こうして毎週のように俺は百合の身体に薔薇を刻んでいった。1週間経つと薔薇は黒ずんで痣となり、うっすらと消えていつしか見えなくなってしまう。消えてなくなる前に俺は新しい薔薇を咲かせた。
胸や首、内もも…咲かせる場所や数はその時々で変えていき新たな蕾を開かせた。
「百合…好きだよ…百合…」と呼びながら夢中で何か所もつけていった。
薔薇は色によって花言葉が違う。
赤は情熱、白は「純潔」、ピンクは「愛の誓い」そして黒は「永遠の愛」「貴方はあくまで私のもの」「決して滅びることのない愛」だ。
純潔で真っ白な百合に、俺は薔薇をつける。薔薇は時間が経つと黒になり決して滅びることのない愛へと変わる。そして…「百合、貴方はあくまで私のもの」なんだ。俺は滅びることがないよう百合の身体に薔薇を咲かせ続けた。
百合は着る服を気にするようになっていたが、特段嫌がるようなことは言わなかった。少しずつ開花しているのだと思い次の段階へと進める準備をした。
俺の言葉や行動を純粋に喜び、行為に関しても恥ずかしがりはするが嫌がらずに従う百合はマゾの気がある。目隠しだけでなく、両手首を固定するためのバンドやおもちゃの手錠、それ以外の道具も揃えていった。もし万が一のことがあっても、他の男とのセックスでは満足できず、物足りなくなって帰ってくるように俺は百合の身体を開発し欲望の沼に引きずり込もうとした。身も心も俺で染めてやろうと思った。
***
昌大は、私の胸や首すじにキスマークをつけるようになっていった。
胸は普段下着をしているので見えないにしても、首は場所によっては目立つ。百合は毎朝着替えの際に、角度によって見えないかチェックしてから家を出るようになった。
彼氏がいることは、周知の事実になっていたがそれでもキスマークを見られるのは違うと思ったし嫌だった。
その後も、胸や首、内ももなど至る所にキスマークをつけていく昌大。
「百合…好きだよ…百合…」と呼びながら何か所もつけていく。この頃にはエッチ自体の楽しみや気持ちよさも分かるようになってきたが、キスマークは別に気持ちよくもないしその後の服選びに困るので悩みの種だった。
***
そんな時に事件は起こった。
この日も俺は両胸と内ももの5か所にキスマークを付けた。
服を着る時に「温泉が好きなのにキスマークがあったら行けない。」と百合が嘆いた。
「もし何かあった時に、このキスマークが合ったら百合は俺の物だって相手が諦めるかもしれないだろ。温泉に行きたかったら俺と貸し切りにいけばいいじゃないか」
特別なことを言ったつもりはなかったが、百合は違った。
「ねぇ……今、なんて言ったの?…私のキスマークを見たら相手が諦める?それって、私が誰かの前で服を脱がないと分からないことだよね?」百合から涙が流れていた。
「え……そうじゃなくて…百合?」
「そうじゃなくて何?こんな胸や内ももにあるキスマークなんて普段の生活で誰が気づくの?見える場所じゃないでしょ?」
言葉選びを間違えた…。しかし、もう遅い。百合は哀しみで顔を歪め泣き続けている。
「もうやだ……」
「えっ?ちょっと…百合???」
「私、付き合ってからまさ君にいっぱい色んなことしてもらって幸せだった。でも最近のスマホのチェックもやましいことしていないのに見られるのは嫌だった。だけどまさ君のことが好きだし、まさ君も私のことを好きでいてくれている。お母さんのこともあって、まさ君は人よりもちょっと心配性なだけで愛情表現の一つだと思っていた。」
「………。」
「でも…今のは違う。相手が諦めるかもしれないって、私が誰かの前で裸になっている姿を想像していたってことでしょ?」
「違うんだ。百合が誰かについていくとか浮気をすると思ったわけじゃなくて、お酒に酔ったり体調が悪くなったりした時に誠実な男ばかりではない。その時に守る手段としてつけていたんだ。百合のためなんだ」
「私のため?…いつも一次会で帰っていたのに?お酒で酔いつぶれたこともないよね?」
百合は泣きながら俺を睨めてつけていた。
「私…まさ君のことが怖いよ。信じてもらえなかったのも悲しいし、このキスマークだって愛情表現じゃなくてただの動物のマーキングだよ」
百合に言われ、俺も少し納得した。確かに百合は俺のものだ、誰にも渡したくない一心でつけていた。俺は百合を独占したかった。どこにも行ってしまわないように俺の中に閉じ込めておきたかった。キスマークを見つければ相手は他の男の存在に気付くだろう。百合は俺の物だと見せつけるためだった。それは動物達が自分の縄張りを荒らされないようにつけるマーキングと変わらないのかもしれない。そして、そのきっかけは電車を変えようとしない百合への嫉妬や執着だったのかもしれない。
ただ、それでも俺は百合が拒む理由が分からなかった。
俺は百合を他の男から守るためにやったことで、拒絶される理由はない。
その後も百合と話をしたが心を開いてもらえなかった。
「まさ君は、越智君が私に興味があるとか、私が他の人の前で服を脱ぐとか勝手な妄想をしている。そして、その妄想でキスマークを付けたりスマホのチェックや行動を監視している。それは愛情じゃなくて縛り付けているだけだよ…。私、もうまさ君のことが怖い…」
百合は号泣して嗚咽交じりにそう言った。
「俺は百合のことが好きだ。百合を守るためだったんだよ。百合のことを想ってだよ。百合のことが好きで誰にも渡したくないし渡さないためのお守りみたいなものだったんだだから、嫌だ、別れたくない。俺が側にいて支えるから」5歳の頃、俺が母親に直接言えなかった言葉を百合に伝えたが響かなかった。