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第9話 薔薇の刻印

プレゼントの指輪もしていない日があると気になった。

今までもたまにつけ忘れる日はあったが、今はなんとなく嫌だった。

指輪をしていれば、彼氏がいると分かってしまうからわざと外しているのではないか?と疑ってしまう自分がいた。

「今日、指輪していないね?」

「そうなの。朝、起きるの遅くて、アクセサリー何もつけずに来ちゃったんだよね。なんかついてないと気分上がらないよー」

「つけっぱなしにしておけばいいのに」

「そうなんだけど、つけっぱなしで石が取れたり傷つくの嫌だしショックだから外しちゃうんだよね」

「その時は直せばいいんじゃない?」

「でもせっかくまさ君がくれたものだし、大事にしたいの。それに直せるかもしれないけれど。傷がついてることに気付いて凹みたくないもん」

本当はつけっぱなしにするように仕向けたくて言ったのだが、俺の意図に気付く様子もなく

「明日は早く起きて指輪つけていくね!!」と無邪気に言う百合に心の中で苦笑しつつ頭を撫でた。




こうして越智のことはありつつも俺たちの関係は続いた。3年以上経って以前のようなじゃれあって楽しく過ごすだけの関係ではなくなったが、お互いがいる生活が当たり前になれば気持ちも変わるのかもしれない。


俺は、結婚も視野に入れていくために一緒に住もうと提案した。

しかし、百合は友達が長年同棲した後に破局して引きづっているため同棲自体が嫌だと言ってきた。それは以前聞いたことがあるので嘘ではない。同棲が嫌なら結婚して一緒に暮らす生活をイメージできるように貯金を始めたり自炊中心で日常生活を考えられる環境にしていこうと話をした。



百合も貯金や自炊には賛成し半同棲が始まった。週末に泊まり、平日は時間が作れる日は俺の家でご飯を作り一緒に食べて、そのあとはお互いの家で過ごす。

最初は全然料理が出来なかった百合だが、今では冷蔵庫にある物で作れるようにまでになった。炒め物など簡単なものが多いが味付けを変えて飽きないように工夫してくれる。百合の方が仕事が早く終わることが多かったため、先に家に入り夕飯の支度をして待っていてくれた。新婚のような気分で俺はいつも仕事が早く終わらないかとワクワクしていた。



しかし、それだけでは満足できなかった。常に百合が側にいて欲しかった。

一緒に暮らせば、百合はあの電車に乗らなくなる。そして越智との関係も終わると思っていたが、同棲が叶わなくなった今、時間や環境を変えて百合を拘束するのは不可能となった。強引に進めて愛想を尽かされたら意味がない。譲歩の末の決断だったが、もっと百合を俺の中に入れ込みたかった。



気持ちは俺にある、しかし心だけでなく繋がっているものを求めた。時間が不可能だったら、身体の繋がりを深くしよう…そう考えた。


ある夜、いつものようにベッドで抱き合っていたが俺は後ろから抱きしめ百合にアイマスクをした。突然視界が真っ暗になり百合は驚いていた。

「え?何しているの?これ、何?」

「…ん?アイマスク。たまには違うことするのもいいかなって」

「えっ…え?え?別に違わなくていいよ…いつものままでいいよ」

「嫌かどうかは試してみなきゃ分からないでしょう?今日はそのままでいて」


そう言うと、動揺はしていたが素直に俺の言葉に従い何も言わなくなった。

その純粋さが可愛いと同時に他の男でも言われたら丸め込まれないか心配になった。



そして悪戯に無造作に指で百合の身体を触れてなぞったり、急に止めて反応を楽しんだ。

最初は怖がっていた百合も次第に切なそうに眉をひそめ「あっ…ひゃん…きゃ…」など声を出すようになっていった。


「ね?いつもより声が漏れているけど…イヤ?」俺はわざと意地悪に聞いてみる

「…その質問がイヤ……あっ…きゃっ……」


質問は嫌でも目隠し自体は嫌ではないということか。

俺は片方の手で身体をなぞりながら、もう片方の手で胸を掴み乳首を舐め回した。いつも以上に反応して身体を反らしている。

そして口を横に滑らし、勢いよく吸った。百合の横には赤い小さな薔薇色の跡ができた。

最初からキスマークをつけているところを見せたら嫌がるかもしれない。慣れるまではアイマスクをした方がいいかもしれないと思い目隠しをした。


つけ終わった後に目隠しを外し、鏡の前にわざと立たせてみる。

「ねぇ…この赤いの何?」

「キスマークだよ。柔らかいところに思いっきり吸うとつくんだよ」

「…そうなの?」百合は自分の胸元を見つめ指でなぞっている

「初めて?」

「…知ってるくせに。初めてに決まってるでしょ」少し怒って百合が返す。


その後は百合が怖がらないようにいつも以上に優しく丁寧に時間をかけて接した。

百合が俺なしではいられないよう心と身体で繋ぎ止めるために、ゆっくりと時間をかけてとろけさせた。


「どうだった?」

「え…どうしたの突然…。と思ってビックリした。」否定も肯定もしない百合。

「人ってね付き合うと3年で愛の形が変わるんだって。脳の仕組みらしいんだけどカップルのような一緒にいてドキドキする好きの寿命って3年らしいんだ。その後は、家族とか一緒にいて当たり前の存在になったりしてときめきが不足するんだよ。そうすると、別れを選ぶ人たちもいる。マンネリってやつみたい。俺は、百合とそうはなりたくないから新しいことをするのもいいかな。と思って」

「ふうーーーーーん。そういう物なの?…私は感じたことなかったけど、まさ君はマンネリを感じていたの?」

「感じていないよ。ただそう感じてからでは戻すのが大変だろうし、これからも百合と一緒にいたいから今のうちに色々試して刺激も楽しんだ方がいいと思って。」

「そういうもの…なんだ。新しい刺激…か」


百合は心から納得した様子ではなかったが付き合ったことが俺しかいないので分からないらしい。何か考え込むような素振りをしたがその日それ以上この出来事に触れることはなかった。



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