目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第12話 縄張りの終着点

違う、これは百合のものではない。そして、百合もこの部屋に入り自分のものではないクレンジングを見つけて、わざと見える場所においていったのだろう。これは百合からのメッセージだ。



このオイルクレンジングの持ち主は明美だ。

明美は、社会人になったばかりの頃に関係を持ったことのある一人だった。

男3人で飲みに行った居酒屋で隣のテーブルが明美たちだった。明美たちもちょうど3人できっかけは覚えていないが一緒に飲むことになり、その場で全員と連絡先を交換した。


その後、明美から個別で連絡が来るようになり2人だけで出掛けることになった。近場で買い物をしご飯を食べた帰りにホテルに直行し男女の仲になった。明美は、顔は美人ではなかったがスタイルがよく、そして慣れていて積極的だった。腰をリズミカルに動かす明美に翻弄された。


その後も明美との関係は続いた。「私たちの関係って何かな?」毛穴を隠すため厚塗りのファンデーションにおかめのような濃いチーク、何枚重ねたのだろうかというバッサバサとしたつけまつげの明美から顔を近づけて問われたので「なんだろうね?俺のことはどう思っているの?」と聞き、照れて、でも少し切なそうに下を向いた隙を押し倒して話を逸らしていた。



その後、俺にもそして明美にも別の相手が出来て連絡はプツリと途絶えた。しかし、どちらかが別れ相手がいなくなると「久しぶり!元気?」とメールが来る。

暗黙の了解で言葉にはしていないがホテルへの誘いであった。行く気があれば返信をし、相手がいれば無視をしていた。そして目的を果たしたらすぐに解散。普段からのやり取りは一切しなかった。



百合と付き合ってから何度かメールが来たことはあったが無視をしていた。俺には百合がいる。百合を悲しませるようなことはしたくない。



しかし、今月の冷却期間中に明美から連絡が来た。俺は禁断症状で飢えていた。俺を求めてくれる人、そして求めたら求めた分だけ返してくれる相手を探していた。

魔が差した。俺は明美に返事をした。するとすぐに「会いたい」と連絡が来た。しかし、明美に対して尽くす気になれなかったので迎えに行くのも面倒だった。家の場所を教え、明美自ら運転して家まで来てもらい、久々に身体を交えた。百合の時とは違い、欲望を満たすだけの荒々しいものだった。


シャワーだけ浴びさせてほしいというので渋々了承してそのまま帰らせた。

それっきりだったはずだ。泊めてもいないし何度も来たわけではない。あの1回だけだ。

では何故これが俺の部屋にあるのか…。明美に電話をした。


「もしもしー昌大?電話くれるなんて珍しいねー!」俺の気分とは反対に明るい声で電話に出る明美。俺はその声に苛立ちながらも本題に入った。

「あのさ、聞きたいことがあるんだけど。クレンジング置いていった?」

「あ、あれ?気づいたの?置いていったよ」

「なんで?なんで置いていったんだよ」

「だって昌大、いつも適当にあしらうじゃない。何回エッチしても付き合おうとか言わないし、関係は何?って言っても誤魔化すでしょ。だから他にも女がいると思って。クレンジングを置いておけば他の人が別に女がいるって分かるでしょ。そうしたら相手は冷めるかもしれない。クレンジングを置くのを許すような仲の相手がいる、遊ばれているかも…って思うだろうと思って。」


俺は何も言い返せなかった。俺が百合にしたことと同じだった。

遊んでいたはずの女が、俺と同じようにマーキングをして威嚇していたのだ。


そして、こともあろうか俺が大事にしたかった百合の方がそのマーキングを見る側になってしまった。百合は誤解をしているだろう。しかし、言い逃れは出来ない…。



「私、昌大のことずっと好きだったんだよ。昌大だから何度も会ったし曖昧な関係でも、それでもいいと思ってずっと続けてきたの。何年も返信がこなかったけど、久しぶりに連絡がきたから今がチャンスだと思ったんだよね。私、昌大の事諦めないから。これからも家に行っていいかな?」



クレンジングのボトルを捨てたところで、相手は家を知っている。車で運転して来ることのできる距離にいる。そして連絡を取らなくなって時間が経つというのに諦めずに何度も連絡を寄こし、返信があれば飛んでくる。俺のことはとっくに忘れたと思っていたのに違ったのか…。


「私、昌大の事諦めないから。いつでも行くからね。」明美は落ち着いた声でそう言い放った。




百合とはそれ以降連絡を取っていない。送ってもブロックされてしまい、事の一部始終を知った友人たちからは冷ややかな目で見られ、百合との関係は終わった。





昔のことを思い出していたら、いつの間にかコーヒーがぬるくなっていた。

一気に飲み干し時計で時間を見ると、打ち合わせの時間が近づいていた。今から向かえばちょうどいい。


「今日は早く終わるといいな…。」

左薬指につけている指輪が光る。家では、明美がご飯を作り俺の帰宅を待っている。




この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?