かりません。この一週間ずっともやもやとした気持ちを抱えて過ごしていました。

 手持ち無沙汰でやることの無い、そんな平凡な日曜日。

 いい機会なので、私はそんな自分の胸中について冷静に言語化してみようと思い立ちました。

 スマートフォンを脇に置いて、仰向けに寝転んだまま目を閉じます。

 外から眺めているだけだったタワーマンションの事件。実際に現場の近くへ居合わせた浅草未来街の事件。それらにまつわる報道、学校やSNSで触れる声。事件に対する、友人達の反応。

 それらをぐるぐると頭の中で思い浮かべて、考えて。

 そうしてようやっと、私はなんとなく分かりました。

 今私が感じているもやもやした気持ちについて分かりました。

 多分私は、正義のヒーローという存在についてのあれこれを、自分の好奇心を満たす為の娯楽の一つとして消費したくなかったのだと思います。

 ここ最近目まぐるしく起こったあれこれはあまりにも衝撃的で常識外れで非現実的でした。それ故に、自分が生きる世界とは離れた場所の出来事のようにも思えます。

 けれど、実際にこの世界で起きた出来事なのです。傷付いて不幸な目に遭った方が現実にいる事件なのです。そしてあのヒーロー達も実際にこの世界で生きているのです。

 ヒーローがこの星の人間なのか、私達と同じ生き物なのか、それはまだ分かっていませんが。その存在が現実に居るということは確かなのです。

 そんな実在する彼らについて好き勝手に色々妄想を繰り広げることは娯楽の道具として彼らを利用しているようで、私はなんだか嫌でした。

 なるほど、私はそれが気に食わなくてもやもやしていたのかと。一人で勝手に納得します。

 だからといってそのもやもやは晴れません。あくまで原因が分かっただけ。そしてその原因は私が取り除こうと思っていくら頑張ったとしてもどうしようもないようなものでした。けれど自分がなんとなく抱いていた思考を言語化できたことで、多少すっきりはしたようです。

 今日はもうスマホを放っぽってSNSもネットニュースも見ないで過ごそうかなと、なんとなくそんなことを思っていた矢先。

 脇に置いていたスマホに着信がありました。

 呼び出し画面に表示されている名前は紅歌ちゃん。

 なんだろう、明日までの提出物について確認でもしたいのかなと、呑気な思考でトグルをスライドして応答します。


「もしもし、紅歌ちゃん、どうしたの? 宿題についてだったら数Aのプリントと――」

『――奈留! ニュース見てるか!? なんかヤバいぞ!』


 開口一番、切羽詰まった様子な友人の声に私はなんかヤバいらしいということをすぐに悟って、急いでテレビをつけました。

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