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第9話 隠された思惑

 街での視察を終えシーナを家に送り届けてから一人屋敷へ戻ったカネリアは、すぐにでも風呂場に向かってその後はさっさとベッドで寝てしまいたいという衝動に抗って、執務室へと向かった。

 部屋に入るとすぐに扉を閉めて、窓のカーテンを閉じる。

 それから誰もいない部屋の中に向き直って、呼びかけた。


「――ウィンアットさん、いらっしゃるのでしょう。……あまり驚かさない登場の仕方でお願いします」


 そんな呼びかけの直後、彼女は急に背後から気配を感じた。


「久し振りだな、カネリア」

「きゃああああああああああああッ!?」


 誰もいなかったはずの後ろから声をかけられた彼女は悲鳴を上げて飛び退く。


「お、おおお、驚かさないでと、お願いしたじゃないですか……!」

「驚ろかそうとはしていない」

「じゃあ、普通に、正面から、扉を開けて入ってきてください……!」


 まだ心臓が跳ねているのか、ぜいぜいと息を荒げながら懇願するカネリア。

 そんな彼女に、勇者パーティの隠密担当――暗殺者ウィンアット・マーリシ・ナイトは肩を竦めた。


 肩の上辺りで雑に切られた灰色の髪に、繊細な印象のある中性的な顔立ち。上背の無いカネリアより更に目線が一つ下がる小柄で肉付きの薄い身体。

 しかしそれがウィンアットの本当の姿であるのかは、カネリアにはわからない。

 諜報活動であちこちに潜入することの多いウィンアットはことあるごとに姿形を変えるので、男なのか女なのかも定かではないのだ。


「どこから現れようとオレの勝手だ。そしてそんなことはどうでもいい」


 声変わり前の少年のような声で言いながら、ウィンアットは腕を組む。


「カネリア。街の視察など屋敷を出るような仕事の際はパーティのメンバーを連れて行く決まりだったはずだ。オレが不在の間に、取り決めが変わったのか?」

「い、いえ……。そういうわけではありません」


 性別不詳、正体不明の暗殺者から問い詰められてカネリアは目を伏せる。


「ただ、今日はご主人様に同行をお願いするのが忍びなく……。言いつけを破って、一人で視察へ出ていました。申し訳ございません」


 彼女は深々と頭を下げて謝罪する。スフィネル達からの言いつけを破ったのだ。懲罰、折檻の覚悟をしなければならないだろう。

 全て己が悪いとはいえ、彼女の気分は重たかった。

 勇者パーティの中で誰から一番お仕置きされたくないかと言えば、一番はご主人様なのだが、ほとんど同率でウィンアットからのお仕置きも嫌だった。暗殺者からのお仕置き。怖すぎる。


 そして何より、カネリアはこのウィンアットのことが、密かに苦手であった。


「言いつけを破って、か……。意外だな。お前が命令を無視するとは」

「…………」


 その冷たく抑揚の乏しい声は、聞いていると時たま首元に刃を押し当てられているような錯覚に陥る。

 その鋭い眼差しは、こちらの一挙手一投足を掌握し殺し方を何通りも考えているような気配がある。


 実際には、カネリアにウィンアットから直接暴力的な扱いを受けたり命を狙われたような経験は無い。

 だからその雰囲気や所作だけ見て一方的に怖がり苦手意識を持つのは失礼なことだと思っているのだが――こうして相対すると、どうしても胸のざわつく感覚が拭えなかった。


「街中でも不測の事態は起こり得る。ただでさえ勇者の肩書は厄介事を招きやすい。お前の手には余るような、な」

「……先程は、助けていただきありがとうございました」


 謝罪のため下げた頭をそのままに、窮地を救われた事へのお礼も述べる。

 街で大勢の冒険者から襲われた際に彼らを気絶させ無力化したのはウィンアットであるということに、カネリアは気付いていた。

 今までにも何度か、身に迫った危険から何度か助けてもらったことがあったからだ。


「あんな些事で礼など言うな――お前は、勇者カネリアなのだろう。下げた頭も見たくない。顔を上げろ」

「す、すみません……」


 言われて怖ず怖ずと顔を上げたカネリアは、しかしじいっとを見つめてくる暗殺者相手にどう接したものかわからない。

 謝罪もするな、礼も言うなと言われれば、後は世間話くらいしかすることがないのだが……。


 思えば彼女は、これまでウィンアットと二人っきりになったことがほとんど無かった。振る舞い方に難儀する。

 ウィンアット自身も口数が多い方では無いし、無言で見つめてくるだけで何も言ってこない。しばらく無音の時間が続く。

 まさか用事がないなら帰って下さいなんて言えるわけもなく……。


「……えっと、ハーブティーを淹れようと思うのですが、ウィンアットさんもいかがですか?」

「……いただこう」


 毎日何杯も飲み過ぎてそろそろ心労回復効果が得られなくなってきているのではないかと不安なハーブティー。

 しかし準備の時間は無言でも何となく間が持つし、淹れてからもカップに口をつけている間は喋らなくていいので気不味い相手との場を保たせるには良いアイテムなのだ。


「……ウィンアットさんは、いつ街に戻られたんですか?」


 そういうわけで。

 二人分のお茶を用意し応接用のソファに腰を下ろしたカネリアは、一口ハーブティーを味わってから向かいに座るウィンアットに水を向けた。


「つい先程だ。屋敷へ戻る途中で人集りを見つけたから確認に向かってみれば、お前が往来で冒険者達に襲われていたというわけだ」

「そうでしたか……。では私は、危機一髪だったというわけですね」


 てっきり今日一日ウィンアットに尾行されてこっそり警護されていたのかと考えていたカネリアだが、そうではなかったらしい。

 あの絶体絶命の瞬間に、この頼りになる暗殺者が駆けつけてくれたことは、幸運だったと言えるだろう。


「まったく……。暗殺者にとって、殺すことより殺さないことの方が難しい。あの瞬間で全員の首を繋げたまま鎮圧したことを褒めて欲しいものだな」


 淡々とした口調でそう告げて、ウィンアットはカップに口をつける。

 あの場で冒険者達の首が次々にトんでいれば、たちまち地獄絵図だったことだろう。カネリアの名前も一気に世間から恐れられる結果になっていたはずだ。

 想像するだに恐ろしい。そうならなくて本当に良かったと、彼女は小さく息を吐いた。


「重ね重ね、ありがとうございました」


 けれどそんなカネリアに、ウィンアットはちらりと不満げな眼差しを向ける。


「……カネリア。オレは、褒めて欲しいものだな、と言った。礼など求めていない。褒めて欲しいものだな」

「え、えっと……? さすがはウィンアットさん、すごいですね……?」

「ああ」


 戸惑い混じりなカネリアの称賛に、暗殺者は目を閉じて再びカップに口をつけた。


「…………」

「…………」


 やはり何を考えているのかわからない人だ、とカネリアは思った。


「――ところで、スフィネルはどうした? あいつも今街にいるんだろう?」

「は、はい。いらっしゃいます。今は恐らく、ご自分のお部屋か研究室にいらっしゃると思います」


 話題がご主人様についてのことに変わり、カネリアは無意識に姿勢を正す。


「にも関わらず、お前はどうして一人で街を歩いていた? ……いい加減、あいつといるのに疲れたか? あいつの振る舞いに嫌なところがあればオレから言っておくが……」

「い、いえ! ご主人様が悪いとか、ご主人様が嫌とかいうわけではありません! 確かに色々とおかしい方だとは思いますが!!」


 勢い余って口が滑ったことにも気が付かないほど、彼女は慌ててそう返した。


「ただ……。今は少し、合わせる顔がないと言いますか……。ご主人様の前に、私は顔を見せない方が良いと思うのです」


 ここ数日でスフィネルとの間で起こった色々をどう説明したらよいものか言葉に悩んで、目を伏せながら彼女は答えた。


「……全て私が悪いのです。私が余計なことを考えず、言われた通りに勇者様の振りをしていればよかったのかもしれません。――そもそも、私が偽物であるから悪いのです」


 カネリアに対してかつての勇者の面影を重ねるスフィネルを、彼女は「自分は勇者の代わりにはなれない」と言うことで追い詰めた。

 ご主人様のことを考えて発言したつもりだったが、彼女を苦しめる結果になってしまった。

 本物の勇者であれば、彼女をあんな風には傷付けなかっただろうに。


「――くだらんな」


 不意に返ってきたウィンアットの言葉。ほとんど温度感の無い声色。


「あっ、す、すみません!」


 冷たい呟きに、カネリアは慌てて顔を上げる。

 要領を得ない回答で不快にさせてしまっただろうか。


 しかし申開きをしようにも、そこには既にウィンアットはいなかった。


「――え?」


 後に残っているのは、空になったティーカップだけ。

 入ってくる時も出ていく時も、暗殺者は突然だった。


 ◇◇◇


 辺境都市ベリルにある領主の屋敷には、限られた人間しか知らない地下室がある。

 そこは、錬金術師スフィネルの研究室。

 決して表に出せない研究成果の数々を秘匿する為、そこにはスフィネル本人の手で、カネリアの寝室の次に厳重なセキュリティが施されていた。


「――私の城に、勝手に入ってこないで欲しいんだけど。まったく、こうも易々と入りこまれたんじゃあ天才錬金術師の名折れなのよ……」

「それはこちらの台詞だ。……まだ気配を消していたんだがな」


 薄暗い地下の研究室で、スフィネルは椅子から立ち上がってウィンアットに向き直る。


「帰ってきてたのね、ウィン。お疲れ様。お茶でも飲む?」

「必要無い。もうカネリアからご馳走された」

「……へえ? へええ? いいわねぇ、美味しかった? 美味しかったでしょうねぇ。美味しかったでしょうッ!」

「たかが紅茶の一杯で嫉妬してキレるな。あと美味しかった」


 呆れたように息を吐いて受け流し、ウィンアットは打って変わって彼女を責めるような目つきで見つめる。


「ところで、相変わらずあいつにご執心なお前が、一体どういう了見だ? あいつから目を離して、一人で街を出歩かせるなんて」

「――あの子、一人で視察へ出かけてたの……?」

「正確にはシーナとかいう小娘も一緒だったがな――それよりも、訳を聞いている。あいつの事は、街にいるメンバーがしっかり守るという約束だったはずだ」

「そう……。嫌われたものね……。リアちゃん、言いつけを破ってまで、私と関わらないことを選んだんだ……。はあ……。はあぁ…………」

「……おい、オレは訳を聞いている。辛気臭いため息なんて聞かせるな」

「はぁぁああああ…………。もう嫌だぁ、部屋から出たくないよぉ……。おひさまの光が恨めしいよぉ……。こんな世界要らないよぉ……」

「……………………チッ」


 がっくりと項垂れなよなよとへたり込むスフィネルをウィンアットは無言で思いっきり蹴り飛ばした。いや、軽く舌打ちだけして蹴り飛ばした。


 目にも留まらぬ速度で繰り出された蹴りは彼女の顔面を正面から捉える。

 吹き飛ばされた身体は傍にあった機材やら薬剤やらを吹き飛ばしながら、轟音を上げて壁に激突した。

 並の冒険者なら頭部が原型を留めない程の衝撃。

 ベリルの街に集まるような高ランク冒険者であっても、一撃で昏倒させるほどの威力があった。

 そんな蹴撃をまともに喰らったスフィネルは、しかしすぐに勢いよく身体を起こして、一筋だけ垂れた鼻血を拭う。


「痛い! 酷いじゃない! ひ弱な錬金術師の顔面をいきなり蹴り飛ばすなんて何考えてんのよ! ばーかばーか!」

「……何考えてんのよはこっちの台詞だ。こんな世界要らないだと? ふざけるなよ。オレ達にはまだこの世界でやらなければならないことがある。忘れたとは言わせない」


 抑揚に乏しい、けれども確かに怒気のこもったウィンアットの声。


「――あいつを救うんじゃなかったのか、スフィネル。投げ出そうとなんてするなよ」

「――誰が、何を、投げ出そうとしてるですって……?」


 眼差しに剣呑な光を浮かべながら、ゆらりと立ち上がるスフィネル。

 そんな彼女にウィンアットは冷ややかな視線を向けながら言った。


「もう疲れたと、どうでもいいと、投げ出したいと思っているから、カネリアを放ってこんな所に引きこもっているんじゃないのか?」

「久し振りに顔を見せたと思ったら、随分勝手なことを言ってくれるよねぇ……。私が、一体、どんな気持ちで――あの子の隣にいたと思ってんのよっ!!」


 慟哭と共に床を蹴り、ウィンアットへ殴りかかるスフィネル。

 自らの肉体を改造している彼女は一流の前衛職をも凌ぐ程の身体能力を持っている。

 そんな彼女の攻撃を正面から受ければウィンアットとて無事では済まない。

 しかし、躱す素振りも防ぐ素振りも見せない。

 変わりにウィンアットは、自らの異能で己の姿形を変えた。

 そして現れた、姿を前に、スフィネルの動きはぴたりと止まる。


「……どうした? 殴らないのか?」

「ウィン、お前……ッ!」


 そこに立っていたのは、カネリア・ゴールデン・ベリル。

 スフィネルを以てしても見紛う程に再現された、カネリアの身体だった。

 顔も、声も、立ち姿もカネリアのもの。

 しかし口調だけは変えずに、ウィンアットは言う。


「あいつに危険が及ぶのなら、あいつを守れないのなら。別に領主の役割はオレが果たしたっていいんだ。……カネリアには全てが終わるまで、ここで眠っていてもらうという手だってある」

「そんなこと……!」

「カネリアにはせめて生きることを楽しんで欲しいというのは、お前が言い出したわがままだ。……オレもジャスパーもベリドートも、もちろんお前も、四六時中あいつを守れるわけじゃない。それでも誰か一人は傍にいて彼女を守るという約束で、オレは納得しているんだ」

「…………」

「お前がそれを投げ出すというのであれば、カネリアには悪いが、安全な部屋の中に引きこもってもらう。彼女の自由を束縛することになっても、彼女を喪うよりは断然良い」


 真っ直ぐにスフィネルを見つめる、カネリアの姿をしたウィンアット。

 固く握りしめた拳をその眼前で止めた彼女は、やがて吐息を溢して腕を下ろした。


「……わかってる、私が悪いのは。……全部話すから、リアちゃんの声と顔を使うのはやめてよ」

「…………ああ」


 消え入るように呟くスフィネルへ僅かに気遣うような視線を向けた後、ウィンアットは小さく頷いて元の姿へと戻った。


「えいやっ!」

「――ぶごッ!!」


 そしてその瞬間に、ウィンアットの顔面にスフィネルの拳がめり込んだ。

 先程彼女が激突したのとは反対方向の壁に叩きつけられるウィンアット。

 薄暗い研究室に再び轟音が轟き、ホコリが舞う。


「はあ、掃除しないとなぁ……。面倒臭いなぁ。掃除用ゴーレムでも作ろうかなぁ」

「お前……、ぶっ殺してやる……ッ!!」


 明確な殺意を孕んだ暗殺者の声に、スフィネルは眉一つ動かさずに言う。


「そういえば、まだお礼を言ってなかったわね。……情けない私の代わりにリアちゃんを守ってくれて、ありがとう」

「そのお礼がこれか……?」


 信じられないものを見る時の愕然とした目つきでウィンアットは呟いた。


「相変わらず頭のおかしい奴だ……。カネリアがお前に毒されないか心配だよ」


 ともあれ、ウィンアットはどこか肩の荷が下りたような感覚を覚えていた。

 スフィネルの様子がどこかおかしいことに気付いていたウィンアットは、どうにかいつもの調子を取り戻させねばと思っていた。そうでなければ、自分達の目的が果たせないからだ。

 そして蹴られ殴ってしたことで、彼女はすっかりいつもの顔つきに戻っていた。


 しかし、そんな彼女から出てきた台詞は、ウィンアットにとっては予想していなかった、意外なものだった。


「それじゃあ、リアちゃんの護衛はしばらくあなたがやってくれない?」


 怪訝そうに眉をひそめ、ウィンアットは首を傾げる。


「……就寝中ですらあいつと一緒にいたがるお前が、護衛の役目を人に譲るなんて意外だな。カネリアの話からも、くだらん喧嘩やすれ違いをしているのだろうとは思っていたが……。どうせお前が悪いんだから、早々に謝って解決してこい。陰鬱な空気に曝されるこちらも迷惑だ」

「まあ、仲直りにはタイミングがあるから……。別に、リアちゃんに合わせる顔がないとか、謝る勇気が無いとかじゃないからね? ただちょっと、街を空けて調べておかないといけないことができただけで」

「……諜報ならオレがやるが」

「別にどこかに潜入する必要は無いから。それに今回は多分、私の方が向いている」


 頑ななスフィネルにウィンアットは肩を竦める。


「そこまで言うなら構わないがな。……ただオレも、今のカネリアと接するのはあまり得意じゃないんだが」

「なに、泣き言? あなたらしくもないなぁ」


 ぎろりと睨みつけてスフィネルを黙らせたウィンアットは、ここぞとばかりに話題を変えた。


「それより、オレに護衛を任せるというならこれだけは聞かせろ――最近、カネリアに何か変わった様子は無いか?」


 ウィンアットには、スフィネルの研究室を訪問し、直接会って話さなければならないことが二つあった。

 一つは、スフィネルとカネリアの間にあるぎくしゃくした空気について。それに関してはもう何となく察しが付いた。

 そしてもう一つが、カネリア自身の変化についてだ。


 ウィンアットの問いかけに、スフィネルの瞳がきらりと光る。


「リアちゃんに変わった様子、ねぇ……。どうしてそんなことが気になるの?」

「……今日の視察で、カネリアは冒険者達から絡まれていた。殆どはオレが倒したが、オレが事態に介入する前に、あいつは一番面倒そうな二人を制圧していた……。まるで、在りし日のあいつと同じような手際でな」


 珍しく昔を懐かしむような口調のウィンアット。


「その動きに、オレは勇者カネリアの面影を見た――なあ、スフィネル。もしかしてあいつは……」

「……その可能性を確かめる為に、調査へ行ってくるのよ。深淵までね」


 そんな答えを返したスフィネルに、ウィンアットは何も言わず目を伏せた。


「今の時点ではまだなんとも言えない。仮説を立てるにも情報が少ない――けれど確実に何かが変わり始めている。そんな気がする。……だから、必要な情報を集めてくる」

「……わかった。カネリアの事は任せろ」


 何やら物言いたげでありながら、簡潔に承諾の返事をした戦友にスフィネルは笑う。


「――悪いとは思ってるよ。元々は私が言い出したわがままなのにね」


 そんな彼女に勇者パーティの暗殺者は言うのだった。


「確かにお前が言い出したわがままだが――オレ達全員が納得したわがままだ。これが最善だと判断したから、オレ達は同じ道を歩んでいる。……彼女に嘘をついてまで、な」


 地下室で行われた会話を耳にする者はその場の二人以外にはいない。

 かつて勇者カネリアが率い、魔王を討ち滅ぼしたパーティ【輝きの炎ヘリオドール】。

 彼らの現在の目的を、カネリアはまだ知らない。

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